第28話 消えた鬼の餌
「キャァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
女子生徒たちの悲鳴が廊下に響き渡る。
「お、おい……!」
被害を受けた生徒から遠ざかる生徒と、悲鳴を聞いて駆け寄る先生方。
その場にいる風雅以外の全員が青ざめる。
「あ、……あの人を捕らえろ……!!」
教員の一人が風雅を指さして叫ぶ。
数人が風雅に立ち向かおうとする。
「やめて!危ないから来ないで……!!」
エレンが必死に教員たちに叫ぶ。
エレンが大きな声を出すと、風雅に胸ぐらを掴まれた。
「ひいっ」
風雅は低い声で淡々と告げる。
「大きい声を出すんじゃねえ。色んな目が俺に向くのは嫌いなんだよ。
んでさっきの話の続きだ。レオナは死に際に『私は光は継がない。別の人だよ』と言った。
シャルム家の子はレオナかお前しか居ない。ならばお前が光術を継ぐはずだ」
騒ぎを聞きつけた
同時刻、ルークたち他2人の
「さっきから風雅が言う『光を継ぐ者』って何なの?そんなに重要なの?」
エレンは顔を
「この世の魔術は闇と光から全て派生してるのは知ってるだろ。今では古代魔法と言われる光術と闇術は百年程で『継ぐ者』が現れる。
光は創造、あらゆる生命や惑星を創る。反対に闇は破壊、光を妬みあらゆるものを奪い壊す」
「闇、
エレンがぽつりと言うと
「闇術の派生を使う俺に言うのか」と風雅に脅された。
「そして今年俺の
なのにお前はまだ光術を継いでいない。証のペンダントもしていない」
「ペンダント?」
わざと聞こえるように大きなため息をつく風雅。
「いちいち説明すんのだりぃな。王宮の図書館かどっかに関連資料あるだろ、それ読め」
風雅の赤い目がエレンの黒い目を睨みつける。
「俺は父親が嫌いだ。さっさと殺してもらいたい」
「え」
「毎日毎日臭い肉しか食わしてくれねぇ。実験体の叫び声を聞くのにももううんざりだ」
苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる風雅。
エレンはその役目を自分が担うことに困惑していた。
「えぇ…………、風雅は泣く顔を見るのは好きじゃないんだ」
「アイツと一緒にするな。闇術には光術しか効かない。俺には倒せない」
しばらく胸ぐらを掴まれたままエレンは考えた。
そしてぽつりと呟く。
「反抗期か」
「あ゛?」
「いや、何でもありません」
また一つため息をつく風雅。
「今だ!油断している隙に!」と
先程の教員や目撃した生徒が突然、風雅に魔法の集中攻撃をしようとした。
エレンと彼が話している間にタイミングを図って皆で目配せをしていたようだった。
「じゃーな」
皆の様々な魔法が風雅の黒いマントに届きそうな瞬間に彼が大鎌の柄の部分を地面にドンと刺した。
瞬きひとつする間に風雅は消えていた。
複数の魔法が虚しく、彼が元いた場所でぶつかり合って落ちた。
風雅に殺された生徒の頭も身体も残っていなかった。
そこにあるのは血溜まりだけ。
「あ!?あれ、斬られた頭も身体も残ってないぞ!!」
その場にいた生徒や教員たちがざわめき、グサグサとエレンに視線が刺さった。
エレンが一歩踏み出すと同時に両足から力が抜け、体が鉛のように重くなってその場に倒れ込んでしまった。顔面は蒼白で、唇はぶるぶる震えていた。
「あ、あの、えっと、ほ、保健室いこ!」
動揺した様子を隠さない珊瑚に肩を借りてエレンは項垂れながらその場を去る。
呆然と立ち尽くす人も居れば、コソコソと噂話をする人、消えた同級生を探す人、どうすればいいかと右往左往する人もいた。
エレンだけが、消えた同級生がどうなるか解っていた。
風雅もヴィルジールも、闇術の派生を操る者はだいたい何でも食べる。
──────それが人の肉でも。
きっとあの子はこれから喰われるんだ。
それがなんの音かは目で見ていないから予測でしかないが、きっとそういうことであろう。
─────今日は情報過多で疲れた……
その日エレンは早退し、疲労で曖昧な彼女の記憶の中で、連絡を受けた義兄の衣吹が竜巻の如く全速力で迎えに来たのだけは覚えていた。
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