第52話 大会

「ハァーーーーーー」

「長いため息だな。何があった?」


 あからさまに辛気臭いため息を吐いて、自分困ってますアピールをするマヤの対面に座り、オレは一先ず彼女の話を聞くことにした。


「それが武闘大会に出ることになってね」

「武闘大会?」

「月に一度この街で開かれている大会だな」


 円卓のマヤの両脇に座るブルースとマーチ。


「そう、それ。それに出て本選までいかないと、あの修練場の外遊免許は取れないらしいの」


 は~ん。それはつまり、その武闘大会で本選までいけないと、後1ヶ月この街で足止めを食らうということか。まぁ、まだ色々行ってないところがありそうだから、構わないっちゃ構わないけど、目の前のマヤはそうでもなさそうだ。


「ハァーーーーーー」

「中々不満が溜まってるみたいだな」

「それがさあ、修行は楽しいのよ」

「なんだ、じゃあいいじゃないか」

「楽しいけど、たまに頭を過る訳よ。私何でここで修行してるんだろって」


 当然の疑問だろうな。いや、このゲームをより楽しむために今頑張ってるんだろうから、あながちやってることは間違ってないよな。


「ずーっと修練場の中、許されるのはこの宿との往復のみ。スポーツ系の学校で寮生活でもしてんのかって話よ。私はもっと広い世界が見たいのよ!」

「で、それをお師匠さんに言ったら、大会に出ろ、と言われた訳だ」


 コクリと頷くマヤ。


「その大会ってどのくらいの規模なんだ?」

「大会には各修練場の推薦だけで100人は出ていたな」


 とブルース。


「そんな少ないのか?」

「更に誰でも参加できる予選の予選みたいな大会もあってそこから60人」


 計160人か。


「本選は?」

「8人」


 狭き門だなぁ。


「ってことは予選は20人によるバトルロイヤルか?」

「よく分かったな」


 とブルース。まあマンガやラノベの定番だよね。オレでもこのくらいは押さえてる。


「出ろってことは推薦枠なんだろ?」


 コクリと頷くマヤ。


「期待されてるってことじゃないか。予選通らなそうなら出さないだろ、あそこ」

「そうみたいなんだけどさあ。それもまた問題なのよ」


 何が問題なんだ? と思っていると、何やら玄関ホールの方が騒がしくなっている。見てみると男が宿の主人に喚いていた。


「なんだあれ?」

「ハァーーーーーー」


 え? ここで長いため息吐くの? と思っていると、マヤは重い腰を上げて男の方へと向かっていった。


「知り合いかなぁ」

「さあな」


 首を横に振るブルースとマーチ。あんなガラの悪い奴と付き合いがあるとなると、マヤとの付き合い方も考えなけれがならないな。と思っていると、マヤのアッパー一閃で男のされてしまった。

 踵を返しスタスタと戻ってくるマヤ。


「良いのか? 知り合いじゃねえの?」

「知り合い? そんな訳ないでしょ。大会前に私を倒して名前を売ろうってバカよ」

「…………どうゆうこと?」


 怒りに任せて高速で捲し立てるマヤの話を要約すると、このゲームが始まってから、マヤの所属する修練場から武闘大会に出場した冒険者プレイヤーはいないらしい。名門と噂されるも、誰一人入門が許されなかったからだ。その修練場から今度の大会に選手が出場する。それだけで、街の噂のトップに上るらしい。その噂を聞き付けたさっきみたいなバカが、噂の真相はいかほどのものか、とマヤに挑んできているそうだ。


「今日だけでもう五回目よ!?」

「それは、大変だな」

「こんなことが大会までずっと続くと思うと、ハァーーーーーー」


 そりゃあ長いため息も吐きたくなるわな。

 でも武闘大会か…………。


「オレも出てみようかな?」

「「「マジで!?」」」


 皆に驚かれた。

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