第24話 傷付ケル

「ねえ、こんな占いの話、知ってます?夜中の十二時に剃刀を咥えて、水を張った洗面器の中を覗き込むと、そこに未来の結婚相手の顔が映る……」


 場末のラブホテルで行為を終え、寝入ろうとしていると、未だに名前も知らない女が唐突に切り出した。


「ああ、聞いたことあるよ。占いっていうより、怖い話だったっけ?確か、女の子が試してみたら、本当に知らない顔の男が映って、思わずびっくりして咥えていた剃刀を落としたら、水が真っ赤に濁って……」


「それから数年後、女の子は一人の男性と付き合うことになった。でも、その男性はなぜか、いつも大きなマスクをして顔を隠している。女の子が、なぜいつもマスクをしているの?と尋ねると、男性はおもむろにマスクを取った。そこには……」


「古い切り傷の痕があった。そして、男は言う。お前にやられたんだ」


「ええ、そうです。他にも色んなパターンがあるけど、大体の筋道はそんな感じの」


「懐かしいなあ。好きなの?そういうの」


「いえ、そういうわけではないんですけど……私、中学生の頃に、本当に試したことがあるんです。その占い」


「へえ。それで、結果は?」


「現れましたよ。知らない男の人の顔が」


「ハハ、本当に?」


「ええ」


「それで、剃刀を落としちゃったの?」


「いえ……驚いたのは驚いたんですけど、その顔をじっと見つめていたら、たまらないくらい愛おしくなってしまって……咥えていた剃刀で、無茶苦茶に切りつけたんです」


「……え?」


「傷だらけにしなきゃ、私のものにならない気がしたので。でも、切りつけても切りつけても、水は真っ赤に濁りませんでした。その内、顔は水面から消えてしまいました」


「あ、ああ……。じゃあ、占いは失敗に終わったってこと?」


「いえ、あの占いは成功していたんですよ。だって、今こうして目の前に、あなたがいるんですから」


「え?」


「水面なんか切りつけたって、意味が無かった。やっぱり、直に切りつけないと。そっちの方が、私もより一層、愛せると思うんです」


 いつの間にか、女の手には剃刀が握られていた。

 それが俺の顔に向かって振り下ろされる直前、女の手首に切り傷の痕が無数に付いているのが見えた。


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