53話 牛
最後の山をウサギ定石に見て来てもらった。
『見たところ寒さのほかにも垂直で黒い壁などがある』
「高さはどうだ?」
『分からないが山頂に行く途中でテントが張れるだろう』
食料が出てガス缶があるので今がチャンス
吹雪が収まっているうちに酸素をすって出発
マフラーを巻いて空気を温めて吸わなければ体内が痛い
「……急ごう」
「動きづらいがこれぐらいしねぇと凍え死ぬか」
出発して2時間で手足の感覚がなくなって来たのだが
それよりも次の山に行く手前で牛が見えた
今まで見た事が無いロボットで見た目が完全に平成の変身ロボット
「次の場所へ!!」
境界線を超えてこないので急いで最後の山に
牛がターボエンジン全開で来ていたが謎の壁に当たって消える
直撃なら死んでいたとほっと息を吐いたのだが
吸った空気はもはや毒に等しい
「行ッこう」
「……ネズミってのが本当によくわからねぇな」
ゴーグルをして目に直接風が当たらないようにしているのに
その目が凍り付いて行っている気がした
テントを広げて一旦の暖を取ることに
「ぷはっ……火の暖かさはすごいね」
「火ってここまで有難いものだったのか」
「まだガス缶はあるから白湯を作ろう」
白湯を飲むとHPが回復したような
少なくとも自分が凍死しかけていた事だけは分かる
すぐに出発しなければならない
「晴れているうちに行きましょう」
「目が凍り付く前に次の休憩にしてくれ」
「うん」
『ここから先は俺を使い捨てろ』
「え?」
『蓄積のダメージが多い、もう消えるだろう』
「……そうなんだ」
『楽しいゲームとはとても思えなかっただろうが少しはいい思い出になれたら』
「このゲームそのものは嫌いじゃないよ」
『え?』
「妹の事がなければ普通に遊んでいたかもしれない」
『……この世界に産まれた者として救われた気がする』
テントを畳んで進み始めた
牛がジェットエンジンで襲い掛かって来た
ヒロが剣で受け流したのでナイフでかかるもほとんど効いていない
突撃され利き腕を折られた。
「ぐう!?」
ウサギ定石がとどめを刺し
箱を落としたのだがそれが固形燃料
つまり暖房なのだが今はそれよりも腕だ
「カイフ」
「腕……うん、指は動く」
「痛ッ」
テントを建ててまたコンロで暖を取った
ウサギ定石が音を立ててエフェクトと共に消える
構っている暇は無い
「どこか怪我を―――え?」
「目が開かない」
「お湯で溶かせないかな」
「そのあと凍り付くだろ」
「確かに」
コンロの炎で温めていると
どうにか両目が開いたのですぐ出発することに
落石にクレパスと超えた所で牛に襲われたが
「モンスターってそういう所あるよな」
牛はクレパス(谷)に真っ逆さまに落ちて行った。
しかし気温の低さと息の切れ具合が限界で
一度テントを広げて暖を取った。
「あと少しッ」
「……今日はここまでだ」
「え?」
「ほら酸素吸え」
無理やり酸素を吸わされて息の限界に気づいた
休憩すればまた登れると思っていたが
がくがくと身体が痙攣して
「う、ごけな―――」
「コンロでレトルト?の何か温めて喰っとけ」
手がかじかむがスプーンで食事をどうにか済ませ
寝袋にくるまってありったけのもので暖をとる
身体中が痛いし疲労感が限界で一度眠ることに
寒さのあまりほとんど眠れた気がしなかったが
翌朝には吹雪でとても進めない。
「もう使わないもん燃やして暖をとるか」
「まだガスあるのに」
「荷物になんだろここから先だと」
「クリスの服とかもう要らないから燃やさせてもらおうか」
「火の残量は?」
「6時間」
「なら吹雪だが登るしかねーか?」
「いや明日まで待てる」
「寒さで凍え死んだら」
「脱いで」
「死ぬぞ」
「裸で抱き合って寝袋にくるまれているほうが体温は確保できる」
抱き合ってヒロも納得したらしい
暖かさが段違いでありもう何も言わなかった
ゴーゴーと鳴り響く吹雪の音
これが止んだタイミングで急ぎ登らなければ
「お兄ちゃんが助けるから、僕はヒーローだから」
「じゃあ俺はそんなお前を助けるか」
「え?」
「ヒーローを助ける奴がいてもいいだろ?」
抱き合ってから26時間が経過したころに外の音が弱まり
急いで二人して衣服を着てコンロの火をつけた
身体中が痛いが今を逃したら次が無い
「行こう」
「なにがなんでも登り切って妹さんを助けて」
「うん」
「おまえを嫁に貰う」
「婿って言ってくれないかなせめて」
全ての荷物を片付けて出発した
もう寝袋すらも荷物にしかならない
テントも隠れるにしても限界があった
「全部燃やしていこう」
「いいね」
全てを燃やし尽くして暖を取って身体を完璧にして
山頂へと足を進めていく
もう休憩すら許されないが黙って登る
幸いな事に蛇に襲われたりしたが厚着すぎて今度は毒が入らず
簡単に倒すことが出来た。
「あれは、すごいな」
黒いベタベタした壁と言っていい場所
雪がほとんど無いが氷や岩がむき出しの場所がある
あそこをどうにか上手く掴んだりして登るしかないだろう
「この寒さでドロドロっておかしくね?」
「言われてみれば」
雪ならともかく液体であれば氷になっていなければ基本的にはおかしい
スコップですくいとってみるとスコップの先端があっという間に錆び
柄の部分と分離してぼろりと崩れた。
「あとはここだけ―――覚悟して登ろうか」
「どっちかが登り切れれば妹が助かる、やることはそれだけだ」
準備をしていると雪崩のような音が聞こえてきた
どう考えても巻き込まれるような位置にはいないのだが
逆にこの雪崩は駆け上がってきていた。
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