第三夜 眠りはすべてを解決する

第11話 真倉西高校生徒会

「おはよーっす」

「先輩! おはようございます!」

 妹ちゃんの元気な声に迎えられる。十一月もすぐそこに迫り、寒さが見え隠れしてきたというのに、彼女だけはいつでも暖かく迎え入れてくれる。毎度のことながら、部内唯一の良心だ。

 他二人は……まぁ、寝ている。見事に寝てしまっている。側近君はともかく、部長はいつ来ても部室にいるし、いつ来ても寝ている。そりゃ留年するだろうな。ってか、この調子だとまた留年コースなんじゃないか。他人事とはいえ、かなり心配だ。

 と、よく見てみれば側近君の姿がない。いつもなら部長の横で何か作業をしているはずなんだが……。

「ん、副部長は?」

「あぁ、なんか呼び出されたみたいっすよ。遅れてくると思います」

 あの野郎、ついに問題でも起こしたか。まぁ、俺としてはいい気味なんだが。

さて、となれば俺のやることは決まっている。また面倒なことを押し付けられないうちに寝ることだ。

そそくさとベッドへ向かい、布団に身を包む。さぁ、ここまできたらもう誰にも邪魔はされないぞ。

「部長!」

 今日もノルマ達成だ。また邪魔された。それも今日は大所帯である。ホントに何をしたんだあいつは。

「どうしたのさー、そんなに慌てて」

「……久しいな、夢原部長」

 聞き覚えがある声だ。けど、誰だ? 喉元まで出ているのだが、どうしても思い出せない。

「あ、あなたは!?」

 妹ちゃんが声を出す。ってか、これは俺以外の全員理解しているな。あの部長でさえ驚いた顔で客人を見ている。

「これはこれは。生徒会長が何の用で?」

「あ」

 そうだ、生徒会の面々だ。全校集会でたまに見る程度だからすっかり忘れていた。

 会長の姿が現れる。つやのある長い黒髪。凛々しい目。毅然とした態度も相まって、まさに理想の生徒会長といった風貌だ。

「お前らはたるんでる!」

まさに一喝。バトル漫画とかなら、俺たちは間違いなく吹っ飛んでいる。そのくらい威圧のある声量だ。

「聞こえなかったのか? お前らは……」

「わー、聞こえてます! 聞こえてますって!」

 これ以上、あんなものを食らっては鼓膜がもたない。

「なら返事をしなさい」

 声量を抑えたとはいえ、彼女の圧力が弱くなったわけではない。明らかに敵視されている。

 真倉西高校生徒会。一見、どこにでもあるような生徒会かと思われるがそんなことはない。さすがに学校内の権力を掌握しているわけではないが、それでも部活動の全権限を任されているって噂がある。そんな生徒会の活動につけられた異名は「部活狩り」。彼女たちから見てふさわしくない部活動はすぐさま廃部に追い込まれてしまう。校長も校長で生徒会を信用しきっているので、彼女たちが廃部と決めれば疑問もなく廃部にしてしまう。いわば全部活動生の天敵なのだ。

 そんな生徒会を取り仕切るのが目の前にいる生徒会長、崎守さきもり法子のりこだ。法を守るって名前からして真面目人間なのである。性格、容姿、名前までが生徒会長らしいって、もはやそうなるべく生まれたんじゃないか? そう言われても納得できるのが恐ろしい。

「とにかく、貴様らのようなサボり集団を野放しにはしておけん!」

「そんなこと言われてもねぇ」

 生徒会長を前にしても、部長の態度は全く変わらない。さすがといえばさすがなのだが、普通に考えれば会長の言うことはもっともだ。俺だって無理やり入部させられたわけだし。そもそも、俺たちってまだ同好会なんだし、目をつけないわけがないだろう。

「会長、お言葉ではありますが我が部は校内の役に立っているかと」

「ほう?」

 あの側近君が部長以外にこんな態度を示すとは。正直そっちのほうが驚きである。

それにしても、彼の言う役に立っているってなんだ? この同好会にも半年くらい所属していることになるが、今までそんな場面に出くわしたことがない。噂通りなら、ハッタリでやり過ごせるほど甘くはないと思うんだが……。妙に自信がある表情をしているのが怖い。

「私たちは日頃から睡眠について研究をしています。それは会長もご存じですよね?」

「あぁ、そう報告書にはある」

「そうです。私たちは研究をしているのです……部長のように日頃から寝続けることでね!」

 あぁ、忘れていた。こいつはバカだった。そんな当たり前のことでごまかせるわけがないだろう。ってかどうせこの同好会がなくても部長は寝てるだろうし。

「……ふむ」

「いや納得するんかい!」

「桜庭!」

「あ……すみません」

 思わず声に出てしまった。いや、ツッコむだろこれは。

 その間にも、会長は何かを真剣に考えていた。後ろに連れ立ってきた生徒会の面々と話し合いをしているみたいだが。

「……よし」

 会長がそう言った直後だった。生徒会御一行が突き合わせていた顔を俺たちに向ける。

「なら、お前たちを部活として認めるためのチャンスをやる」

「ホントですか!?」

「本当だ夢原妹」

 チャンス? 何か面倒ごとを押し付けられそうな予感がするんだけど。そうなったらまた俺に仕事を押し付けられるに決まってる。頼む、少しでも楽な頼み事であってくれ。

「実は我が尊敬し校長先生が多忙でな。このところ睡眠に悩まされているらしい」

「あぁ、そういえばここんところ走り回ってるのよく見るっすね」

「うむ、そこでだ」

 一度言葉を区切られる。まさかとは思うがさっきみたいなハイパーボイスを繰り出すんじゃ

「校長の不眠問題を解消しろ!」

 いてえ! 耳がいてえ! 今度こそ鼓膜なくなったんじゃないか!? 加減ってもんを知らないのかマジで。声が脳内で延々と響いている。脳内アリーナライブなんて開催した覚えはないぞ。

「よし、引き受けよう」

 かろうじて部長の声が聞こえた。よかった。俺の鼓膜はまだ健在らしい。そして予想通りの返答だ。

「うむ、期限は今月いっぱいだ。頼んだぞ」

「今月いっぱい……ってあと五日!?」

「何か不満か? 真面目に活動をしているなら十分すぎると思うが」

 ド正論だ。何も言い返せない。返答がないと知ると、「頼んだぞ」とだけ言い残し会長は部屋を後にした。

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