第36話 哀レム
「——―それでさあ、ほんっとにブスでヤる気も起きなくってさあ。トイレに行くふりして、こっそり店出て逃げたわ。マジで損した。せっかく課金してるってのによ。やっぱマッチングアプリやってる女なんて顔面詐欺師ばっかりなんだよなあ」
「……はあ」
「わざわざ嫁に休日出勤っつって時間作ったのにさあ。あんなのが来るって分かってりゃ、風俗に行ってた方が良かったわー。でも、最近、金もねえしな。風俗より、元カノんとこ行った方がコスパいいかもしれねえな。あいつ、まだ俺のこと引きずっててさ。部屋に上がり込んだら百発百中でヤれんだわ」
「……へえ」
「でも、距離感保っとかねえと、ヤバいんだよな。メンヘラだから、あんまりヤってると、また変な薬飲んで電話してくるかもしれねえんだよ。会う度にリスカ痕が増えてるしさあ。この怖さ、お前にゃ分かんねえだろ?」
「……ええ」
「お前もさあ、ちったあ遊べよ。なんなら、紹介してやろうか?俺のお古でいいならの話だけどな、ハッハッハ!」
「……あの、先輩」
「お古っていやあ、この間、子供連れてコンビニに行ったらさ。高校時代の元カノがレジ打ってたんだよ。あれはマジでビビったわ。なんか、ジロジロ睨んでくるしさあ。まだ俺が駅前の公衆便所でヤリ捨てしたこと、恨んでんのかなあ?何年前の話だってんだよ、ネチネチしやがって。その後、引きこもりになったって聞いてたけど、社会復帰するなら、もう少しマシなツラで働けっての」
「……先輩はもう、とっくに死んでるんですよ。その、たくさんいる元カノの誰かに刺されて」
「あの時は大変だったわあ。なんか、あいつの母親が家まで怒鳴り込んできてさあ。警察沙汰にするとか言ってたけど、こっちが警察呼んでやったわ。大人しく泣き寝入りしてりゃあいいのにさあ、ハハハッ!」
社用車を運転しながら、助手席に薄っすらと存在している先輩の亡霊を横目に、ため息をついた。
幽霊は未練がある場所に留まると聞いたことがあるが、だとすると、僕に自慢話をしたい為だけに、ここに現れているのだろうか?
まさか、延々と聞く耳を持たず、死んだことに気付かず、僕に話しかけ続ける気なのだろうか?
いなくなって、せいせいしていたのに……。
だが、先輩の魂がその為だけに成仏することを拒んでいるかと思うと、少しだけ哀れみを覚えた。
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