第352話 ナマハゲダンジョン 1

 男鹿温泉の夕食は秋田牛のステーキが、ドンと音がしそうなほど立派に置かれています。

  

 私の前には300グラム。

 カオリさんの前には200グラム。

 ミズモチさんの前には1ポンドです。


 さらに、すりつぶしたうるち米のご飯を杉の棒に先端から包むように巻き付けて焼いた、たんぽ餅が棒から外されて、比内地鶏で出汁をとった鍋に入れられて煮込まれています。


 元々、ミズモチさんように十人前でお願いしていたので、テーブルに乗り切らないため、テーブルをもう一つ用意してもらってミズモチさんが専用の仲居さんがついてくれました。


 秋田名物を堪能できる最高のフルコースです。


「美味しいですね」

「はい! 鶏出汁の鍋にステーキって豪華すぎませんか?」

「確かに」

「ヴュ〜♪ ヴュ〜♪ ヴュ〜♪」


 ミズモチさんはとても気分が良さそうです。

 私たちもビールを飲み干して、カオリさんは甘めのひのとりを、私は雪のぼうしゃというスッキリとした雑味のない味いが飲みやすさです。


「本来大人数さんでやってもらうのですが、お客様は三名様で量的には十分なので。石焼がメインになります」

「石焼?」


 そういうとミズモチさんの前に巨大な臼が置かれて、魚のアラからできた出汁に食材が入り、そこへ熱した石が入りグツグツ沸騰していきます。


「うわ〜! 凄いですね!」

「本当に凄いです」

「ふふ、漁師さんが生み出した料理なんですよ。それが秋田名物として定着して、今ではお客様に喜ばれているんです」


 グツグツと煮えたぎった臼の中へミズモチさんが飛び込んで熱さですぐに飛び出してきました。


「はは、流石に熱すぎたようですね。ミズモチさん、取り分けてからですよ」


 仲居さんが大きめの器に石焼から取り出した食材を入れてくれる。


「ヴュ〜」


 ミズモチさんは熱いのか警戒しながら、体を近づけて大丈夫だと気づくと美味しく食べ始めました。


 〆には鯛めしが出てきて豪華でした。


「ヴュ〜♪」

「ふふ、美味しそうですね」

「ええ。本当に」


 その後は温泉に入ります。

 部屋に備え付けられたツボ湯にミズモチさんとつかりました。


 夜の風はひんやりとしていますが、温泉に入るだけで心から温まりますね。



 一晩明けて、朝食はバイキング形式です。

 焼き秋刀魚が積まれていたのが、印象的ですね。

 ミズモチさんは朝から、秋刀魚に、お肉にと嬉しそうにされていました。


 一応十人前ぐらいは食べたと思います。 


「さて、ナマハゲダンジョンに向かいましょうか?」

「はい!」


 ナマハゲの由来として、「ナモミをはぐ(ナモミはぎ)」という言葉がなまったものだそうです。


「ナモミ」とは寒い日に囲炉裏端にばかりかじりつき、何もしないでいると手足にできる火型のことで、これがつくのは怠け者(からぴやみ)の証拠である。


それをはぎ取り、怠惰をいましめるのがナマハゲであるということだそうです。


「そうなんですね」

「はい。ですから、事前に調べていた鬼の色としては緑鬼がボスとしているのだと思われます」

「緑鬼ですか」


 黒鬼さんの強さを思い出して、恐ろしくはありますが今回はカオリさんも一緒にきて来るので、頼りない私ではいけませんね。


 それに前回はAランクでしたが、今回はBランクです。


「ふぅ、心を引き締めて向かうとしましょう」

「はい!」


 男鹿真山伝承館は、男鹿温泉郷からタクシーで十分ぐらいの場所にあります。

 

 到着すると茅葺き屋根の民家に看板があり。


「母屋と厩(馬屋)がL字形に曲がって一体化していることから「曲り家」と呼ばれる伝統的家屋だそうです」


 カオリさんが聞かせてくれた情報に、とても古き良き時代の建物が見てとれます。


「あちらがダンジョンですか?」

「いえ、ここからさらに奥へ向かうとナマハゲ館というナマハゲたちの家があるのです。さらにその奥にボスがいるそうです」


 カオリさんが調べてくれた情報をもとにして、色々と教えてくれます。


 自分一人では行き当たりばったりだったので、調べてもらえていると助かりますね。


「それではまずはカオリさんの闇魔法とミズモチさんの毒魔法で110体のナマハゲさんから倒していきましょうか」

「いいんですか?」

「はい。毒が効かない場合を想定して、私も備えておきます」


 A級ダンジョンのボスにもミズモチさんの毒は有効であると証明されているので、大丈夫だと思いますが、念のためです。


「一応ダンジョン内ではあるので、部屋の中に入るとナマハゲがやってくる場合があるそうです」


 茅葺き屋根の民家に入ると、囲炉裏がある畳敷きの部屋が広がっていました。


 音声紹介による、ナマハゲ文化についての解説があり、それが終わると。


「悪い子はいねがー」

「泣ぐ子はいねがー」


 民家の中に三体のナマハゲが現れました。


「なっ!」

「来ました!」

「ヴュ〜!」


 現れるとは言っていましたが、本当に来るとは驚きですね。カオリさんは冷静にナマハゲに気付き、ミズモチさんはアイスジャベリンで一体を撃退していました。

 

 棍棒を持って歩き回る、ナマハゲの姿は迫力満点ですね。


「白金さん」


 私も慌てながらも白金さんに魔力を流して応戦しました。近づかれては、レベルの低いカオリさんは危険です。


 私がしっかりと守らなければいけません。


「刺突!」


 私が一体を倒している間に、ミズモチさんが二体目のナマハゲを倒してくれました。


「なんとかなりましたね」

「はい。驚きました」


 冷静に見えたカオリさんも驚いていたんですね。

 やっぱりダンジョンは油断してはいけませんね。


 目に見えていないからといっても、油断しないで行きましょう。

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