第223話 A級結果

 私とミズモチさんは攻撃に全ての魔力を使い果たしました。

 体力も失い、ミズモチさんは体を維持できなくて萎んでいきます。

 力が入らない私は空に身を投げ出されました。


「藤丸!」

「ヒデオさん!」


 水餅サイズになったミズモチさんを、藤丸くんが受け止めてくれています。よかったです。ミズモチさんに無理をさせてしまいました。

 いつもならベヒーモスさんを食べたかったでしょうが、その力もないようです。


 私は地面に激突するのでしょうか? 落ちる速度がゆっくりになり、柔らかな感触に抱き締められました。


「ハルカさん?」

「バカやな。結局一人で、ううん。ミズモチさんと二人で倒してもうてるやん」


 ハルカさんが受け止めてくれたのですね。

 やっぱり、冒険者をされているハルカさんは力持ちですね。

 私の体重は75キロあるんですが、女性にお姫様抱っこされてしまいました。


「はは、あれはここで倒さないといけない存在だって思ったんです」

「そんか……。でもな、普通は倒せへんよ。あんな化け物は逃げる対象や、ヒデオさんは人がでけへんことをやったんや」

「そうですか?」

「ああ、ホンマにありがとうな。ホンマは怖くて何もでけへんかってん。ヒデオさんが倒してくれてよかったわ」


 ハルカさんの腕は震えていました。

 そして、瞳には涙を浮かべていて、私はハルカさんの涙をそっとすくいました。


「すみません。これが最後の力です。後をお願いします」

「任せとき、ヒデオさんは私たちが守って連れて帰るから、ゆっくり寝てや」


 私は意識を失いました。


 危険なダンジョン内で意識を失うのはダメです。

 ですが、仲間がいるから任せてしまいます。



 次に気づいた時、すっかり夜になっていました。


 ホテルの窓から見える景色は暗かったです。


「んん」

「目が覚められましたか?」


 体を起こすと、ベッドの横にユイさんがいました。


「ユイさん?」

「はい。ヒデオさん、お疲れ様でした」


 枕元にはミズモチさんが寝ておられました。

 無理をさせましたね。

 体を小さくしなければいけないほどの相手だったんですね。


 これだけミズモチさんに無理をさせたのに私は意識を失ってしまいました。

 冒険者ギルドの職員であるユイさんがいるということは、試験の結果を伝えにこられたのでしょう。


「はは、試験中に意識を失うなんて失格ですね」

「……状況を教えていただけますか?」


 私はレアボスモンスターであるベヒーモスに出会ったこと。

 採取をするために戦闘に入り、異常な強さに採取どころではなかったこと。

 ベヒーモスに、ミズモチさんと二人で全力でぶつかったことを伝えました。


 その後のことは覚えていません。


 ミズモチさんの上で揺らされていた私は体力を消耗して、ベヒーモスにとどめをさすために魔力も使い切って、意識を保っていられませんでした。


「他の方々に聞いた話と一致します。それではA級試験の結果をお伝えします」

「はい!」


 真剣な顔をしたユイさん、伝え辛いのかもしれませんね。


「A級試験は不合格です」

「やっぱりそうですか」


 リーダーとしての資質を見るための試験でしたからね。

 落ちてしまうのは仕方ありません。

 ですが、ベヒーモスを倒せたことはよかったです。


「ですが、今回はA級試験は、不合格です」

「うん??? すみません。意味がわかりません。A級試験は?」

「本来、A級試験はチームのリーダーとしての資質を見る試験です。仲間と共に戦い、自他共に優れていることを示す試験なのです。ですが、ヒデオさんは、仲間と共に戦わないで一人で戦いました。そして、最後は仲間に全てを委ねて、救助されなければ帰ることもできなかったでしょう。それは大きな失態です」

「はい」


 自分でもわかっています

 ドラゴンのことを調べていませんでした。

 冒険者として、常識を欠いていたと私でも思います。


 パーティーのリーダーとしては失格です。


「ですが、それ以上に個人の力が優れていることを証明しました」

「はえっ?」

「集団を束ねるA級試験は不合格です。しかし、甚大な被害が出る恐れのあるS級モンスター討伐を成し遂げた功績は、A級試験の不合格を覆すほどの功績です。これは特例ではありますが、本日よりヒデオさんはA級として昇格されました。これは日本冒険者ギルド協会からの決定です」


 えっ? 特例? A級に昇格?


「そっ、それは良いのですか?」

「はい。これは非公式なことですが、金沢の冒険者ギルドのギルドマスターからも熱烈な後押しがあったそうです」


 金沢でお世話になった直江さんの顔が浮かびました。

 私は色々な方に支えられていることがわかります。


「ユイさん」

「はい」

「今回の試験は素晴らしいと思います。皆さんとパーティーを組んで、リーダーの役目をさせてもらいました。不甲斐ない自分がわかりました。ただ、バーベキューをしたり、ホテルをとったり、とても楽しかったです」

「よかったですね」

「はい。私は冒険者としてまだまだです。どうか今後もサポートをお願いします」

「もちろんです!」


 ユイさんは笑顔で答えてくれました。


 そして、先ほどまでの難しい顔は、私ができなかったことを伝えるために必要だったのでしょう。


「改めて、A級昇格おめでとうございます」


 ユイさんからお祝いの言葉と、握手を求められました。


「今回は運が良かっただけです」

「いえ、普通は遭遇しないモンスターです。普通に試験を突破していたらヒデオさんは合格だったと思います。ですから、ヒデオさん、今後はA級冒険者として、どうぞよろしくお願いします!」


 ユイさんは握手をしたまま、頭を下げてくれました。


「はい。よろしくお願いします」


 一人では認められない試験を受けられたのは、タツヒコ君やサナさんがいてくれたからです。


 そして、ハルカさんや綾波さんが協力してくれたから、生き残ることができました。


 私は彼らに報いられる自分でいようと思います。

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