第23話 抜くわよ!!(with真望)

【異世界生活 10日目 16:30】


 明日乃あすのが魚に夢中で料理を始めてしまい、取り残される真望まも


「そういえば、俺達が魚捕りしている間、真望まもは何していたんだ?」

俺は何気なく聞いてみる。


「よく聞いてくれたわね。実はこれを作っていたの」

そう言って俺に、竹で作ったらしき、謎の道具を見せてくれる。

 

「お箸? ピンセット? なんだそれ?」

俺は竹でできた小さいピンセットらしきものを見てそう言う。


「実際使っているところを見れば分かるわ。丁度いいわ、流司りゅうじ、ちょっとこっちに来て」

そう言って真望まもが俺の手をひいてたき火の方に誘う。


 そして、真望まもはたき火の周りにある座布団代わりの葉っぱの山にちょこんと女の子座りをすると、ぺしぺし、と自分の太ももを叩く。


「?」

俺は首をかしげる。


「いいから、ここに寝なさい。膝枕よ!」

真望まもが少しキレがちに少し恥ずかしそうにそう言う。


 俺はすぐそばで魚を捌いている明日乃あすのを見るが、明日乃あすのは首を横に振り、膝まくらを仕方なさそうに薦める。どういう事だ?


 俺は仕方なく真望まもの横に寝そべり、太ももに頭を乗せる。


「横向きじゃないの、上を向いて」

真望まもがイライラしてそう言う。

 仕方がないので横を向いて寝ていた俺は仰向けになる。

 そして目の前には葉っぱの服では隠せない南半球が丸見えだ。

 こいつ分かっているのか? 葉っぱの服だと前から見れば胸を隠せるが、下から覗くと丸見えなんだぞ。スカートを覗くように丸見えになってしまう。それが葉っぱの服の弱点。

確かクマの毛皮が少し残っているはずだから早めに服を作ってやらないとな。

 まあ、南半球丸見えな件は言うと大変なことになりそうなので、黙っている。


「じゃあ、行くわよ」

真望まもはそう言って、さっきの竹製のピンセットっぽい何かを構える。


 ぶちっ!


「痛え!!」

俺は顎を押さえて転げる。


「我慢するの。流司りゅうじ、こっちの世界にきて、カミソリが無くて困っていたでしょ? だから、竹細工で毛抜きを作ったのよ。流司りゅうじが髭ぼうぼうで暮らすのは嫌なの。観念して私に髭を抜かれなさい」

真望まもはそう言って俺の頭を抱えるともう一度自分の太ももに俺を乗せる。

 

 毛抜きを見ると、二つの平らに削った薄い竹の板の端っこで小さな竹の板を挟んで樹液と麻の繊維で接着したみたいな形。そして反対側は綺麗に長さをそろえられている。言われてみると確かに毛抜きっぽい。


木鑷げっしきと言われる古代の日本で使われていた木製の毛抜きに似たものと思われます。江戸時代のころになると、鉄の加工技術が進み、裕福な武士などを中心に鉄の毛抜きに変わっていったと言われています」

神様の秘書で眷属神、そして俺のアドバイサーでもある秘書子さんがどうでもいい知識を教えてくれる。


「私は、流司りゅうじがかっこ悪い姿でいるのは嫌なの。お洒落な男の子でいて欲しいの」

真望まもが俺にお願いするようにそう言う。

 こいつのファッションや美容へのこだわりはすごいんだよな。

 明日乃あすのを見ると、「諦めて」と言いたそうな同情する顔で首を振る。


 そして、俺は拷問のような1時間を絶えることになった。


「なんとか、陽が落ちる前に抜けてよかったわ」

真望まもが満足そうな顔で頷く。

 横で見ていた一角いずみは何とも言えない顔をしている。散々叫んだからな。俺。


「でも、ひげが無くなったおかげで、さっぱりしたし、イケメンさんになったよ」

明日乃あすのも少し嬉しそうな顔をする。

 明日乃あすのも無精ひげはあまり好きじゃなかったのかな?


 ひげだけではなく、眉毛も少し抜かれてしまった。ちょっと鏡が見たいが、この世界には鏡はおろか、ガラスが存在しないんだよな。


「鏡が欲しいわね」

俺を代弁するように真望まもがそう言う。


「ガラスはまだまだ先だろうな。鏡はもっと先かな?」

俺は真望まもにそう答える。


「めちゃくちゃ痛かったけど、助かったよ。ありがとう真望まも

俺は一応、お礼を言う。俺の為にやってくれた部分もあるだろうし。

 まあ、多分、真望まもにしてみたら、自分の彼氏のつもりで、自分の彼氏はイケメンじゃなきゃダメみたいな考えなんだろうけどな。偽装彼氏だけど。

 俺は元の世界での真望まもと俺の関係を思い出し笑う。

 とりあえず、定期的に俺は真望まもにひげを抜かれることになるらしい?


「カミソリは欲しいわね。女の子達も色々大変なこともあるし」

真望まもがそう呟く。

 そうだよな。男だけじゃなくて、女の子だってムダ毛の処理は必要だもんな。


「近いうちに黒曜石は拾いに行った方が良さそうだな」

俺がそう言うとみんなもうなずく。

 やっぱり、普通の石を研いで作った石包丁だけでは限界がある。


「私がキャンプ守っていてあげるから、みんなで行ってきなさいよ」

麗美れいみさんが遠出するのを嫌がるようにそう言う。

 麗美さんは基本、怠け者だからな。医学以外のことにあまり関心が無い。黒曜石があればメスの代わりとかにもなりそうだけどな。


「とりあえず、明日あたり、水に浸けた麻の茎の様子見て、繊維が取れそうだったら取って、乾かして、明後日あたり、少し遠くまで探索にでも行く?」

明日乃あすのがそう言う。

 そう言えば麻を水に浸けてもうすぐ1週間か。そろそろいいのかもな。あまり腐り過ぎてもダメみたいだしな。

 そんな感じで、明日は、朝の剣道の稽古を終わらせたら、俺と、明日乃あすの真望まもで麻の繊維を取りに行くことになった。

 真望まもは麻の群生地に興味あるみたいだし、逆に一角いずみは、キャンプに残って魚を取りたいらしい。魚の干物も保存食としてあればあるほどありがたいもんな。


【異世界生活 10日目 18:00】


 そんな話をしたあと、夕飯の準備もできたみたいで夕食を食べる。

 俺が髭を抜かれている間、明日乃あすの一角いずみが魚を捌いて焼いてくれていたようだ。麗美さんは体調不良ということになっているので休憩中。


 刺身はちょっと怖いので焼き魚で食べる。いつもの塩味、魚の塩焼きだ。

 ちょっと熱帯魚っぽいカラフルな魚もいたが、まあ食べられた。スキル『鑑定』で魚の名前や、食べられるか、食べられないか、有毒かとかもわかるので助かるな。

 ただ、今日食べた魚はどれも日本で普段食べる種類とは違ってなんか、もそっとして脂がのっていない、美味しくない安いアジの開きみたいな感じだった。

 とりあえず、7匹捕った魚は1食で無くなってしまった。魚捕りは効率が悪いな。


「醤油とかお味噌欲しいよね」

明日乃あすのがそう言う。

 そうだな。魚にはやっぱり醤油と大根おろしだ。味噌で石狩鍋みたいな食べ方もしたいな。

 ちなみに、大根っぽい山菜もあるみたいで、たまに塩漬けの浅漬けみたいなものが出てくる。

 冬とかになったら、こういう自然の物は取れなくなるのかもしれない。寒くなってきたら保存食を貯める作業とかも必要になるんだろうな。

 あと、できたら、全員揃ったら、農業も始めたい。種とかも神様に言ったら作ってくれるのかな?

 まあ、その前に、この島を探索して全体を把握するのが先かもしれないが。


 ちなみに真望まもを鑑定したところ、レベルは6。知力は低いけど、それ以外はバランスがいいので前衛向きの戦士って感じかな?

 ちなみに現在のメンバーのレベルは、


流司りゅうじ レベル8 レンジャー見習い 

明日乃あすの レベル7 神官見習い

一角いずみ レベル8 弓使い見習い

麗美れいみ レベル10 魔法剣士見習い

真望まも レベル6 戦士見習い


 毎日、麗美れいみさんが先生になって、剣の稽古と筋トレをしていたので少しずつだが経験値も入り、みんな、少しだけレベルが上がった。

 秘書子さんの話だと、レベル11になると見習いではなく正式な職業になるらしい。

 というか、サバイバルが忙し過ぎて、この世界が異世界で、RPGっぽいルールもあることを忘れていたよ。

 俺は投擲のスキルを身に着けたのとサバイバル生活を頑張り過ぎたせいかレンジャーという職業になったっぽい?

 そして、明日乃あすのは神様に一生懸命祈っていたので神官になれるらしい。回復魔法とか使えるようになるのかな?

 まあ、職業はスキルやステータスでころころ変わるらしいし、うん、適当だな。

 

 あと、仲間は2人増えるらしい。どんな子が来るかこれからも楽しみだな。


 夕食後はそれぞれ、思い思いの作業、明日乃あすの真望まもは毛皮で洋服作り、俺は石斧を研いだり、石包丁を作ったり、一角いずみは塩づくりなど、そんなこと3時間ほどして、歯を磨き、みんなで神様にお祈りをして、寝る。いつも通り見張りを立てて。


 今日の、夜の見張りは、明日乃あすの、俺、一角いずみさんの順だ。


 なんか、明日乃あすのも仲間たちも、俺と明日乃あすのがイチャイチャしているのを隠したり、知らないふりをしたり、気を遣うのが面倒臭くなったみたいで、なぜか明日乃あすのと俺は一緒のシェルター(家)で寝るようになっていた。明日乃あすののシェルター(家)は真望まもが使うみたいだ。

 で、俺が見張りをする時間の前の見張りは絶対、明日乃あすのと決まっているようで、明日乃あすのと俺が見張りを交代する時、1時間ほどイチャイチャするのがお約束になっていた。なんだかな。

 

 次の話に続く。

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