第8話-■冒険者達と主人公達
「ああ~~、ひどい目にあった!」
「エメル~もうちょっと静かにしないと~」
学院の教室に朝から徹夜明けの生徒たち四人がバラバラに座っている。他の生徒達には遠巻きに見られて噂でもされているのだろう。
エリシアが渡してきた依頼の山は全て簡単にこなせるものではあった。ただ夥しい量の依頼は五人がかりでも移動や調査で徹夜してようやく終わらせられた。生まれ変わってもブラックな仕事を強いられるとは思わなかった。その上、エリシアが広範囲魔法を使い、集めるはずの討伐部位や素材を台無しにするなどのトラブルも発生。二次被害として爆発魔法を使った場合に起こる自然破壊は想像以上に醜悪で悲惨な結果を生み出した。
勝負は結果的にエリシアが次々と遠距離広範囲魔法をぶっ放したから勝ったが、色々問題を起こしたから結局ギルドから罰金として報酬を持っていかれた。全てが終わった時にはエリシアに魔法で綺麗にしてもらって一応朝の授業までに間に合った。学院を始めるにしてはある意味最悪な始まりだ。
ふと斜め後ろに気配を感じたので振り向いたら淡い桃色が掛かった金髪の娘がいる。
「あの~、...大丈夫でしょうか?」
桃色金髪の娘が少し遠慮がちに問いかけてきた。
「あー、悪いな。昨日、徹夜で雑仕事をしてただけだ」
あまり興味がないのでそっけなく答えてから教室の前に向く。
「宜しければ隣に座ってもいいでしょうか?」
「...別にいいけど」
教室の後ろで座って遠巻きに見られている人の隣にわざわざ座られると...クマノミに巣くわれるイソギンチャクな気分だ。
前世と同じように教室で座れる場所が自由だと、個人好みで性格が出てくる。教室の前に座っている人たちは大抵目立ちたがり屋かエメルみたいに本当に授業に興味を持つ者が多い。窓のそばを選ぶのは現在のエリシアのように教室内の出来事には授業も含めて興味がない。そして教室の一番後ろで座る生徒たちは大抵サボるか寝る、或いは日まで寝れないなら人間観察で時間を過ごす。現在俺は二元観察中であり、横目で隣に座って真剣に授業を受けている娘を観察している。
視線に気が付いたらしく、その娘が様子を窺うように笑顔を向けてくる。距離間隔が変な娘だとしか思えない。
朝の授業が始まる時間が少し遅いと思っていたら、教室にセオファニア王女殿下とセオドア王太子が入って壇上に立つ。王女殿下は何かを探すように教室中に目を走らせ、俺を含めた冒険者達に目を止めた。
「皆さん、弟共々同じクラスであることを光栄に思いますわ。どうか今後も同じく晩学に励む見としてよろしくお願い致します」
わざわざ国の王女が高等部のクラスで自己紹介するのにいささか違和感を感じる。それも王太子が同じ場所にいるのに。しかし、その違和感も王女殿下の次の言葉で解消される。
「わざわざ私が挨拶するのも理由があります。ご存じの方は多いと思いますが、この学院は貴族外からの編入生を受け入れることになりました。その保証人の役を女王陛下に貰い受けました。編入生の内数名は王都で名高い冒険者達なので、彼らに武術や魔法のご指導を願うのなら私を通してください。勿論、その実力は確かなものですし、クラスの皆に今日の戦闘授業で見せてもらいます。ではあなた達、自己紹介をお願いします」
王女殿下のせいで編入初日から目立ってしまった。わざわざ冒険者だけをピンポイントでクラスに紹介するのに理由があるのだろうけど、先日の試合も含めて悪意を感じる。俺たちにとっては物凄い迷惑なだけだ。それぞれの目的があって俺たちは学院の編入生としての申し出を承諾し、指導とかは報酬を弾むとの理由で編入している。しかしこうも目立ってしまうと王太子のような考え方が多い貴族社会では面倒極まりない。
順に名前を述べるだけの自己紹介をし終えたら王女殿下と王太子も席に着き、朝の授業が始まった。もちろん徹夜明けの皆さんは早くもうたた寝してしまう。エメルはほぼ爆睡状態で授業の先生に睨まれていた。エリシアは服装でよくわからないが徐々に猫背になっているところを見ると寝ているはずだ。
授業に集中して習う気力は出ない以上、腕組んで寝る態勢にに入った。気持ちよく夢の国に飛び立つ所で隣の娘が話しかけてきた。
「お休みのところすいません。少しお伺いしたい事があります」
微笑しながら彼女は小声で窺うように聞く。
答えないと眠らせてくれないようなので用件を聞く。
「先ほどの紹介であなた達が他の編入生達の戦闘訓練の指導をしてくださるのですね?」
「一応そのような話になってる」
急に違和感を感じる、何故この娘がわざわざ確認してくる?
「私も編入生の一人ですの。ミシェル・レブランジュと言います。今後もよろしくお願いいたします、眠そうな冒険者さん」
顔を綻ばせながら彼女は自己紹介した。そして彼女の名前が今までの眠気を吹っ飛ばす。
幼少の頃は妹がいた。妹は俺と同じ黒髪黒目であり、母親似だった。二人はモルドレッド家の一員で贅沢な生活ではなかったが、それなりに裕福だったのは覚えている。妹と揃ってやんちゃし、母に怒られていた。普通の兄妹だった、ただ一つ妹は妙なことを言う子でもあった事以外。
後になって自分の前世の記憶が蘇り、妹も転生者だった事に気づいた。妹は自分が乙女ゲームのモブとして生まれ変わったんだとよくはしゃいでいたから間違いない。時たま部屋に籠って日記帳に思い出せる限りのゲームの世界の情報を書き込んでいたのも覚えている。
ただ前世の記憶が朧気だったみたいで主人公の名前はイリノヴかレブランジュ辺りのようで詳細覚えていないらしく、それは悩みの種だったみたいだ。けれど鮮明に覚えていたのは悪役令嬢の方だった。
ヴァルトレギナ公爵家の御令嬢、ロザリンド、そして悪役令嬢と主人公の衝突から発展する数々の出来事。
そして妹はローザがバッドエンドでひどい目に合うのを知っていた。彼女はそれを見逃せない、心の優しい子だった。けれど彼女の優しさは届くことがない。
手に冷や汗が出ているのがわかる。
ある日屋敷は賊に襲われた、それも盗賊とは比べられないぐらい連携が取れていた。訓練されている暗殺集団の類だったと思う。
呼吸が浅くなり、拳を握っているけど、見ている物全てが遠く感じる。
屋敷が焼かれている最中、無残に切り付けられた妹を見つけた。瀕死の状態で押し付けたのは焼き崩れそうになっている彼女の日記帳だった。
「アミルさん?大丈夫なのですか?アミルさん?」
走馬灯のように繰り返される記憶の渦から唐突に呼び出される。横を見ると心配気に顔を覗き込んでくるミシェルがいる。
「...大丈夫だ。授業に集中しろ」
言葉遣いがさっき思い出した記憶のせいで語気が荒くなる。
「授業初日徹夜明けで出頭するような方には言われたくないのです」
彼女はそれほども毒づかれたことを気にしていないようで、少し踊るような口調で言葉を返す。
「私は貴方がいびきでもかかない限り気にしませんので、どうか安心して眠ってください。午後の授業貴方達は忙しいようですから」
彼女の言葉に何故か頭がすっきりし、だんだんと睡魔に襲われて夢の世界に引きずり込まれていく。
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