クリスマスに告白を
山岡咲美
前編
雪は降る。
静かにポツポツと。
花びらのようにヒラヒラ舞う事も無く、ただ綿毛のように落ちて行く。
風はなく、真下へ、真下へ、真下へ……
図書室の効きすぎた暖房に頭をやられながら彼女、
「はぁぁ、何でこんな所に居るんだろ?」
「──宇津木」
耳元で声がする、優しく甘い声。
それはホットレモンの甘さ。
ハチミツの甘さ。
それは大好きな人の声。
「何か御用かしら冠字屋くん」
宇津木詩織は読んでもいない本を机の上でそっと閉じ、ここは図書室なので静かにお願いしますとばかりに冷たい態度を取った。
「なあ、宇津木、オレに告白されたらどう思う?」
宇津木詩織の顔をマジマジと見つめ、冠字屋伊集久は真剣な顔でそう聞いた。
時が止まる。
告白された?
「告白されたらどう思う?」
これは告白?
告白だよね。
嬉しい。
ダメ、顔に出る……。
「それ、どう意味?」
宇津木詩織は閉じた本の上に震える手を強く置きその震えを隠す。
「…………」
冠字屋伊集久は宇津木詩織を見つめたまま考える。
ヤバい、顔が近い……
ずっとこのままで良い、いや、ワタシ唇ガサガサじゃない? 眉毛とかつながってない? ニオイとか大丈夫?
彼女、宇津木詩織はそう思いながら、彼、冠字屋伊集久の瞳、まつげ、眉、鼻、唇、顎、耳を目で追い、自分の耳が熱いと気づく、きっと顔も真っ赤だ……。
「あっ、いや、オレ、なんか身だしなみとか気を使って来なかっただろ、だからオレみたいのが告白したら女子は嫌なもんなのかなって思ってさ……」
冠字屋伊集久は宇津木詩織の真っ赤な顔にに気づく事も無く背を向ける。
宇津木詩織は彼の視線を追うように椅子に座ったまま彼の顔を追い、顔が見えなくなるとそのブレザーの背と首に当てる彼の落ち着かない手の動きを見続けた。
「女子は……」
それは女子全般を表すの言葉。
特定の誰かを女子全般として表した言葉。
目の前にいる女子を含まない言葉……。
効きすぎた暖房に頭をやられるほどの図書室で真っ赤だった筈の宇津木詩織の顔が青ざめる。
「ちょっと出よう!」
宇津木詩織は冠字屋伊集久のブレザー越しの手首をわしづかみ、その手を引いて図書室の外、冷たい廊下へと出て行った。
図書室の生徒達は通り抜ける風圧と丁寧だが重たい力で開け、閉められた図書室の扉の音を聞いた。
***
「で、どう言う事?」
彼、冠字屋伊集久と同じ二年生の色、青色のリボンを結んだカーキー色のブレザーとチェックがらのプリーツスカートから出た生足と腕を手を組み、廊下の柔らかなクリーム色で塗られた冷たいコンクリートの壁にもたれ掛かった彼女、宇津木詩織は冠字屋伊集久を睨み付けるように静かに重い声で問いただした。
宇津木詩織はその背からスーッと体温が下がるのを感じていた。
「宇津木も知ってるだろ?
「えぇ……」
嫌な予感はよく当たる。
最悪の展開。
さっきのハッピー返してよ。
幸せ振り撒きやって来て。
奈落の底に胸を押す。
照れ屋の死神がはにかんでいる。
「近所のお姉さんだよね、よく知らんけど年は二つ上で高校生、一度話した事あるよ」
よく知らないのは嘘。
「そう、その久遠姉、あった事あるんだ、何処で?」
無神経男。
「この学校で、三年と一年の時よ」
宇津木詩織は思い出す。
あの女は卑怯者だ。
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