第3話 ヘッケルト教授の㊙️講義その①

 ツーツンツ王国魔術軍では、伍長ごちょうになる(へいから下士官かしかんに上がる)と世界屈指の炎の魔術師マジシャンで、歩く魔術辞典とも呼ばれており魔術全般に造詣ぞうけいが深いヘッケルト教授の講義が受けられることになっている。


 その記念すべき第一回目の講義がこの日だったのである。


 大講義室には201名の伍長全員が集まっていた。欠席している者などもちろん一人もいない。なぜならこの日は最も重要な属性判定式の日なのだから。


 どれだけ魔術の才能があっても上位者からの判定を受けないと魔術を使うことはできない。その判定をツーツンツ王国ではヘッケルト教授が長年一手に引き受けている。


 なので、今では軍の上層部にいる人達もみんなこのヘッケルト教授には頭が上がらないらしい。


 白髪に白い口髭、それに金縁の丸眼鏡。俺にはヘッケルト教授はかなりのおじいさんに見えた。

 あのジュナ・ヘッケルトは大分年を取ってからの娘なのだろうか。




「俺は絶対、火属性がいいんだけどな」


 とヤーバス・ロダノ第139番伍長が俺に言う。


 判定式は一人ずつ壇上に呼ばれて行われる。

 順番は上位順。

 つまり、第1番伍長から始まり、第201番伍長まで延々と続く。


「だって火属性が一番 剣士ソーズマンに合った属性だろ? まあ、氷属性か水属性でも最悪いいけど・・・・・・やっぱり火属性の剣士ソーズマンになりたいよな。ルーフェンスだってそうだろ?」


 正直俺は何だって良かった。

 もっと正確に言えば何だってありがたく頂戴しようと思っていた。

 だって、前世では当たり前だけど俺に属性なんてものはなかったんだから。

 何だってもらえるだけありがたい。


「属性っていくつあるんだっけ?」


 と俺が訊くと、ヤーバス・ロダノ第139番伍長はわざとらしくため息を吐いてからこう丁寧に教えてくれた。


「13だよ、13! 火、氷、水、光、風、地、木、雷、時、霧、無、幻、闇の13属性、常識だぞ、こんなの! ・・・・・・ただし、火属性だけは術者がAA級以上の実力者になると炎属性に変化する! 俺は火属性になって、炎の魔術師マジシャンと炎の剣士ソーズマンの両方を目指したいんだよ! どっちも極めないと一流とは言えないからな。俺の憧れのシュリンバー・シュトレイ大尉たいいだって炎の魔術師マジシャン兼炎の剣士ソーズマンだし!」


 ヤーバス・ロダノ第139番伍長の言う通り、ここツーツンツ王国魔術軍では魔術師マジシャン剣士ソーズマンの両方をこなさなければ一流とは認められない。

 魔術だけが優れていても、剣術だけに秀でていてもあまり評価されないのだ。

 両方を身につけて初めて実戦で役立つというのが、ツーツンツ王国の上層部の誰もが持っている共通の認識なのである。


 なので、伍長になるとヘッケルト教授に魔術を習い、もう一人、ツーツンツ王国一の剣士ソーズマンであったトラバウト・ビネラー教授という人に剣術を習うことになっている。


 噂ではヘッケルト教授とビネラー教授はとても仲が悪いらしい。




         ⚫




 判定式が始まって数時間経過したその時、


「では、次の人!」


 とヘッケルト教授の助手の男に呼ばれて、ヤーバス・ロダノ第139番伍長が立ち上がり壇上に向かっていった。


 ヤーバス・ロダノ第139番伍長が壇上にあがると、すぐにヘッケルト教授が彼の額に手を当てる。


 すると青白くヤーバス・ロタノ第139番伍長の額が光り始める。


「君は・・・・・・火属性ですね」


 とヘッケルト教授に言われると、ヤーバス・ロダノ第139番伍長は俺の予想通りその場で大きな声を上げた。


「火属性っ! やったっ!」


「おや、おや、そんなに火属性がうれしいのですか? 火属性は数が多いですからね。余程努力しないと埋もれてしまいますよ!」


「努力します、努力しますとも! 俺は絶対に炎の魔術師マジシャンと炎の剣士ソーズマンになります!」


「そうですか・・・・・・頑張ってください!」


「はいっ! 頑張ります!」


 俺はその様子を少し遠くから見ていたわけだが、本当に良かったなあと思ってもう少しで目から涙みたいなものが出てきてしまいそうだった。


 そんなふうにして、ヤーバス・ロダノ第139番伍長の判定式が終わってから、さらに2時間ほど経ってやっと俺の番が回ってきた。



「ああ、君は確か、お弁当を届けてくれた・・・・・・」


 と、ヘッケルト教授が金縁の丸眼鏡を押し上げながら言ってきたので俺はこう答えた。


「ルーフェンス・マークス第182番伍長です!」


「ルーフェンスくん! では、君の属性を判定しましょうか?」


「お願いします!」


 ヘッケルト教授は俺の額に手を当てると、少し考えるような仕草をしてからこう言った。


「ああ、君は・・・・・・雷・・・・・・と、火のですね」


「・・・・・・?」


「とても珍しいんですよ、二つ持ちは。それも雷と火というのはわたしも初めて見たかもしれない。・・・・・・ん、いやいや、これは驚いた! 君は時属性も持っているね。だ、君は!」


「・・・・・・?」


 と俺が聞き返すと、ヘッケルト教授は先程よりも深刻そうに何かを考えるような仕草をしてからこう言った。


「うーん、二つ持ちまではおめでとうと言ってあげられるんですがね、みつ持ちというのは・・・・・・」


「・・・・・・何か問題があるのですか?」


 俺がさすがに少し心配になってそう尋ねると、ヘッケルト教授はこう言った。


「問題? そうですね、少し問題が・・・・・・あるかもしれないですね。まず、みつ持ちは三つの属性すべてがあるレベルに達しないと次のレベルのことを習得できないんですよ。だから、これは二つ持ちにも言えることですが、どうしても器用貧乏みたいなことになってしまう。・・・・・・こんなことを言うのはどうかと思いますが、みつ持ちで大成した人をまだわたしは知らないんですよね。元々数がとても少ないというのもあるんでしょうが・・・・・・」


 ここまでですでに、何か俺に恨みでもあるのかと言いたくなるような内容だったが、ヘッケルト教授の話にはまだ続きがあった。


「・・・・・・そもそも普通属性は一人にひとつなんです。それが二つ、三つと増えるとそれだけ体と精神に負担がかかってくるわけです。それでも二つまではまあ、そんなに問題はないのですが、三つになると、さすがに、なんというか・・・・・・ずばり言ってしまうと、要は早死にしてしまうかもしれないんですね、負担が大きすぎて」


「早死に・・・・・・」


 なんか俺、今日そんなことばっかり言われてないか?


 そう思ってたぶん俺がものすごく不安そうな顔をしていたのだろう。


 ヘッケルト教授はそんな俺のことがさすがに可哀想に思えてきたのか少々早口でこう言ってくれた。


「でも、大丈夫ですよ! 確かここの図書館に、『みつ持ちでも早死にしない12の秘訣』という今では絶版になっている隠れた名著がありますから、それを読んで勉強すれば大丈夫! それに、そのみつ持ちの力を上手に使いこなすことができるようになれば、君はこのツーツンツ王国の至宝と呼ばれることになるかもしれませんよ! 頑張ってください!」


 そう慰められても、まだ少し落ち込んでいると、ヘッケルト教授は俺の耳元でこんなことを呟いてきたのだ。


「ああ、そうそう、わたしの娘はすごく気持ちいい・・・・・・ですよ」


 俺が驚いて、


「えっ?」


 と聞き返すと、ヘッケルト教授はさらに耳元でこう呟いてきた。


「すごい気持ちいい性格をした子なんですよ。ムフフフフ」



※※※

第3話も最後までお読みくださりありがとうございます!


ここまでで、俺(ルーフェンス・マー第182番伍長)のことを応援してやろう、もう少し見守ってやろうと思われたら、作品フォローや★評価をしてもらえるとすごくうれしいです!(応援コメントやレビューコメントもお待ちしております!)


【次回予告】

第4話 図書館での男女の語らい💗


図書館で語られる男女の話とは?

ぜひ盗み聞きしてください、の第4話っ!


どうぞ続けてお読みくださいませ

m(__)m



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