第2編 作家編

作家?

「綾さん、今どちらですか? 」

「巧・・・どうしたの? 今何時? 」

「寝てたんですか? もう18時ですよ。」

「もうそんななの。うーん・・・」

「綾さん寝ぼけてます? 直ぐにTransformerに来られますか? 」

「・・・15分待って・・・」


綾はどこでもいつでも寝れる。少し疲れたときは直ぐに寝る。これが綾の特技。この特技があるから綾はいつも元気で行動的だ。


「巧~お待たせ!」

「あら、並木さん。 Transformerに来るなんて珍しいじゃない。どうしたの?」

「綾さん、さっきから並木さんがお待ちだったのです。」

巧は綾にあきれ顔で言った。ビューティサロンRinの店長並木がカウンターに座っていた。

「綾さん突然すみません。」

「お待たせしてごめんなさい。並木さんどうしたの? お店のこと?」

「いえ、お蔭様でお店は両店共に順調です。今日は別件でご相談がありまして・・・」

「へー、どんなこと?」

「実は僕には弟のようにかわいがっている従弟がいます。作家をやっています。デビュー当時は〇〇新人賞を受賞するなど順調な滑り出しだったのですが、デビューして10年、今では筆が止まってしまい悩んでいます。僕は物書きの方面は全くわからないので、アドバイスも出来ません。唐突なのですが、綾さん、あいつをどうにか復活させていただけませんか。」

本当に唐突な話だった。今まで多くの人を変身させてきた綾だったが、それは商業ベースの人が多かった。その方面はいろいろ伝手もあるし知識もある。だから出来てきたこと。KAZUKIの時も不安はあったが、ロスで演劇スクールをやっている晴美もいたので話は受けた。しかし、作家となると話が違う。流石に文章を書くことは教えられない。

「並木さん、私は魔法使いではありません。どんな人でも変身させられるわけではないのです。今までは全て商業ベースの方々が多くいろいろ伝手もありましたが、作家となると未知の世界です。」

「すみません綾さん。でもご相談できるのか綾さんしかいなくて。僕、あいつをどうにかしたくて・・・一度会ってもらえませんか? 」


綾は少し悩んだ後、仕事の顔になってこう言った。

「・・・並木さん、三つ質問があります。ひとつは、その彼自信が今後どうなりたいとか何か野望とか夢をもっているのかということ。二つ目はもし私が仕事を引き受けた場合に、彼は私の指示に従う気があるのかということ。三つめは、私はこの仕事を慈善事業でやっているわけではありません。若い人が目指す上の世界に向かって手助けをするという基本理念はありますが、報酬はいただきます。その報酬はどなたがお支払いになるのかということです。」

「まず、今彼は悩んでいてはっきりとした目標がつかめていないと思います。今まではとにかく書きたいものを書いてきただけだったので。そこについては目標設定を明確にするということのお手伝いをしていただきたいです。綾さんの指示に従うかどうかに関しては一緒に確認したいです。あと、報酬に関しては僕が払います。」

「並木さんはそんなにその従弟さんのことを可愛がっているの? 」

「はい。彼は並木なみき 俊介しゅんすけと言って父の弟の子供です。早くに両親が事故で亡くなられたので、僕の家で育ったのです。だから僕にとっては実の弟と同じです。彼は書くことは好きでしたが、人と接するのが苦手でした。その為、大学まで通わせましたが、殆ど小説を書いている毎日でした。賞も大学4年の時にとり、大学を卒業してからは小説家として一人暮らしをしています。でもここにきて生活費も厳しい状況になっているようで・・・だから心配なのです。」

「・・・並木さんの気持ちはわかりました。お引き受けできるか今の時点ではわかりませんが、少しお時間をください。私なりに考えてみます。」

「綾さん、無理を言って申し訳ございません。何卒よろしくお願いいたします。」

並木は帰っていった。


「巧、どう思う?」

「難しいですね。作家だと何をしていいかわかりません。うちの仕事とも結び付きづらいし・・・」

「・・・」

綾はジントニックを飲みながらずっとグラスを眺め一人考えていた。

「巧~今日この後のお客さんは? 」

「今日はご予約有りません。」

「そう・・・巧のとこで飲みたいかな。」

「・・・5分待ってください。」

巧は店を閉め、綾の腰に手を回し巧の部屋に消えて行った。

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