第8話

 ウィンター帝国の帝都に強大な脅威が迫っていた。一人のオーガが軍勢を率いて帝都に進行してきているのだ。そのオーガは通常のオーガの倍ぐらい大きくて、真っ白い髪に真っ赤な肌と鍛えられた筋骨隆々の体、角が五本も生えていた。



「おらぁ! 進め! 進めぇーっ!」



 見るからに通常のオーガすらも一線を越えるほどの存在感を示していたそのオーガの正体は、魔王軍大元帥『ストレング・ライス』。数百年以上生きてきたと言われ、オーガの頂点に立つ存在でもあった。



「ムシャクシャするんだよぉ! おらぁ! 人間どもよ、よく聞けぇ! テメエらの物は俺様の物、俺様の物も俺様の物! つまり、帝都も全部俺様の物だぁ! 後で魔王様に献上するけどなぁ! がっはははは!」



 上機嫌な態度を見せるが、その眼には強い覚悟が宿っていた。短気で乱暴な言動も多く聞こえるが、魔王に帝都を献上するなどと忠誠心も垣間見える。その様子を遠くから見て聞くことができるものがいた。





「……恐るべき相手でござる」



 アズマ王国の勇者にして一流の『忍者』でもある『エアスト・ノスモル』だった。アズマ王国の人間特有の黒髪と黒目の少女で、忍術を駆使して諜報・偵察・潜入・暗殺などといったことを得意とする忍者なのだ。





「帝都をぶっ潰して帝国を潰す! 何しろ、俺の仲間のサルクを殺しやがった奴の故郷らしいからな! 弔い合戦といこうじゃねえか!」



 大元帥サルク・リバーが打ち取られた話はすでに魔王軍にも伝わっている。そのため、魔王軍側が指揮を上げるために大きなことをしでかすことも不思議ではない。例えば、もう一つ国を亡ぼすということもその一つだ。




「な、なんと! これは至急、オルカート殿達に知らせねば!」



 ストレング・ライスの目的を聞いてしまったエアストはすぐさまウィンター帝国の帝都に向かった。危機的情報をすぐに報告する、それが彼女の役目なのだ。


 ただ、それも肝心のストレング・ライスに見過ごされたこととは流石に知らなかったようだ。




「……ふん。あの忍者が上手く俺の言っていたことを伝えれば、サルクを殺した奴が現れるだろうな」


「大元帥、本当にいいんですか? わざわざ目的を伝えさせるなんてことを……」


「いいさ、俺ぁは不器用なんだよ! 帝都を攻めるのも間違ってねえしな! がっはははは!」


 



 帝都の王宮では、エアストの緊急連絡を聞いたオルカート達が頭を抱えていた。



「何ということだ……魔王軍大元帥ストレング・ライスが攻め込んでくるとは……よりにもよって、帝都に残る勇者が私達しかいないときに限って!」



 人類連合軍の勇者は七人いる。そのうち五人がウィンター帝国出身者だが、オルカート以外の四人は国外に出張中なのだ。つまり、ウィンター帝国の帝都にいる勇者は今、オルカートとエアストしかいないということだ。



「……セイブンとタヒナ、それにヘルメイトはアンゴール王国の跡地からこちらに戻っている最中だ。アンゴール王国はウィンター帝国とはかなり距離があるから、すぐには戻れないだろう……。それにセイブンとヘルメイトは魔王軍大元帥サルク・リバーを討ち取ったばかり、怪我は癒えてはいないだろう……」



 セイブンとヘルメイトによって魔王軍大元帥サルク・リバーが討伐された話は帝国軍にも報告があった。その事実はオルカート達は喜んだものだが、アンゴール王国の滅亡を阻止できなかったと聞いた時は戦慄したものだ。また一つ国が滅んだ、それも人類連合軍にとって重要な国がだ。


 

「ポエイムはサマー王国の救援に同行、バイパー殿もスプリング王国で療養中……他の勇者たちも忙しい身の上だな、仕方がないか……」


「オルカート殿下、どうされます?」



 心配する大臣たちが見守る中、オルカートが悩んだ末に出した結論は、



「今の帝都の戦力で対処するしかない。だが、各地に魔水晶で連絡もしておこう。各勇者たちに向けて『帝都に脅威が迫っている』そう伝えるんだ。運が良ければ援軍として駆けつけてくれるだろう。間に合えばいいんだけどな………」



 過酷な戦いに挑むことだった。いや、それしか道が無いのだ。



「微力ながら拙者も共に戦うでござる! 同じ勇者として同盟国の危機も魔族の脅威も見過ごすわけにはござらん!」


「エアスト、助力感謝する。よし、帝都の戦力の全軍でストレング・ライスの軍と戦うぞ! 戦の準備を急げ!」


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