第116話 暇乞い

「ハァーーーーー」


 オレたちの顔を見るなり、オーロ王女はため息を吐いた。謁見の間ではなく、応接室のような部屋でのことだ。

 ソファーの肘掛けに片肘突きながら、何てことをしてくれたんだ、って顔してる。


「ひとまず、ご苦労様、と言えば良いのかしら? 救国の英雄さんたち」

「いやぁ、そんな英雄だなんて」

「嫌味よ。い、や、み!」


 分かってますよ。


「私は、サブルムの内情を調査してきて欲しい、と言ったのよ? 誰も国を救え何て言ってないわ」


 そーですね。


「まあまあ、それくらいでいいじゃない。懸念事項は一つ消されたんだから」


 とオーロ王女の横で同じソファーに座るファラーシャ嬢がなだめる。


「いや、何でファラーシャ嬢がここにいるの?」


 と皆で首を傾げると、


「ひどい! あんなに私が国に帰る前にお別れパーティーしようって言ってたのに!」


 ああ、そういえばそんな約束していた気がする。


「待てど暮らせど皆来ないから、私の方から出向いてきたわ!」


 ふふん。と胸を張るファラーシャ嬢。


「それについては私が悪かったわ。まさかファラーシャと約束していたなんて。知っていたら他の適当なのに調査に向かわせたのに」


 言いながらこっちを睨むのは止めて欲しい。


「でもリンたちが行ったから、サブルムの内戦がこんなに早く解決したんだもの。オーロは最善策を打ったのよ」

「ええ~、そお~、ありがとう」


 言いながらファラーシャに抱きつくオーロ王女。今更ながらこの二人ってどういう関係なんだろう?


「さて、それじゃあなたたちの英雄譚、聞かせてもらおうかしら?」


 ファラーシャ嬢に抱きついたままのオーロ王女に、オレたちはサブルムで遭遇した出来事を話した。

 はじめのうちは適当に聞いていたオーロ王女も、悪魔が出てきた辺りで、姿勢を正し、その表情が真剣なものに変わる。


「そう。それで洗脳されてた兵隊たちはどうなったの?」

「サードが消えたことで元に戻りました。ただ、王都の兵隊は全滅でしたけど」


 思い返すと口の中が苦くなる。


「悪魔サード……。ハァー、まさか悪魔が本当にいたなんて」


 オーロ王女はファラーシャ嬢と二人で難しい顔をしている。


「サードが口を滑らせた話だと、この国にもファーストって悪魔がいるらしい」

「「ファースト!?」」


 二人が声を合わせて驚く。


「心当たりがあるんですか?」


 オレたちは顔を見合せ、それから二人に尋ねる。


「ファーストはこの国アウルムの宰相補佐官よ」


 それってどれくらいの地位なんだ?


「宰相にもしものことがあった場合、その補佐官はどうなるんですか?」

「場合によるけど、宰相に繰り上がる可能性もなきにしもあらずね」


 なるほど。手柄は自分のものにしつつ、困ったことが起こったら宰相のせいにして、いざとなったら自分が宰相か。


「なんとも悪魔が喜びそうな役職ですね」

「そうね。何せファーストのために創られた役職だから」

「そうなんですか?」

「元々は下級貴族の出だったんだけど、騎士として城に出仕するようになると、その頭角をメキメキと顕してね。いつの間にやら伯爵として宰相補佐官になっていた男よ。宮中ではサクセスストーリーとして良くも悪くも注目されているわ」

「サードは引きこもりっていってましたけど?」

「? そんな印象はないわね。とても社交的よ」


 う~ん。


「じゃ、同姓同名の人違いってことで、この場は収めません?」

「その案に賛成。城では誰が聞き耳を立てているか分からないものね。それにファーストは優秀よ。国に利をもたらしてくれる。今はそれで十分よ」


 清濁併せ呑む度量は、さすが王族だな。


「サブルムを平定してくれたこと、改めて礼を言うわ」

「はあ?」

「サブルムとはもう何年も国交が無かったのだけれど、今回サブルム側から我が国の商隊キャラバンを受け入れる。と正式に申し出があったの。向こうとしても国は平らになったけれど、ものがなくて困ってるみたい。商業ギルドや商会はチャンスだって言ってるわ」


 確かに物は無いかも知れない。でも金ならあるから、高く売れるかは分からないなあ。


「さて、話はこれでおしまい。ありがとう。宿を用意してあるから、そこで疲れを取りなさい」


 とはオーロ王女。そして、


「私はしばらくお城で厄介になるから、お別れパーティーの日取りが決まったら教えてね!」


 とファラーシャ嬢。

 オレたちはその場から暇乞いをして、王都に用意してくれているという宿へ向かった。

 やっとゆっくり休める。

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