螢火詩想 青い螢は何処へいますか、少年と。

詩歩子

第1話 序章、夕桜アンニュイその後


 雲雀東風が吹く、夕桜での君との邂逅もあっという間に過ぎ去り、私の高校生活は本格的に始まった。


 近藤君は私と同じ高校へ入学し、堺君は宮崎市内の私立高校へ特待生で入学したらしい、と風の便りで聞いた。 


 みんな変わっていくんだな、と移ろう世を噛み締める。


 スマートフォンを買った、その日のうちに私は彼のプロフィールを登録した。


 初めてメールを送ったらその日のうちに返信が来たから何か、嬉しかった。


 莉紗も普通とは違う進路を選んだから大変なのかな、と思いながら莉紗にもコンタクトを取った。


 新しい教科書を買って、新しい勉強を習って、新しい部活も開始した。


 私は農業科に在籍しているから、気軽に参加できる農業クラブに入った。


 授業の延長みたいなものだけどそれなりに楽しい。


 休日には農協に行って手伝ったり、本格的に野菜を栽培したり、文化祭では手作りの苺ジャムや燻製のハムも販売するらしい。


 最近、学校のPR動画を作成しているから放課後が待ち遠しい。


 


 返信したい気持ちを抑えて私はスマートフォンの電源を消した。


 高校に入学してからお兄ちゃんは都城市にアパートを借りて受験勉強に専念し、不登校の日々が嘘みたいに学校へ通学しているし、医学部は諦めて看護学部を狙うらしく、進路を変更して、割り切ったら肩の荷が下りたみたいで最近、ほとんどお兄ちゃんと会っていないし、話していない。


 


 吉都線の線路から赤々と燃えるような夕陽が見え、刻々と夜さりが迫ってくる。


 電車内には私以外誰もおらず、常に閑散としている。


 こんな夕刻に彼がいたら、読み漁った本の話を懇切にしてくれるだろうか。


 私は今日もラインを送り、短文を書いてすぐに送信したら五分も立たないうちにバイブ音が鳴った。


 私は電車の揺れる音を聞きながら、スマートフォンを開いた。


 彼は最近になって物語を病棟で書いているという。


 ――いつか、読ませて、本になったら面白いかもね、と私は梅鼠色の落日を浴びながら返信した。




 小さい頃、蒼く光る源氏螢がいるんだ、と本気で信じていた。


 その源氏螢は望月へと飛んで逝ってしまうんだ、と幼心ながらに詩情に満ちた悲話に耽っていた。


 亡き想い人の常世の国へ出立するから蒼く光るんだ、と星月夜の帳の物語を編み出していた。


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