第72話 東走

 緑輝く山野を、オレたちは全速力で東へ東へと草根を分けて進んでいた。



 アインスタッドになんとかたどり着いたオレたちは、ハッサンさんに助けを求め、冒険者ギルドに駆け込んだ。

 オレたちが事情を話すと、ハッサンさんは快くオレたちを迎え入れてくれた。

 下手に外に出るとどんな厄介事に巻き込まれるか分からないから、買い物はユキさんがしてくれた。主に武器の調達だ。

 オレはもう素寒貧すかんぴんだったが、ギルドが立て替えてくれた。信用のある冒険者の場合、そう言ったこともしてくれるそうだ。

 マヤの手斧の調達とオレの大量の銅貨、それと炭を調達してもらった。オレの新たな武器「金剛弾ダイヤバレット」用にダイヤモンドに変えるためだ。

 武器の調達が終わるのと、オレがパスで呼んだアキラたちが冒険者ギルドに到着するのはほぼ同じだった。

 アキラや星☆剣 燎さんを呼んだのは、オレたちを二手に分けるためだ。

 戦闘能力の無いファラーシャ嬢の執事やメイドはこのまま西の王都「アウルミア」へ、アキラたちに護衛されながら行ってもらい、できるだけ早く王族との謁見、フィーアポルト領主への強権執行の手続きに入ってもらい、一方オレたちは北のツヴァイヒルからぐるりと迂回し、フィーアポルトの北に出て、北の海賊たちを強襲する。

 オレがフィーアポルトで戦略的撤退を選んだのは、数で負けていたからじゃない。戦闘用員ではない執事やメイド、さらには海王の真珠亭を巻き込みたくなかったからだ。ここからがオレたちのターンである。



 そんな訳で執事さんたちをアキラたちに任せ、オレたちは今、ツヴァイヒルから東の山野を海に向かって歩いているのだが、


「いいんですか? ファラーシャ嬢。こっちに来て?」


 振り返るオレの問いに力強く頷くファラーシャ嬢。


「ええ! 我が家の家訓にも、「やられっぱなしの聖人でいるな」というものがありますから」


 はた迷惑な家訓だな。まあ彼女は戦力になるからこちらとしても否は無いが。

 しかし道なき山を突き進むのがこんなに大変だとは思わなかった。

 地面は凸凹で足を取られるし、さらに魔物との遭遇率も、ダンジョン程ではないがかなり高い。そして強い。何せボス格である巨大熊や巨大イノシシ、赤狼の劣化版が現れるのだ。面倒この上ないというのに、この辺にセーブポイントとなる教会がないため、オレとマヤは、ログアウトするとツヴァイヒルの教会へ引き戻されてしまうのだ。

 だからといって学校休んで24時間この世界に入り浸っている訳にもいかない。そのため全速力で次の目的地、フィーアポルト北の村落を目指していた。この仕様なんとかならないだろうか? 北の村落に教会があればいいのだけれど。



 山野を突き切った先は崖になっていた。広大な海を望む断崖絶壁。空では海鳥が鳴いている。


「何とか、東の海岸には着いたな」


 一息吐いて汗を拭い、全員その場にへたり込む。


「あんたたちがそんな体質じゃなければ、もっと楽に進めたのよ」


 マーチの言が耳に痛い。すまないねえ。っていうか体質だという認識だったのか。


「なあ?」


 辺りを警戒していたブルースが口を開く。


「どうかしたのか?」

「あれ」


 何か良からぬ事態が待っていたのか? と尋ねるオレに、ブルースは海岸の向こうを指差して示す。


「あれ?」


 ブルースが指差した方を見遣れば、何やら建物が見えた。


「教会、かなぁ?」

「教会、だよなあ?」


 魔物避けで一休み、と建物に近付くと、それは古びた教会だった。所々、壁の漆喰が剥がれ中のレンガが見えているが、それは教会だ。


「教会ならどこでもいいんだよな?」


 ブルースが尋ねてくる。


「いや、神父や牧師が持ってる聖典っぽい本に名前を記入しなきゃダメなんだ」

「面倒臭いな」


 全くだ。オレとマヤは力強く頷く。


 ギイイイイイ…………


 立て付けの悪い両扉をオレとブルースで開ける。


「これは珍しい。この教会に修行者以外が立ち寄るなど。ようこそ、冒険者諸君」


 中には神父が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る