2)令和4年12月30日

 昨晩はそのまま泊まり、今日の午前で掃除が一段落したので姉と買い物に出た。子守を母に頼み、姉の車を私が運転して、ふたりで近所のショッピングセンターへ。私たちはカレンダーと手帳を選んだ。それから母にお年玉と一緒に渡す贈り物も。姉は旦那さんの実家に年賀の挨拶に行くときに持って行くものも買った。そんなのを全部合わせたら、食料品は昨日姉が買ってきてたのに、それ以外のものだけでもふたりがそれぞれ大きな紙袋とエコバッグ一つずつを満杯にする量になってしまった。

  

 買い物を終え、敷地内にあるフランチャイズのカフェに入った。親子連れが多くて結構混んでいた。私たちは小さなテーブルに椅子が向かい合わせに置かれた窓際の二人席で、足元の荷物もなるべく通路にはみ出ないように窓際に寄せた。倒れて中身が出そうになるエコバッグは、足の間に挟んで固定した。

 私がそうして荷物を見張っている間に姉がカウンターで注文をし、飲み物を持ってきてくれた。お店のロゴの入ったマグカップには、二つともホイップとソースが乗っている。姉のはチョコレートの、私のはキャラメルのソース。姉は腰掛けてトレーを真ん中に置くと、自分のカップを取ってからトレーを私のほうに押して寄せた。


 姉が一口目を飲んでカップを置いたところで、私は昨日母から聞いた話を姉にしてみた。

「大神文章さんて知ってる?」

「知ってるよ。なんで?」

「私もちょっと知り合いになってさ。でお母さんから、お姉ちゃんの同級生って聞いたから」

 大神先生はあの裁判所での手続きをするにあたり、私と姉が遺言書の主の子どもであることを、たぶん、戸籍をたどって調べている。ということは大神先生はたぶん、私の姉が自分の同級生の「フジサオさん」であることに気がついていた。

 大神先生はあのとき、フジサオさんの妹である私にどんな気持ちで「母に電話してあげて」と言ったのだろう。

 

「お姉ちゃん、お父さんとかお母さんの話したことある? 大神さんに」

「ないと思うよ。別にそんな親しくなかったし」

「え、そうなん」

「うん。なんか、クラスの目立つ女子とかからチヤホヤされてたから。私、オタクの陰キャやったし」

 私は、姉の話す大神先生が予想外で、思わず「そうなん?」と聞き返した。それに姉は「今もそうやん」とスマホケースを見せつけてきた。姉が今命を捧げているキャラクターが伝統工芸とコラボした、結構いい値段するやつ。それは知ってる。でもそっちじゃない。

「チヤホヤされてたほうよ」

 姉は、ああ、と間の抜けた声を出すとスマホをしまい、答えた。

「されてたと思うよ。私のオタ友も、誰それの実写やん、みたいな話してて。でも本人知らん顔してて、なんかそれが気取ってんなって思ってた」

「いや、それ、普通に迷惑やっただけやろ」


 姉はしみじみと「私も今話しながらそう思った」と言った。

 私は、私のあげたシュークリームをほとんど一瞬で食べてしまった大神先生を思い出し、ちょっとかわいそうになって、笑ってしまった。

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