第23話 ハプニングが生んだきっかけ(3)



それからすぐに夕食の時間になった。


「綿貫君は、バイクに興味があるのか~~」


 父が嬉しそうに言うと、綿貫君が口を開いた。


「乗ったことはないのですが、ぜひ、乗ってみたいと思います」


 食卓では、食事が終わっても、綿貫君と、斎君と、父と、一さんは、かなり話が、盛り上がっている。

 今も、部屋中に飾ってあるバイクに乗ってる写真を見ながら、話が弾んでいる。


「乗ってみたい。君のような若い子の好奇心は、宝だ。やってみたいことは、どんどんやってみればいい。バイクに乗るなら手伝うからな」


 一さんが、嬉しそうに言った。


「ありがとうございます」


 すると綿貫君も嬉しそうに笑った。

 たった一度の食事で、綿貫君は、斎君や父や、一さんとも、とても仲良くなっていた。


 そんな中、8時になり、母が時計を見ながら言った。


「あら、綿貫君、そろそろ、帰った方がいいんじゃない? お家の方が心配するわ」


「あ……俺、こんなに長い間、お邪魔してすみません」


 綿貫君が急いで、席を立った。


あきらさん、車借りていい?」


 すると、斎君が父に声をかけた。ちなみに信さんというのは、私の父だ。


「斎君。もしかして、綿貫君を送ってくれるのか?」


「うん」


「昨日も、送ってもらったのに悪いな~」


 父は、昨日の駒江先生のことを言っているのだろうが、名前は出さなかった。


「全然」


 斎君の言葉に、綿貫君は、驚いて斎君の顔を見た。


「え? 送らなくていいよ?」


「いいから」


 それから、私は家に帰る綿貫見送るために玄関に向かった。

 どこか重い足取りの綿貫君に向かって斎君は、廊下で立ち止まると、困ったように言った。


「今日、俺の家に泊まる? 最近、眠れてないんでしょ? 寝袋ならあるよ」


 なんと斎君は、綿貫君を家に誘った。

 今日、初めて会った綿貫君を家に招くという斎君に、私の方が驚いてしまった。

 綿貫君はきっと断るのだろう、と思っていた。

 だが…。


「え? いいの? すげぇ、嬉しい。マジで睡眠不足で倒れそうだったから」


 私の予想を裏切り、綿貫君はとても嬉しそうに言った。


「うん。いいよ」


 斎君の言葉に、綿貫君は急いでスマホを取り出した。そしてすぐに、画面を開いて、電話をかけた。

 そして、「今日、友達の家に泊めてもらうから」と言うと、スマホをポケットに入れた。


「親に言った。斎君、お世話になります」


「あはは、対応、早っ!! どんだけ家に泊まりたいの?」


 どうやら、綿貫君は斎君の家に泊まることになったらしい。




 それから、綿貫君は父のTシャツと、短パン、そして、使っていない下着を借りて、私の家でお風呂に入った。


「すみません。ありがとうございました」


 お礼を言う綿貫君に、母が楽しそうに言った。


「綿貫君、明日には洗濯終わってるから、学校前にいらっしゃい。朝ごはんも家で食べればいいからね~~」


「ありがとうございます。では、おやすみなさい」


 綿貫君は、母にお礼を言うと、丁寧に頭を下げた。


「おやすみなさ~い」


 斎君もいつものようにあいさつをした。それを私と母は玄関で見送った。


「さぁ、瑞樹もお風呂入って。明日は、綿貫君の分のお弁当もいるわね」


 母がどことなく楽しそうに言った。


「ありがとう。じゃあ、私、お風呂入るね」


 お風呂に向かう途中。ふと、先程の2人の様子を思い浮かべた。

 綿貫君と斎君は初対面だ。だが、まるで十年来の親友のように仲が良く見えた。

 斎君も面倒見がいいし、綿貫君も絡まれている私を助けてくれるくらい面倒見がいい。きっと人というのは、自分と合う人と仲良くなる時は、時間というのは関係ないのかもしれないと思えた。





「あ……今日。走るの忘れた」


 お風呂に入って、髪を洗いながら、今日は、トレーニングを一切しなかったことを思い出した。

 今日は、朝から駒江先生の忘れ物を届けたり、放課後は綿貫君の保冷バックを買いに行ったりと、時間が取れなかった。お風呂に入る前に思い出せばよかったが、お風呂に入ってしまったので、これからトレーニングはつらい。

 

 明日は、少し長めに走ろう。

 

 私は、そう決めたのだった。

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