第44話 成リ果テル

「あっ、ほら、いたいた。あいつだよ、あいつ」


 ケンジくんが指差した先には、ボロ布を纏って錆びついた自転車をギイギイと押しているホームレスっぽい風貌の人がいた。


「何?あの人」


「知らねえの?最近、この辺をうろつくようになった不審者だよ。ちょっとした有名人だぞ」


「……ねえ、やっぱりやめない?」


「ああ?お前、ビビってんのかよ」


「だって、あの人、お金を持ってそうにないよ。それに、カツアゲなんて……」


「うるせえな。小銭くらいは持ってんだろ。それに、大体よ、お前が金を持って来ねえから悪いんだろうが」


「だ、だって、もう今月のお小遣いは……」


「フン、だったら、後腐れのねえ奴から盗るしかねえだろ。オラ、行くぞっ」


「……うん」


 ずかずかと不審者に近付いていくケンジくんの後ろを、怖々とついていく。


「オイ、おっさん」


「……ん~……ん~」


 不審者は、鼻歌を歌いながら振り返った。顔中に包帯を巻いていて、ギョロッとした目だけが覗いていた。


「金持ってたら、出せ」


「……ん~とん~……ら~……」


「オイ、無視すんなよ。聴こえてんだろ。金出せ!」


「……ん~……から~とん~……」


「チッ、イカレてんのかよ。オラッ!」


 ケンジくんが蹴りを入れ、不審者は押していた自転車ごと倒れ込んだ。


「け、ケンジくんっ、暴力は――」


「うるせえなっ!黙ってろ!お前も殴られたいのかよ?ああ?」


「い、いや――」


「とんからとんと言え」


 いつの間にか、不審者がケンジくんの背後に立っていた。


「ああ?」


「とんからとんと言え」


「わけ分かんねえこと言ってねえで、早く金——」


 突如として、ケンジくんが血飛沫を上げながら倒れた。


「……え?」


 不審者の手には、血にまみれた長い長い包丁が握られていた。


「とんからとんと言え」


「……と、と、とと、とんからとんっ……!」


 すると、不審者は倒れていた自転車を起こし、


「とん~とん~とんから~とん、とん~とん~とんから~とん……」


 と、口ずさみながら、ゆっくりと去っていった。

 すぐに近くの交番へ駆け込んだが、不審者も、なぜかケンジくんの死体も見つからなかった。

 しばらくして、ケンジくんに背格好が似た包帯だらけの人物が鼻歌を歌いながら街を徘徊しているという噂を聞いた。

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