面倒事嫌いな最強龍気使いの異世界譚
モリギツネ
第一章
第1話 異世界転移
『どうしてお前は相変わらず
よく親父にそう言われていた俺は親父の白髪に黒目とは似ても似つかない祖父似の漆黒の髪の後ろを三つ編みにして満月のような金色の瞳をしている。服は祖父からの贈り物である紺色の半着に灰色の
龍気の量は人それぞれだが誰もが持っている。龍気を使うと身体能力を強化させたり、龍気の質を変えて、炎を起こすことなどが可能である。それ以外に
龍気には純度というものがあり、ほとんどの龍気使いは黒色の龍気を持っているが、まれに、灰色の龍気を持っている者がいる、龍気は純度が低いほど色が黒く、純度が高いものほど色が白くなり、白の龍気を持つ者はまずいない。
だが俺は、白の龍気を持って生まれた。それが知られればどんな騒ぎになるかなんて想像がつかない。そのため面倒なことが嫌いな俺は龍気を扱えないふりをすることにした。
龍気使いは人の龍気見ることができるが、俺は龍気を見えないように制御した。そうすれば万が一見られることがあっても隠せるからだ。
俺が十五になった日、面倒事が嫌いな俺は不幸に見舞われた。
俺は普段遠くにあまり行ったことがないので、誕生日くらいは遠出をすることにしていた。俺はあの時遠出なんてしなければよかったと思う。
道を歩いていると急に目の前が暗くなった。
気が付くと、辺り一面に何もない草原に横たわっていた。
「面倒なことになった」
起き上がると風が吹き草が擦れ合い音を立てた。
俺の住んでいるヤマトにこんな場所はないし外国にこんな草原はあるわけないから異なる世界とかだろう。
とはいえ適当に歩いてれば道が見えてくるだろ。そういえば、俺の龍刀と羽織がない、失くしたのか? この転移したせいで……そんなこと考えても仕方ないそれにしても和服だと案外目立つかもしれないな街に行ったら適当に服を買うべきか。
一時間程歩いて森の方に向かう道を見つけた。その道には跡がついてから時間が経ってなさそうな
「案外時間がかかったな」
それからしばらく歩いていくと森の中に道が続いていた。
「森か……面倒なことがなければいいが」
龍気を使えば周りを
茂みからのぞき込んでみると、馬車が五人の盗賊に襲われていた。鎧を身に着けた優秀な護衛であろう人物が一人いるが人数的にも不利なうえに怪我をしていた。
「おい、お前等何をやってるんだ」
茂みから出て盗賊達に声を掛けて間に入る。これでどうにかなるわけはないだろうが。
「お前には関係ないだろ!」
そう一蹴されてしまい仕方なく龍気を纏い身体強化をしてそのまま一番近くにいた盗賊の懐に入り、みぞおちを一突きして気絶させる。他の盗賊達それを見て不味いと思ったのか気絶した仲間を担いで逃げていった。
「大丈夫ですか?」
逃げた盗賊を追うことなく襲われていた馬車に近づこうとするといきなり護衛に剣を向けられる。
「貴様、何者だ」
声色から推測するに恐らく護衛の人は女性なのだろう。先ほどまで怪我をしていたのに大丈夫なのかと少し心配したがよく見てみると怪我は治っていた。
あんなことがあったとはいえ助けたのに警戒されるのは少し悲しいな。それにしても、どうやって怪我を治したんだ? 龍気は感知できなかったから龍気を使ったわけでもないと思うが。
「助けてもらったのにそれは失礼ですよ」
怪我が治っていることについて思考を巡らせていると馬車の中から女の子の声が聞こえ護衛の人を注意した。
「……先ほどは助けてもらったのに失礼なことをしてしまいすまなかった。私はソフィアだ」
馬車の中の恐らく女の子に言葉を聞いて護衛の女性は自己紹介をして兜を外した髪は青色の長髪で瞳の色は鼠色だった。
すると馬車の中から長い銀髪をした碧眼の女の子が出てきた。
俺は今更だが、面倒なことになりそうだと思った。理由は簡単だ、よく見てみれば馬車には華やかな装飾が
……面倒なことになりそうだ
「先ほどは助けていただきありがとうございました。私は、ガーネット
俺の勘は的中した、公爵は確か外国の貴族の階級の一つにあったはず。つまり俺は貴族を助けたということになる。
「俺はたまたま近くを通っただけだから、それじゃあ、気をつけて」
貴族と関わるのはさすがに良くないと思い急いで後ろを向いてそそくさとその場を離れようとする。
アリスには悪いがこのまま、帰らせてもらおう。もちろん帰る場所などないが、関わらないようにしないとな。
「お待ちください、ここから一番近い街でも、徒歩だと早くても一か月はかかります、それに一番近い街は私のお父様が領主をしていますので色々と助けられます。なのでよろしければ、馬車に乗っていきませんか? 助けて頂いた恩もありますし、どうでしょうか」
アリスが提案してくる。無視をして離れるのは不敬だと取られる可能性があると考え足を止める。
乗せてくれるのはありがたいが、面倒なことになると思った俺はソフィアに助け船を求め視線を送った。
「助けてくれたとはいえ、どこの馬の骨とも知らない者を同じ馬車に乗せるのはさすがに危険です」
ソフィアが諭すとアリスは少し悲しそうにしていた。
「気にしないでくれ俺は道なりに進んでい――」
「ですが、私がいるので何かあれば対処いたしますので乗って頂いて問題ないと思います。この者が理由で何かあったら、私が責任を取りましょう」
ソフィアが言葉を
なんでそうなるんだ? ソフィアが止めてくれたと思ったのに、でもこの状態で断るのは失礼だろうし、恐らく乗っている間に何かと聞かれるだろうが適当に流せばいいし。ならばいっそ一緒に乗って行った方が楽だろう。
いろいろと考えた結果一緒に乗って行った方がいいのでは少々混乱状態に陥っていた俺は渋々その話に乗った。こうして、面倒事嫌いの俺は、貴族の馬車に乗って、一番近くの街まで行くことになった。
馬車に乗ってから教えてもらったが近くの街と言ってもここから馬車に乗っても一週間ほど掛かるらしかった。食料は大丈夫なのだろうか。
「そういえば、まだあなた様のお名前をお聞きしていませんでしたね」
「俺の名前は白龍、大坂 白龍だ」
「オオサカ?」
「こっち風に言えば、白龍 大坂だな」
アリスという名前からして外国なのはわかったので外国での名乗り方に合わせる。実際アリスは俺の名乗りで少し困っている様子だった。
「ハクリュウ オオサカ、苗字があるということは、あなた様も貴族なのですか?」
苗字を名乗っていいのは貴族だけなのかということに驚く。外国のことはそこまで詳しくないというよりヤマトでは外国のことなんて知ってる人の方が少ない。
「俺の故郷のヤマトでは、貴族とか関係なく苗字を名乗ることが許されていたんだよ。こっちではそれが問題になるのなら、俺はこれから名前を聞かれたら白龍と名乗ることにするよ」
「生まれた国が違うのであれば、特に問題はないと思いますが、貴族相手には苗字はあまり名乗らない方がよろしいかと、それにしてもヤマトですか、聞いたことのない国名ですね」
アリスがヤマトという国名に強い関心を抱く。
「それはそうだろう、一番東にある小さな島国だからね」
「今度、お父様に頼んで連れて行ってもらおうかしら」
「それは難しいだろうヤマトは外国の者を入国させないようにしているからな」
ここは異世界だからヤマトはあるわけがないからあまり詳しく言えない。言い過ぎると必ずぼろが出るだろう。ヤマトが鎖国しているというのは本当だが。
「そうですか。それは残念です」
◇◆◇◆◇
それから馬車に乗り一週間が経った。俺が気にしていた食料の問題はソフィアが現地調達をしていたので困らなかった。貴族のご令嬢がそこら辺で取ってきた自然のものを食べることを嫌がらなかったのには少々驚いた。それだけでなく、自然があるのに意外にも道中、夜に獣などに襲われるといったことはなかった。
「お嬢様、ハクリュウ殿、街が見えてきましたよ」
ソフィアから声を掛けられ馬車の窓を開けそこから顔を出してみると目の前に大きな砦が見えてきた。
「どこの街も、あんな風に大きな砦が立ってるものなのか?」
「そうですよ、砦がないと盗賊が好き勝手に街には入れてしまったり、魔物に襲われてしまう可能性がありますから」
「魔物? 危険な動物なら道中遭遇することがあるんじゃないのか?」
魔物が街は襲うのに移動中には襲われないことに不思議に思いアリスに質問した。
「普通であれば遭遇したりしますが、私たちのような貴族は魔物除けを持っていますから魔物に襲われるということはまずないですよ。まれに魔物除けが効かずに襲われることもありますが、そのような報告は最近は聞いたことがありませんね」
最近はということは以前は何度か報告されていたのだろう。
「それに、王都で勇者召喚があったらしいですからね」
「勇者召喚? どういう理由で行われたんだ?」
……いろんな地域から腕利きの戦士でも集められたのか?
「なんでも、魔王が復活して、魔物が普段に比べて強くなって、さらに魔物に遭遇する確率が上がっていますからね」
「それは大変だな、その状態でも、魔物に合わないってことは、魔物除けは相当すごい物なんだな。魔物除けは一般人でも買えるのか?」
「高価ではありますが、お金が足りれば、誰でも買うことが可能ですよ」
そんな雑談をしながら進むこと数十分、砦の門に着くと門の前に立っていた門番が馬車に近づいてくる。
「そこの馬車止まれ、身元を証明できるものを……あっ申し訳ありませんどうぞお通り下さい」
強い口調で言って来た門番だったがアリスを見た瞬間に態度が変わった。
「その馬車に一緒乗っている男は貴族のものではないようですが」
アリスに気を取られていた門番が俺に気付き睨みながら言う。
「この者は私とお嬢様を助けて下さった者だ」
「身元は私が保証します。入ってもよろしいですか?」
「そういうことでしたら問題ありません、どうぞお通り下さい」
アリスにそう言われると門番はすぐに引き下がった。
「顔が利くなんてさすがは貴族様だな」
「これからどうしますか? 恐らく後で、お父様がお礼をしたいと言ってくるかもしれませんが」
やはりそういうことになったか、そんな感じがしたから少しばかりいやだったのだが、こればかりはどうにもできない。
「わかったこのままついて行けばいいのか?」
「そうですね。ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません」
アリスが少し申し訳なさそうに言った。このくらいのことは予想していたから気にしなくてもいいんだが。
その後しばらく進むと立派な門構えの屋敷に着いた。万が一を考え龍気で中の動向を探るとアリスに似通った龍気を持った父親であろう人物が心配しているのか屋敷の玄関の近くを右往左往している。
「お父様、ただいま戻りました」
「おかえりアリス無事でよかったよ、盗賊に襲われたという報せがあった時はどうなる事かと心配したよ」
扉を開けると銀髪に碧眼の男性が出てきた。その男性はアリスを見るやいなや抱き着いた。
アリスの父はアリスと同じ髪色に目も同じ色なのか。
「ハクリュウさんのおかげで助かりました」
「おっとすまない。お礼も言わずに勝手に話をしてしまって、アリスが世話になったね、アリスの父、アーロン・ガーネットだ。君には色々と話がしたいんだが構わないかな?」
少し落ち着いたようでアリスの父、アーロンさんがこちらに気付き話しかけてくる。
これは断れないな。しょうがない受けるしかないか
「わかりました」
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