第46話 報セル

「ピーッ、ガガッ……ええ、真っ赤な交差点に差し掛かったので、右足と左耳を捻じり捨ててから黄色いコートの女の人を乗せます。真っ赤な交差点に差し掛かったので、右足と左耳を捻じり捨ててから黄色いコートの女の人を乗せます。シートが濡れても、点滅している内に消えれば死ななくて済みますから、下を向いてください。シートが濡れても、点滅している内に消えれば死ななくて済みますから、下を向いてください……ガガッ、ピッ…………」


 不気味なほど静まり返っている車内の空気に耐えられず、


「あ、あの……」


 と、運転手に声を掛ける。


「はい、なんでしょう?」


「今のは、何なんですか?」


「今の?ああ、無線のことですか?」


「ええ、なんか、変なことを言っていたようですけど……」


「あれはね、無視しなきゃいけないんですよ」


「無視?」


「ええ、ここいらのタクシー運転手は、みんな知ってることなんですがね。こんな雨の日の夜に走ってると、どこからか今の無線が勝手に入ってくるんです。わけの分かんないことを言ってくる無線がね。無視してりゃあ何も起きないんですが、もし、あれに答えてしまったら、あまり良くないことが起きるんですよ」


「……良くないこと?」


「ええ。まあ、詳しくは言えませんが……答えてしまった連中の中には、二度とハンドルを握れなくなった者もいましたねえ、ハハハハハッ」


 運転手の渇いた笑い声を聴きながら、僕はガタガタと震えていた。

 雨に濡れた窓の向こうに、滲んで見える夜の街並み。

 そこに、こちらへ向かってトボトボと歩いてくる、ぼんやりとした黄色い人影があるのを見つけて。

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