第29話 ゴブリンの住処 終

「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」


 山全体を揺るがすような叫び声が地響きとなる。


「「キャ~~!!!」」

「なっ、なんだよ!」


 女性たちが悲鳴を上げ、高良君が警戒して辺りを見る。


 だが、私の察知さんが警戒音を鳴らしている。


 ここに居てはダメだ!


「皆さん!急いで逃げます!ここにいては行けません」

「えっ?えっ?」

「ミズモチさん!」


 困惑する三人に対して、私は女性二人の手を掴んで走り出しました。

 ミズモチさんには周囲の警戒を頼みます。


 今は一刻も早くこの場を離れることを優先しなければなりません。


「ちょっ!ちょっと待ってくれ!俺は、俺も体力が」


 私が女性たちを引き連れて山を下り始めると、途中まで付いてきていた高良君の足がもつれて転倒してしまいました。


「ユウ!」


 鴻上さんが高良君の元へ戻ろうとします。


「危ない!」


 察知さんが知らせてくれなければ、気付くことが出来ませんでした。

 鴻上さんの腕を掴んで引き寄せて居なければ危なかったです。


 高良君と鴻上さんの間に、巨大なゴブリンが降り立ちました。


 その身長は私よりも高く筋骨隆々で、薄汚れた緑色の肌にハゲ頭。

 醜悪な顔はニヘラと笑みを浮かべ、黄ばんだバラバラの歯を見せてこちらを見ていました。


 それは初めてゴブリンと対峙したときと同じ恐怖感が、私の心を埋め尽くしていきます。


 ですが、すぐさま精神耐性が発動してくれた様子で、気持ちに冷静さを取り戻していくことができました。きっと行方不明者たちはこいつにやられたんだ。

 あの洞窟を守っていた番人が、こうして山を駆け回って獲物を探していたのだ。


「湊さん。鴻上さん。高良君のことは私に任せてください」

「えっ?」


 湊さんが驚いた顔をする。


 私も自分で驚いてしまう。


 足は震えて、こんな化け物には絶対に近づきたくない。


 だけど、未来ある若者達を助けなければならない。


 行方不明者の無念を晴らさなければならない。


「一緒に!」


 鴻上さんが戦おうとして、魔力も体力も底をついていることを思い出したようだ。

 膝を突いて座り込んでしまう。


「鴻上さん。大丈夫ですよ。高良君は必ず助けます。ですからお二人は先に逃げてください」

「また!また、阿部さんのお世話になってしまいます」

「いいのです。これもまた運命ですよ。それに私は一人ではありません」


 頼れる相棒が、高良君と共にいてくれる。


「私が気を引きますので、どうか二人は逃げてください」


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」


 私が二人を逃がそうとしたことがわかったのか、怒りを表すようにデカゴブリンが叫び声を上げる。二人は恐怖から足が竦んで動けないようだ。


 ならば……


「随分と不細工なお顔をされているゴブリンだ! あなたの相手は私です」


 私は胸当てとヘルメットを確認して、黒杖さんを構えました。


「ミズモチさん。行けますね?」


 私が呼びかけると《ミズモチさんはプルプルしながら、あなたへ話しかけています》頼れる相棒が答えてくれます。


「逃げられないのであれば、私があいつをどこかにやりますので、高良君を助けてください!」


 私はフェンシングをするように、黒杖さんを構えました。


「プッシュ!」


 渾身のプッシュはその豪腕によって払いのけられてしまいます。


「もちろん、それが効くなど思っておりませんよ。ダウン」


 私はデカゴブリンに近づいたところで柳師匠直伝、足の甲へダウンをお見舞いしました。


「ギギギギギ!!!!!!」


 歯ぎしりをするような顔で、痛みをダメージを受けるデカゴブリン。


「フック」


 足首にかけることは叶わなくても、その醜悪な口にぶち込むことは出来ます。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA」


 頬を引き裂くようにお見舞いしたフックは、デカゴブリンの薄い頬を傷つけ、完全にヘイトを私へ向けることに成功しました。


「デカゴブリンよ。こっちにいらっしゃい!」


 私は距離を取り、デカゴブリンへ挑発の呼びかけをしました。

 こんなもので死ぬのであれば、今までの冒険者だって多少は傷を負わせたはずです。


 ですが、今までのゴブリンと違って倒れる気配がありません。ならば、ダメージを蓄積させなければなりません。


「ギギギギギギ」


 デカゴブリンが私に怒りを向けて走り始めました。


 成功です。ですが、デカゴブリンよ。


 あなたは勘違いをしている。


「グギャッ!」


 デカゴブリンの横っ面を吹き飛ばすミズモチさんの一撃が、油断していたゴブリンの顔面に衝撃を与えました。


「ナイスです!ミズモチさん」


 私は逃げると見せかけて反転してした勢いのまま「プッシュ!」先ほどは弾かれたプッシュを、今度はデカゴブリンの顔面を打ち抜きました。


「ギャッ!」


 鼻を打たれたデカゴブリンが悲鳴を上げています。

 私にだって恐怖はあります! それでも善戦できている! それはミズモチさんが居てくれるからです。


 ミズモチさんと二人なら戦えます!


「グギャ!」


 デカゴブリンは、私とミズモチさんを厄介な相手と判断したようです。


 大きく跳躍して距離を取りました。


 不運というものはどうしてもやってきてしまうものです。


「ヒッ!」


 足がもつれて倒れていた高良君の元へ、着地したデカゴブリンが悲鳴を上げた高良君を見ました。


「いけませんね。ミズモチさん!」


《ミズモチさんはプルプルしながら、あなたへ話しかけています》


 私が呼びかけるとミズモチさんと意志が繋がったような気がします。


「痛いですが、すみません!プッシュ!」


 ミズモチさんが飛び上がり、私がミズモチさんを後ろから打ちました。


 高速で飛んでいくミズモチさんは、デカゴブリンの頭へと付着して酸素を奪います。


 もがき苦しむデカゴブリンへ、私は二度目の足の甲「ダウン」をお見舞いしました。


 上からミズモチさん。下から私の波状攻撃です。


 何度、攻撃を続けたのかわかりません。

 いつの間にか普段よりも大きな魔石が落ちていました。


 どうやら事なきを得たようです。


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