第4章 どうなる西園寺グループ

俊からの電話

 綾が大門に紹介しようと思ったのはジャネットだった。

綾はジャネットが声フェチであることを知っていた。大門の声はいい。綾も大好きな声で、絶対にこんなことは巧に知られてはいけないけど、これだけは巧よりも上だと内心思っている。ジャネットも絶対気に入る声だと綾は直感していた。


「ねえ、ジャネット。あなた結婚する気はあるの?」

「あります。ありますよー綾さん、恋愛というより結婚したいです。誰か紹介してください。」

「えー、だってKAZUKIどう?って聞いたとき、好みじゃないって断ったじゃない。」

「そうですね。実はあの時彼氏がいたのです。それにちょっとKAZUKIは軽い感じがしたから断りました。でもしばらくして、彼が仕事でアメリカに帰ることになって、私は別れました。そしたらKAZUKIはあんなに変身しちゃって、ちょっと私ミスちゃいましたね。」

「フフフ、いろいろあったのね。知らなかった。なぜジャネットはその彼に付いて行かなかったの?」

「私、日本が好きなのです。特に日本の四季の移り変わりや食べ物が好きです。アメリカにはこのような情緒や繊細な味も種類の多い食べ物もありません。」

「ふーん。彼より日本を選んだの・・・あのね、ジャネットに一人紹介したい人がいるのだけど会ってみる?」

「はい。綾さんの紹介なら安心です。是非お願いします。」

「そうだ、彼はいずれ山梨に引っ越すと言っていたけど、そういう人でも大丈夫?」

「山梨ですか? 」

「行ったことある?」

「あります。自然が多く、空気が良かったことを覚えています。」

「でも東京みたいになんでもあるようなところではないわよ。」

「そうですね。でも大丈夫だと思います。あの、ところで何をしている人ですか?」

綾はジャネットに大門がレストラン経営をしたくて、それを大嶋がやめさせようとした出来事を話した。

「面白い。なんだか大嶋さんという人もいい人ですね。私アメリカに居たころビーガンにはまっていたのです。でも日本に来てやめました。それでも興味はあります。それにジビエも野菜も。大門さんという人に会ってみたいです。」

「わかりました。では二人の日程を調整してお見合いしましょう。」


 綾は以前大嶋が連れて行ってくれた野菜のおいしい料理店の個室を予約した。もともとここは大門の紹介と大嶋が言っていたので、大門にも相談してここにした。

巧にもそこの料理を食べさせたいと思って連れていくことにした。

「大門さん、こちらジャネット。フランス系アメリカ人で英語教師をしています。でも本当は英語だけでなく5ケ国語を話せる才女です。そして、少林寺拳法もテニスもゴルフもできるスポーツマンです。それになんといっても美人でしょ。」

「大門さん、ジャネット・カミュです。よろしく。」

「大門 忠志ただしです。よろしくお願いします。」

「わあ!」

思わずジャネットが声を上げた。

「フフフ、ジャネット。驚いた?」

「vary favorite voice!」

「でしょ。そうだと思ったの。」

大門はポカンという顔をしていた。巧が大門に、「好みの声だと言っています。」とこそっと伝えた。

「では、あとはお二人でゆっくりしてください。私達はあっちで食事するから。」

「ありがとうございます。あっ綾さん、私一つお伺いしたいことがあります。」

「何かしら?」

「あの、綾さんは巧さんと結婚するのですか?」

唐突なジャネットの質問に、大門と巧はむせた。

「急に何を聞くかと思ったら・・・ジャネットは私が巧と付き合っているのを知っていたの?」

「はい。マークに英語を教えていた時から気が付いていました。」

「そう。そんな前から・・・」

「それでどうなのですか?」

「今言えることは、考えていないという事ね。」

巧は緊張して聞いていた。

「どうしてですか?」

「血は繋がっていなくても姉弟だし、私がきれいでいるためかな。」

「うーん・・・そうなんですね・・・なるほど・・・」

「もういいでしょ。ではごゆっくりねー」

綾と巧は部屋を出た。


「巧、さっきの話気にしているの?」

「別に・・・」

「別にっていうときは気にしているってことでしょ。ちゃんと話をしましょうね。」

「聞きたいような聞きたくないような・・・」

「巧、私はあなたのことが大好き。ずっとずっと一緒に居たいと想っています。でもね、血は繋がっていないとはいえ、戸籍上は姉弟でしょ。それに一緒に仕事もしている。だから結婚は考えていません。それにね、結婚しちゃうと安心してしまうような気がするの。私は生きている間は少しでも綺麗でいたい。それには少しの緊張感も必要だと思うのよ。いつまでも巧をドキドキさせたいの。ダメ?」

「綾さん・・・」

「巧・・・安心しなさい。私はあなただけだから・・・」

「わかりました。綾さん。」


 僕は正直綾さんと結婚したいと思っている。紙切れ一枚のことかもしれない。でもその一枚でどれだけの安心感をもらえるかと何度も考えた。しかし、綾さんは結婚はしないと言うことは分かっていた。でも、正式に聞いてしまうと複雑な思いは拭えない。それでも切り替えよう。綾さんは多分僕よりは6歳くらい年上。気にはしないと言ってはいるけどどうしても歳の差は気になるだろう。僕の為にもそうしたいならあなたの想うようにすればいい。僕はあなたにずっと寄り添うから・・・どんなに歳を取ってしわくちゃになっても・・・僕はあなたを愛し続ける。



 綾の見込んだ通り、大門とジャネットは直ぐに意気投合し、なんと6ヶ月後には結婚をした。

「綾さんの思った通り、あの二人早かったですね。」

「フフフ、これで巧も安心でしょ。」

「何言ってるんですか・・・」


 結婚式には大門のお父様も車椅子で出席できた。しかし、その1ヶ月後残念ながら亡くなった。レストランのオープンには間に合わなかったが、お父様に大門の気持ちも伝わり、幸せな姿も見せれた。お父様が喜んでいたということを聞いて綾は安心した。



 俊から朝早く電話が入った。

「綾姉、起きて!」

「うーん、俊なんなの朝から・・・」

「まあ、こっちは朝じゃないけどね。そんなことはどうでもいいんだ。実はね、タローが監督で映画撮るって。それにKAZUKIとMOTOKIに出ないかってオファーが来たよ。それに映像監修はなんとルイなんだよ。」

「ホント? すっごい。タローは頑張ったのね。えっ、でも・・・なんでMOTOKIまで?」

「なんかね、タローは勘違いしていたみたいで、MOTOKIも俳優だと思っていたみたい。だから違うって話したんだけど、セリフそんなにないからいいって・・・」

「へー、MOTOKIなんて言うかな? 少し演技の勉強させないとダメかな・・・アッゴメン。俊、それで私は何をすればいいの?」

「『凛』で衣装をやってって。」

「うれしい・・・俊、本当にあなたは最高の友達を私に紹介してくれたわ。」

「ラッキーだったよね。それで至急ミーティングしたいって。タローが久しぶりに日本に行くって。」

「いつ?」

「まだ決まっていないけど近々。決まったら連絡するから、僕も行くし。だからいろいろ考えておいて・・・じぁあね。」

綾の心臓は高鳴っていた。このチャンスを目一杯活かす手立てを考えよう。


 綾はKAZUKIのマネージャーの田中に連絡を入れ、この旨を話した。

あまりのことに田中は悲鳴を上げた。

「綾さん、ハリウッドですか?」

「そうよ。」

「な、なんということでしょう。綾さんが以前に言っていたことが現実になってしまった。」

「フフフ、良かったわね。それでね、至急KAZUKIのスケジュール教えてくれる?それと長期のモノが入りそうだったら決める前に連絡してくれるかしら。あと、近々監督が来日しますからミーテング。それにも対応お願いします。」

「わかりました。至急、社長とKAZUKIにも伝えます。」

「よろしくね。」

 

「マーク、悪いけどMOTOKIを至急ここに呼んでくれる? そしてミーティング。」

「いいけどどうしたの急に?」

「凄い話が来ているの。タローが映画撮るって。それにKAZUKIとMOTOKIに出ないかって。さらにその映画の衣装『凛』でやらないかって。」

「えっ・・・」

いつも多弁なマークが固まった。

「綾さん・・・ホントなのそれ・・・」

「本当よ。」

「綾さん・・・夢みたい。でもちょっと待って、MOTOKIも映画に出るの?」

「タローが勘違いしていたみたいでね。MOTOKIも俳優だと思っていたみたい。」

「そうなんだ。」

「だからね。MOTOKIにそのつもりがあるか至急聞きたくて。直接話さないと。」

「わかったわ。連絡する。」

マークはMOTOKIに連絡をした。閉店後20時からS・GビルⅠのブティックRinでミーテイングをすることになった。


 ミーティングには巧も同席させた。

「ねえMOTOKI君、マークから聞いたと思うけど、どう? 映画に出てみる気はある?」

「綾さん、あまりにも唐突なことなので驚きすぎてどうしていいかわかりません。少し考えさせてください。」

「ふーん。直ぐに断らないということは脈があるのね。」

「僕、子供の時少しだけ劇団に入っていたことがあったのです。母親が勝手に申し込んでしまって。だから演技は未経験ではありません。でも、ハリウッドですからね・・・」

「へー、まあ少し考えてみて。でもあまり時間がないから3日あげます。」

「わかりました。」

「それとマーク、ひとつ伝え忘れていたのだけど、映像監修はルイなのよ。だからきっとすっごくきれいな映像になると思うの。その中で『凛』で服を監修するとなると何が必要か考えてみて。」

「本当にタローもルイも凄いな~どんな映画なのかもまだわからないから何とも言えないけど、女性物もよね。」

「そうね。それも視野に入れておいて考えておいてください。」

「OKよ綾さん。僕からもいいですか?」

「何かしら?」

「ハリウッドのお店の件ですが、売上は良いのですが、今の店長が辞めることになって、次の人を決めかねているのです。」

「何で辞めるの?」

「お父様が倒れられて、田舎に帰ると言っています。」

「そう。それで次の人なんで決められないの?」

「出来れは日本人がいい。やっぱりアメリカ人は細かくないのでなんだか僕だけイライラして持たない。なかなかいい人がいなくて・・・」

「そう、私も気にしておきます。そうだ、晴美にも頼んでみるわ。それと、映画の衣装を手掛けるとなるとそれなりのスタッフもいるし、それをまとめる人材もいる。当分は人探しね。」

「一番人探しが難しい。製作スタッフは少し心当たりがあります。今使っている工場で手の良い職人さんが数人年齢を理由に辞めたのです。辞めさせられたと言った方がいいかもしれません。その人たちを押さえておきます。あとは探すしかないですね。」

「そうねー、全てオーダーメイドになります。」

「あの・・・綾さん、マーク、僕出来ればその映画の衣装をやりたいです。映画に出ることより、そっちがやりたい。ダメですか?」

「MOTOKI君、そっちの方が興味あるの?」

「はい。実はオーダーメイドやセミオーダーメイドに興味があって少し勉強しています。さらに最近服の歴史とかも勉強を始めました。」

「へー、いい心掛けね。でも映画となると大変だと思うわよ。それにハリウッドでの打ち合わせが殆どだろうから、英語話せないとね・・・」

「綾さん、それも大丈夫です。僕、KAZUKIと撮影した時ルイの話している内容が全て聞き取れなくて、恥ずかしくてそ必死にから勉強しました。だからもう大丈夫です。」

「もー、MOTOKI君ったら、あなたには感心させられるわ。わかりました。私はあなたが担当してくれれば安心だわ。あとはタローがどう思うかよね。マークも、それていい?」

「僕はその方がいい。それに出来ればハリウッドの店はMOTOKIに任せたい。」

「そうね。でも今両方は無理ね。少し考えましょう。」


「俊、なに?」

「綾姉、明後日こっちを発つよ。」

「えー、そんなに急なの?」

「タローとルイが明後日、僕は1日遅れて行く。詳しいことは後でメールするから、いろいろよろしく。僕はそこに泊まるのでいいよね。」

「わかったわ。準備するわ。」


「巧、タローとルイそして俊が来ます。俊は2階に泊まるのでよろしく。あとの二人はホテル取っているだろうから、空港へのピックアップは巧お願い。私も行くけどね。彼らの詳しいスケジュールはメールが入ってきます。」

「わかりました。しかし急ですね。」

「ホント、何かあるのかしら・・・」
















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