第151話 知らない天井

 私は体の痛みと、身体に当たるヒヤリと気持ちの良い冷たさによって目が覚めました。


「うん、んん」


 視界がはっきりして来ると、見たこともない天井が広がっています。

 昔の家屋のような木製の張りは最近見かけませんね。


「ここは? ミズモチさん?」

 

 そばにはミズモチさんがいてくれました。

 ひんやりとして気持ちが良かったのは、ミズモチさんのスライムボディーだったようです。


「ヒデ。大丈夫?」

「えっ!ミズモチさんが普通に話しておられます!」

「うん。ボク、話ができるよ。ずっとヒデと話したかったけど、向こうじゃ話せなくてごめんね」

「向こう? はぁ、そうですか。色々と思い出して来ました。私は、灰色オーガに胸を切られて出血して、死んだのですね」

「違うよ」

「えっ?」


 ミズモチさんに否定されて自分の体を見ます。

 ビッグスノーベアーから受けた爪痕以外に刀傷が残っています。

 いくら自身の回復(中)さんを使っても治しきれない傷があるのですね。

 ですが、どうして私は助かったのでしょうか?


「何じゃ起きたのかえ?」


 考え事をしていると、女性に話しかけらました。


「えっ? あっ!白鬼乙女さん!じゃなくて、白夜叉姫様?」

「ふん。お主がワシにつけた名は、白鬼乙女であろう? ならばそう呼ぶが良い」


 私がプレゼントした服を着てくださっております。

 いつもの巫女衣装ではない白鬼乙女さんは新鮮で可愛らしいですね。

 私の横へと座りました。


「うむ。顔色も良いようじゃ」

「白鬼乙女さんが看病してくれたのですか?」


 私の問いかけに、真っ白な顔が赤く染まる。


「バカ者が! あのようなザコオーガに負けるなど油断をしていたのではないか? 身代わりの指輪がなければ本当に死んでいたぞ」

「はは、私が弱かったのです。あの、身代わりの指輪とは?」

「うん? 何じゃ? わかっておらんのか? お主が首からぶら下げておる指輪は、身代わりの指輪と言ってな。お主の命を助けてくれるアイテムじゃ」

「ええ!!!凄いアイテムではありませんか!」

「そうじゃな」


 なぜか、私よりも小柄な背丈をしている白鬼乙女さんが、流暢に私の横でお話をしています。なんだか不思議な気はしますが、ミズモチさんと同じく仕草の可愛さに癒されている自分がおります。


「白金さん以外にも、そんな凄い物を頂きありがとうございます!」

「ふむ、お主らがここにくるようになってからは、ワシは退屈しないで済んでおるのじゃ。じゃから気にしなくていいのじゃ」


 見た目が幼くなり、言葉が老人のようなので不思議です。

 ですが、その全てが様になっていて嫌な気分にはなりません。


「ふぅ、ですが。ここはどこでしょうか?」

「うん? ここはワシの家なのじゃ」

「家ですか?」

「そうなのじゃ。最初はよくわからなくて、来る者を殺しまくっていたのじゃ。家に侵入するGのように思っていたのじゃ。じゃが、いつからかワシは意識を持つようになったのじゃ。そうじゃな、初めてお主がワシに食事を持ってきた時からじゃな」


 食事と言われて、実家に帰る前にお供えをしに来た時でしょうか?


「あれを食べた後から、今まで無かった意識が覚醒してな。お主を待つようになったのじゃ」

「お着替えを覗いてしまったのは、すみません」


 無言で平手打ちされました。ですが、首は無事でした。


「恥ずかしいのじゃ。思い出すのは良くないのじゃ。とにかく、あれからお主がワシに食事を与え。ワシに名前を付けてからは、さらに意識がハッキリとしたのじゃ。主のために何かしてあげたい。主ともっと居たいと思うようになったのじゃ」


 あ〜あれですかね?

 白鬼乙女さんの意識が少し流れ込んできます。

 まるでミズモチさんの気持ちがわかるようになった、最初の頃のようです。

 私は職業がテイマーなので、白鬼乙女さんをテイムしてしまったということでしょうか? ですが、白鬼乙女さんはダンジョンのボスさんで、弱ってはいません。今の状況はイレギュラーということでしょうか?


「じゃがワシはこの場を離れられぬ。ダンジョンの力なのじゃろうな。お主とそこのスライムが来るたびに、大量の魔力をここに流していく。そうすればするほどダンジョンが成長して、ますます離れられなくなっていっておる」

「それは! どうすれば、白鬼乙女さんは解放されるのでしょうか?」

「主がワシの本体を倒し。ダンジョンの奥にあるダンジョンコアを破壊するしかないのじゃ」

「本体? ダンジョンコア?」

「そうじゃ。ダンジョンボスは、ダンジョンコアがある限り、何度でも蘇るのじゃ」


 ですが、倒してしまった白鬼乙女さんは、どうなるのでしょうか?

 それにもしも蘇っても、それは前と同じ白鬼乙女さんなのでしょうか?


「それは白鬼乙女さんなのですか?」

「ワシは倒されたことがないのでわからぬのじゃ」

「ふぅ。白鬼乙女さんはダンジョンから解放されたいですか?」

「うむ。解放されたいのじゃ。お主が持って来てくれる食事も、服も好きなのじゃ。ワシは外を見てみたいのじゃ」


 キラキラとした瞳で、外に出たいという白鬼乙女さんを解放してあげたい。

 何よりも、私自身がミズモチさんや白鬼乙女さんとお話をしたい。


 ふと、二人の言葉がわかることを思い出して自分のレベルを見てみれば、レベルが十五と表示されています。


「私!レベルが上がっています」

「ふむ。刀オーガはワシが倒したからのぅ。経験値を得たのじゃろう。それにここに長いこと寝ておったから魔力も十分じゃ」

「あっ、そう言えば私はどれくらい寝ていたのですか?」

「心配せんでもええ。ここでの時間は外とは違うのでじゃ。ここでお主は三日ほど寝ておった。じゃが、外では三時間ほどしか過ぎてはおらんのじゃ」


 白鬼乙女さんが作り出した。空間は特別な場所のようです。


「今はまだ眠るがいい。目が覚めれば外じゃ。次はワシを迎えに来てくれるのを待っておるのじゃ」


 私は白鬼乙女さんと話している間に、いつの間にか意識を失いました。

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