第17話 三者面談(1)





 期末テストが終わり、夏休みが近くなると、三者面談が行われることになった。


 家は、母ではなく、父が参観日や、三者面談に来てくれる。

 母は、昔、学校で酷い、いじめに合っていたらしく、学校恐怖症になってしまい、未だに学校という場所に入ると、冷や汗が止まらなくなり、眩暈がしたり、吐き気がするらしい。


 私の小学校の入学式で、母は、学校の正門の前に立った途端、足がすくんで、冷や汗が止まらなくなり、眩暈を感じて、動けなくなった。

 仕方なく、母はタクシーで家に戻り、父が一人で入学式に来てくれた。


 だから、私は毎回、運動会や、参観日、三者面談は、必ず父が来る。


「瑞樹~~~~」


 父が大声で私を呼ぶと、皆がヒソヒソと声を上げた。


「え? 誰?」


「さぁ? お兄さん? 瑞樹って呼んでたけど……」


「ウーチューバーとか? イケてない?」


 父が手を振りながら、廊下を歩いて来るが、かなり目立っている。

 恥ずかしい。


 父の服装は、すみれさんの影響で、かなり独特なので、とても恥ずかしいのだが、父は至って真面目なので、どうしようもない。


 その日も、父は、黒地に白い線の入ったスーツに、黒いシャツという斜め上な服装で、学校に現れた。父はまだ30代なので、保護者にも見えないのに、さらに服装によって、いつも私の兄に見られる。


 私の所に来ると、周囲がまた声を上げた。


「え? 工藤さんのお兄さん? 意外」


「工藤さんって、真面目そうなのに」


 高校になると、参観日や体育祭にも来なくていいと言っていたので、父が高校に来たのは、入学式の時以来なのかもしれない。


「お父さん……ジーパンとか、もういっそのこと作業着でよかったのに……」


 私が小声で言うと、お父さんが眉をしかめた。


「バッカ!! 娘がお世話になってる先生にお会いするのに、そんな格好で来れるか!!」


 お父さんの謎に倫理観が発動して、こんな目立つスーツで来ることになったらしい。

 

「せめて、ピアス、外してよ……」


 お父さんの左耳には、金色のリングがぶら下がっているピアスがついている。

 それが、さらにこの姿を目立たせている。


「もっとお断りだ。これは、結婚指輪だからな」

 

 お父さんは、普段、指輪やネックレスを付けられないので、指輪をピアスにして、耳につけているのだ。

 まぁ、無理だろうと思って、提案してみたが、やっぱり無理だった。

 

 全てをあきらめて、面談の教室になっている数学準備室に向かうと、扉の前に、綿貫君が座っていた。


「工藤って、お兄さんいたんだ」


「いないよ……父です」


 私が父を紹介すると、父がにっこりと笑った。


「どうも、父です」


 すると綿貫君は、立ち上がって、頭を下げた。


「はじめまして、綿貫って言います。お父さんでしたか、失礼なことを言ってすみません」


「あ、いや、全然失礼じゃないよ。むしろ嬉しいよ」


 お父さんは、ふにゃりと笑った。

 確かに、お父さんにとっては失礼じゃないかもしれないが、私には失礼ではないだろうか?

 それとも、父を若く言ってくれたことにお礼を言うべきだろうか……悩む。


 ガラガラと扉が、開くと、中から愛音が出て来て、綿貫君が数学準備室に入って行った。


「あ!! 瑞樹のパパ!! スーツ、かっこいい~~~」


 愛音は、父を見るなり、嬉しそうに笑った。

 

「愛音ちゃん、久しぶりだね~~大きくなったな~~」


「それ、中学生くらいから、私に会う度に言ってますよ~~」


「え? そう? 毎回成長を感じるからな~~」


 愛音と、父が話をしていたので、私は愛音の母にあいさつをした。


「こんにちは、ご無沙汰してます」


「そうよ、最近ちっとも遊びに来てくれないから、寂しいわ。主人も瑞樹ちゃんが来るのを待ってるのよ~~今度、泊まりに来て」


「はい」


 私が笑って頷くと、愛音のお母さんが、私の耳元に口を寄せた。


「今度、愛音の彼氏がどんな人か教えてね」


 私は、愛音のお母さんの顔を見て、小さく笑った。


「了解です」



 ガラガラ。


 久しぶりに愛音のお母さんたちと、話をしていると、綿貫君が、面談が終わったようで教室から出て来た。


「あ、次、私たちなので失礼します」


 私の言葉に、愛音のお母さんが慌てて言った。


「ごめんない。つい、話過ぎてしまって、それでは工藤さん、また」


「こちらこそ、瑞樹がいつもお世話になって、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。それでは、また」


 父が、会釈をした。

 そして、愛音たちと別れて、私たちは数学準備室に入ったのだった。





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