SEQ1――琥珀色の少女――2/4
「もうっ! しょうがないわね!」
ロードスターのボンネットを踏み台にしたライラが、俺に飛びついてきた。柔らかなライラの体の感触と、ハニーミルクのようなニオイが俺を包む。
(う……っ⁉)
ゴロゴロ……とアスファルトを転がり、最終的に俺がライラを下敷きにするような形になった。ライラは両腕で俺の顔を抱き寄せつつ押し倒す事で、ネットから俺を遠ざけてくれたらしい。
カチッ……
頭の奥で、スイッチが入るようなカンジがした。
「……B」
口の中で呟く。
(やれやれ……)
自分が笑みをこぼしている事に気付く。自虐的な笑いだ。
(ここまでされて、やっとか……)
やっと、戦うためのスイッチが入った。
「ちょっと、いつまでそうしてるのよ! このヘンタイ!」
ゴスッ。頭頂部を殴られた。
ただ、女子の胸に顔を埋めているのが褒められた行動じゃないのは確かなので――名残惜しい気分になりながらも顔を上げると、ライラは頬を赤くさせて睨んでいた。
やはり、カワイイ顔立ちをしている。ツリ目気味の目を細めて怒っているが、それでも可愛さの方が勝っているカンジだ。
「ありがとう。助かった」
そう言いつつ立ち上がり、ライラへ手を差し伸べる。ライラが戸惑いながら俺の手を握ったので、そっと引き起こしてやる。
「ほう、なるほど」
声を発したの、トリケラだった。
ヤツはゆっくり近付いてきており、俺たちとの距離は既に3mを切っていた。
「やっと本気になったという事か。貴様の実力、
声を弾ませたようにも思えたトリケラが、その歩みを止めた。
「ご指名は俺らしい。
俺は左手でライラを制し、後ろに下がらせる。ライラは逡巡ののちに、コクリと頷いた。どうやら俺の考えを読み取ってくれたらしい。
パァンッ!
先手を取り、ストームの
しかし、そうやって防がれるのは予想通りだ。今、ヤツの視界は自らの手で塞がれている。それを利用して、ヤツの背後に回り込める。
そのために、姿勢を低くして走るが、トリケラも素早く反応して突きを放ってきた。
僅かに体を捻り、突きを
さすがに1歩
「……女の顔を晒すとは、感心しないな」
フードの下から現れたのは、
「隠すにはもったいない、キレイな顔だぞ」
「……言っていろ」
切れ長の
トリケラの身長は俺とほとんど差が無いので、自然と目線が同じ高さになる。
「まあいい。そのうち、貴様には顔を知られていただろうからな」
「どういう事だ?」
「今に分かる」
不敵に笑うトリケラは、左耳に装着されている
「おっと、妙なマネはするなよ。今の状態なら、お前が剣を構えるより速く、俺がお前の頭を撃ち抜ける」
「できるのか? 貴様に」
「試してみるか? どうなるか分からないぜ」
数秒、沈黙が場を支配した。そして――
「やめておこう。それは、次の機会にな」
――と言ったトリケラと俺の間に、カランッ、と円筒状のモノが転がってきた。転がってきた方向からして、あのスイスポから投げ込まれたらしい。
(この形……マズい!
急いで蹴り飛ばすが、十分に離れる前に手榴弾が爆発した。
だが、両腕で頭をカバーした俺に、予想した衝撃は届かなかった。代わりに、真っ白い煙が辺りに立ち込める。
(煙幕……
よくよく考えれば、トリケラの仲間がヤツ自身まで危険に晒さらすような爆発物を投げ込むワケがない。これは、トリケラを逃がすための一手だ。
たちまちトリケラの姿が見えなくなる。煙の中に紛れられた……っ。
しかし、ヤツが逃げるとしたら、あのスイスポに乗るハズだ。だったら方向は分かる。
バサッ!
何かが羽ばたくような音と共に、俺の目の前に黒いレインコートを着た人間が現れた。
一瞬、トリケラが近くに潜んでいたのかと思ったが、目の前の人間はヤツより身長が低い――160㎝もない。つまり、ヤツではない別の仲間だ。
それに、コイツ、いま空から落ちてきたように……
「そこね!」
ガゥンッ、という銃声が響き、1発の銃弾が煙の中を突き抜けてきた。
(ライラのソーコムか)
銃弾は、レインコートの人間の肩口に命中した。よろめいたソイツの手には
レインコートの騎士に続いて、次は忍者かよ。どうなってんだ。
「ケイスケ!」
俺の名を呼びながら、ライラが横に並んだ。レインコートの忍者は、撃たれた肩を抑えもせずにライラの方へ顔を向けると、すぐさまその姿を煙に消した。
……ダメだ。完全に見失った。煙の量も増えている。追加の煙幕が焚かれたらしい。
遠ざかっていくエンジン音も聞こえてくる。逃げられた……
「チッ……」
しばらくして、やっと煙が晴れた。隣に立つライラは既にソーコムをホルスターに収めたらしく、素手の両拳を腰に当てていた。こうして見ると、ライラの小ささが際立つ。やはり身長は145㎝弱……143㎝ぐらいだろう。
ストームを
「ケガはなさそうね。それにしても……あんた、どうして途中から
「大した理由じゃないさ。トリケラは君を殺すような事を言っていたし、逆に俺の身柄を欲しがっていた。だから、俺がトリケラと戦って、君が別の仲間を警戒した方がいいと考えたんだ」
あのネットは、トリケラやスイスポの運転手が放ったモノではなかった。という事は、他にも仲間がいて、近くに潜んでいたと考えるのが自然だ。
それをライラも分かっていたから、あの時はすんなり後ろに下がったのだろう。
「ふーん。おかげでトリケラの顔は分かったし、上手く撃退できたんだから、理に
ヤツら取り逃がした事を『撃退』って、ライラは相当の負けず嫌いらしい。
「俺からも訊いていいか――」
「じゃあ、行きましょ」
ライラが、俺の言葉を遮った。
「行くって、どこに? ヤツらの後を追うのは、もうムリだぞ」
「それくらい分かってるわよ。そうじゃなくて、このままだと遅れるわよ。私たち」
ライラが、腕時計を指先でコツコツと叩く。
「……?」
「だから、
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