第14話 一人称視点っていいよね

っという事で今回は一人称視点の文章についてのお話。



~~~ 長文かくならとりあえず三人称? ~~~


 物語を書き始めるとき、一人称にするか三人称にするか......悩ましいところです。個人的には長い文章なら迷わず三人称視点を選択するのですが、これはなにも私の中で三人称視点が優れているというわけではなく、一人称視点ゆえの描画の制約によります。


 三人称視点ならば、いわゆる「神の視点」で物事全てを俯瞰した文章がかけます。本来なら作中人物の知りえない描写や気づくことのない些細な物事まで踏み込んでかけてしまいます。


 つまりは登場人物達の掛け合いや立ち居ぶるまいだけではしきれなかった物語の骨格やなんかまでもが文章としてかけてしまう、いわゆる「に堕ちる」というやつです。


 だけれどもこの「に堕ちる」という行為、物語を書く側としてはあまり褒められたことでは無いのかもしれませんが、ことハイファンタジーなどの実社会から恐ろしく逸脱した世界観を濃厚に描写したい場合などではある程度の必要悪なのかなと個人的には思います。



~~~ 人物の個性で読ませたいなら一人称!! ~~~


 かたや一人称視点では、基本的に語り部の知りうる範疇でのみ描画がゆるされます。「〇〇の言うには~だそうだが」や「その時は知る由もなかったが~」のようにしれっと語り部の知識を逸脱した記述を盛り込むことも可能ですが「神の視点」の様に万能ではなく、そうした記述を多用するなら「三人称でよくない?」となります。


では一人称視点でかくメリットって何?


 私が思うに「語り部の独断と偏見」で押し切れる事にあると思います。シリアスな恋愛ものからコメディ、サイコホラーなどジャンルを問わずに語る人の感性を通して一方的に物語に彩を付けていく事ができます。そしてその彩とはずばり、語り部の個性そのものです。


 例えば語り部となる「わたし」が狭量な視野でひどく偏執的な恋をしていたなら、それはおそらく破滅的で寄る辺のない恋の物語を紡ぎ出すのに最適な視野を読者に提供してくれるでしょう(場合によってはサイコホラーまでたどり着けそうですよね)。


 あるいは幼い頃からの腐れ縁で絵に描いたような凸凹三人組がいたとします。その中の一人の視点をかりるとして、それがちょっとオマセでとぼけた感性の持ち主ならばどこか世間ズレした保護者視点のような青春コメディの路線が見えてきます。


な一人称視点で大事なのは、その視点を選ぶ上で切り捨てるであろう描写に見合うだけの語り部の個性があるか否か、その一点に尽きるのではないでしょうか



~~~ 変則一人称!? ~~~


では一人称視点だと、必ずしも個性的な誰かの視点を用意しないといけないのかというと、そうでもないのかなとも思います(どないやねんw)。


 たとえば映画「スタンドバイミー」のように語り部の子供時代の出来事を淡々と語る一人回想録のような形式も魅力的です。この場合先にあげた二つとはことなり、限りなく神の視点に寄せた主人公である冷静な「大人のわたし」の視点から少年だったころの重大事件を「僕たち」の想い出として描き出しています。

 「大人のわたし」が語る内容は何十年も前の出来事なので、実際には「当時のわたし」がリアルタイムにとらえる事が出来ないはずの仲間やエース達(障害となる不良グループ)の視界のそとでの行動なども「ひとづてに聞いた」話や「想像するだに」っというように保管されて神の視点に近づけるわけですね。

 そしてその視点は、あるいは大人になった「わたし」の感性で脚色された物語なのかもしれないけれど、一人称視点だからこそその曖昧さも含めて心の中の心象風景としてどこか郷愁に彩られた綺麗なままの想い出として描けるんでないでしょうか(遠い目)


 また、小説などでよくお目にかかるのは複数の視点を切り替えて淡々と物語を紡いでいく手法です。突出した特定の個人の視点と個性に頼るのではなく、登場人物ごとの異なる視点・観点を重ねることで疑似的に三人称視点によせるやりかたですね。


 この場合、あくまで一人称視点なので登場人物が知らないものは知らないまま、気にしない事柄は気にしないまま、多少の矛盾をはらんだままでも物語は問題なく進行し、そこに不自然さが出てこない(たぶん)。


 シュールな世界観や登場人物の精神性に依存するような物語の構築には向いている気がします。もちろん世界観をぼかしすぎたり抽象的な描写によりすぎると、読む側が物語の土台をつかみ損ねてしまうのではないかと心配になりますが、それはまた別問題という事で...



~~~ 変則一人称 その二!!? ~~~


 先の項目と根本的には同じですが、ある一人の視点を借りながら複数の他者からの伝聞をまとめ上げる、いわゆる「手記」や「回想録」といったやり方も一人称視点のメジャーな形なのかなと思います。


 などと書いていてふと思い浮かんだのが浅田次郎の「壬生義士伝」ですが、それ以外でも刑事や探偵、学者、ルポライターなど物語を構成する大小さまざまな情報を取得しうる特殊な立場の視点からみた回想録形式のハードボイルドものなど昔は結構好きで読んでた気がします。


 三人称視点ではなかなか醸し出せない「臨場感」にひたりながら、作中の歴史事実や事件の当事者になりきって読めるのは魅力ですよね。



~~~ っという事でたててみました、自主企画♪ ~~~


その名も「求ム、一人称・短編恋愛モノ(条件あります)」


「ゆらゆら共和国」さんの「101回目の101号室」はじめ、ほか何人かの方の作品に触発されて一人称視点の作文のお勉強したいなと立ち上げた企画です。


 短編恋愛モノに限定させていただいたのは、参加していただいた作品にはなるべく目を通したいな~という責任感?のようなものからです。ですが、残りあと三日の時点で完全にわたしの読むペースを上回るほどのご参加をいただき誠に恐縮のいたりです(自分、読むのおそいんですよね 汗)。


 企画概要の方にも追記させていただきましたが、日曜日中に参加いただいた作品までは参加順に目を通したいと鋭意拝読中でございます――などと書いてる暇あるならとっとと読書にもどりんしゃい......ごもっとも!!


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