魔剣英雄軍を舞台にしたヒロイン達を攻略すると冒険に超役立つ特典がもらえるゲームのハズレ主人公に転生したんだが、俺と出会った女が皆ヤンデレ化してしまうのでシナリオが完全崩壊してしまってる模様です。

新田竜

第1話 ジュナという名の悪役ヒロイン!

 ツーツンツ王国 魔術剣術英雄軍(略称 魔剣英雄軍)ルーフェンス・マークス第182番 伍長ごちょう


 それが俺の転生先での肩書きだった。


 なんでよりによってなんだよ!


 白髪はくはつに金縁丸眼鏡、青白い顔には無数のそばかす!


 そんなどう見てもパッとしない見た目のルーフェンス・マークスは、俺が転生前に激ハマりしてやり込みまくっていた『魔剣英雄軍の愛と栄光』という、恋愛要素も立身出世要素も冒険・レベル上げ要素もある欲張り設定の最愛のゲームの、7人いる主人公の中で最も人気のない所謂ハズレ主人公だった。


 ゲームを7人の主人公の誰でプレイできるかは全くの運で、大抵のプレイヤーはこのルーフェンス・マークスでプレイしなければならないとわかった時点で、電源をオフにしてしまうのだった。


 なぜ、そんなにこのルーフェンス・マークスが不人気なのかと言えば、全くモテないからである。

 実直だが頼り甲斐がいのない性格が見た目にもモロに出てしまっている、まあ、異性にはまず相手にされない残念なタイプの男。

 そんな男をモテがかなり重要視されるこのゲームの主人公に選ぶプレイヤーはまずいないだろう。

 なぜ、このゲームでモテが重要視されるかと言えば、7人いるヒロインといい感じになれば、ものすごい特典がついてくるからである。

 だから、このルーフェンス・マークスを主人公に選ぶということは、そのものすごい特典を手に入れることを端から諦めなければならないということになってしまうわけだった。

 



 それで、その日俺は、ヒロインたちのことはきっぱり忘れて、この『魔剣英雄軍の愛と栄光』の立身出世要素と冒険・レベル上げ要素だけを見た目通り実直に楽しむしかないななどと考えながら、ツーツンツ王国 王都レノス・ツーツンツにある魔術剣術英雄軍の建物の長い廊下を歩いていたのだった。


「・・・・・・あの、英雄軍の方ですか?」


 その女にそう声を掛けられた時、俺は彼女のあまりの美しさに思わず後退あとずさりしてしまった。


「父にお弁当を届けに来たんです! でも、今急に母が倒れたという連絡があって、なのですぐに帰らないといけないので、大変申し訳ないのですが、このお弁当を父に、魔術剣術英雄軍で魔術の第一教授をしているメービラ・ヘッケルトという者に届けてもらえないでしょうか?」


 燃えるようなあかいロングウェービーヘアに吸い込まれそうな大きく美しい紅い瞳。

 とにかくこんな美人を間近で見たのは、前世も含めて初めてのことだった。


 俺は少しの間、その女にすっかり見とれてしまっていたのだが、何とか我に返ってこう答えた。


「・・・・・・ええ、わかりました。ちょうど今からヘッケルト教授の魔術講義を受けにいくところですのでお任せください!」


「ありがとうございます! 申し遅れました! わたくし、ジュナ・ヘッケルトと申します!」


「これはご丁寧に。私はルーフェンス・マークスと言います。まだ駆け出しの第182番伍長です」


「伍長さんなんですね。じゃあ、まだ学生さん?」 


「はい。まだ実践経験はない学生です」


 そう。俺は伍長とは名ばかりの部下なんて一人もいない、魔術剣術英雄軍の建物の中に併設されている魔術と剣術を嫌ってほどたっぷりと学ぶことのできる英雄学園の一学生なのだった(この英雄軍では伍長が一番新入りで一番下っ端なのだ)。


「・・・・・・そうなんですね。勉強頑張ってください!」


「はい。ありがとうございます!」


「じゃあ、ルーフェンス・マークス第182番伍長さん、このお弁当、父によろしくお願いしますね!」


「はい! わかりました!」


「・・・・・・で、こっちは作りすぎちゃった分で、よかったら食べてください。自分で言うのもなんですが、美味しいと思いますよ。わたくし、ちょっと料理には自信があるんです!」


 そう言って、彼女は二つのお弁当(なぜか俺の分の方がデカかった)を無理矢理渡してきたので、俺は仕方なく受け取ってこう言葉を返した。


「じゃあ、遠慮なく食べさせてもらいます!」


 すると、ジュナ・ヘッケルトは満面の笑みを浮かべて最後にこう言ったのだ。


「お弁当箱は返さなくていいですからね! ・・・・・・・じゃあ、わたくし本当に急ぎますので! ・・・・・・ああ、あと、父は母のことをもう知っているので伝えなくても大丈夫です! ・・・・・・じゃあ、お願いしますね、ルーフェンス・マークス第182番伍長さん!」


 まったく、女性経験が皆無の男は本当に情けないものだ。

 そうやって言って、ジュナ・ヘッケルトが小走りに駆けていき、完全にいなくなってから俺は全てを思い出したのだった。


 これは、あのじゃないか!


 このは『魔剣英雄軍の愛と栄光』の最序盤に必ず発生するイベントで、プレイヤーは必ずと言っていいほどその後のムフフな展開を期待するのだが、このイベント自体がなかったんじゃないかと思うほどにそんなものは一切起きないのだ。


 ツーツンツ王国一の攻撃系 魔術師マジシャンであるヘッケルト教授の一人娘であるジュナ・ヘッケルトは、7人のヒロインのうちの一人なのだが、最も攻略が難しいヒロインとして知られていた。


 だが、もし完全攻略できれば、全ての攻撃系魔術のレベルを通常の10分の1の経験ポイントで上げることができるようになるのである(つまり攻撃系魔術で無双できる!)。


 しかし、俺はこの『魔剣英雄軍の愛と栄光』を誰もが引くくらいプレイしてきたのだが、彼女を完全に攻略できたことは一度もなかった。


 だから、このゲームのヒロインは7人じゃなくて6人なのではないかと言うプレイヤーもいるくらいだったのだ。





         ⚫





「ルーフェンス! お前、ジュナ・ヘッケルトと話したんだって?」


 一緒にヘッケルト教授の講義を受けていた(ヘッケルト教授にはすでに講義前に弁当を渡した)第139番伍長、ヤーバス・ロダノが興奮した声で俺に言ってくる。


「・・・・・・話したよ」


「大丈夫だったか?」


「何が?」


「好きになったりしなかっただろうな?」


「なっ、なるわけないだろ!」


「なら、いいんだけど。なんでもかなりの男嫌いらしいからな!」


「男嫌い?」


「ああ。だから・・・・・・ジュナ・ヘッケルトとお前が話してたって聞いた時はとても信じられなかったよ!」


 たった今、深い青色の癖っ毛でちょっと背の低い俺同様パッとしない見た目の親友、ヤーバス・ロダノ第139番伍長が話してくれた内容は、実は俺も知っていた。 


 ジュナ・ヘッケルトは男嫌いのくせに、ああいう意味ありげな行動をして男に無駄な期待を持たせるのが好きななのである。


 でも、期待させるだけさせておいて、その後はガン無視!


 さらに言えば、熱を上げてしまった男がしつこく付きまとおうものなら、父親の権力を使ってこの魔術剣術英雄軍からその男を追放してしまうという根っからの悪女で、プレイヤーたちのヘイトを一身に集めている極悪ヒロインなのだった。


 俺はヤーバス・ロダノ第139番伍長とひとしきり話し終えたところで、ジュナ・ヘッケルトから貰った特大の弁当箱の蓋を開けた。


 すると、その白いご飯にはピンクに染められたそぼろでこう書いてあったのだ。



『わたくしの愛を受け止めてくださりありがとうございます! あなたを永遠に愛します! あなたの愛するジュナより♡』




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第1話を最後まで読んでいただきありがとうございます!


ここまでお読みになって、もしちょっとでも「なんかおもしろそう!」「これは期待できるかも!」と思っていただけましたら、作品フォロー、★★★評価していただけるとめちゃくちゃうれしいです!


皆様からの応援が駆け出し作者の力になります!


精一杯おもしろい作品になるように努力しますので、どうか是非よろしくお願いしますm(__)m

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