第九死合!悪役令嬢VSガルムの五車聖!!

第51話 五車聖円卓会議(2人欠席)【対戦予告】


―――≪OPナレーション≫―――

「悪役令嬢カレリンは今日も元ヤンキーの清掃隊員達のしごきに余念がありません。しかし、そんな平穏な日々を送る彼女の前にガルムの五車聖と名乗る者達が現れ、次々と襲って来たではありませんか!いったい彼らの目的は何なのでしょうか。そしてカレリンは彼らの襲撃を無事にくぐり抜けることができるでしょうか。それでは!令嬢類最強!にレディィィゴォー」

―――――――――――――――




 部屋の中央に円形のテーブルが1卓。備えられた椅子は全部で6脚。


 テーブルの中央にある燭台のあかりのみで、部屋はとても薄暗かった。時折、ピカッ!と稲光が窓から差し込む。


 その雷光に照らされ、椅子に座る男の影が延びる。


 全部で3つ。


 雷の光が鎮まり、再び蝋燭の灯りが部屋を照らす。見れば3脚の椅子にそれぞれ男が座して顔を突き合わせていた。


 3人とも黙して語らず、たまに発生する雷の音だけが部屋の静寂を破る。部屋の薄暗さが男達の沈んだ面持ちを一層に陰々な雰囲気をかもし出していた。



「私の情報によるとラファリィ嬢が学園で孤立しているらしい」



 徐ろに1人の男が口を開いた。口を開いたのはガルムの側近の1人宰相令息セルゲイ・ハートリフ――またの名ソウルネームを海の理薄リハク


「それもこれも全て憎っくきカレリンが悪いッ!」


 憎々しげな言葉を吐き捨てたのは、同じくガルムの側近の魔法省長官令息ヴォルフ・ハーン――またの名ソウルネームを風のヒョロい。


「殿下に続き我らの救世主様にまで魔の手を伸ばすとは……」


 ギリッと歯噛みしたのは同じくガルムの側近の騎士団長令息マーリス・ツナウスキー――またの名ソウルネームを炎の修練バカ。



 ドンッ!!!


「もはや我慢ならん!」



 炎の如く暑っ苦しいマーリスが拳を激しくテーブルに打ちつけた。


「落ち着け炎の」


 セルゲイはテーブルに両肘をついて、口元で両手を組んだ状態ゲンドウ・ポーズのままマーリスを諌めた。


 差し込む雷光に眼鏡のレンズが白く光り、視線はどこを向いているかは分からなかったが……



「だが海よ……」


 マーリスは納得いかないといった様子だ。


「納得できないのは僕も同じだよ……だけど今の僕たち五車聖には雲と山が欠けているし」


 ヴォルフは2人が座るべき2つの空席にチラリと視線を送る。残りの1脚は彼らの主ガルムのものだ。


「雲のジュウさんと山のフーたんですか……」


 セルゲイは今ここにいない残りの2人の名を呟いた。


 相変わらず意味も無くゲンドウ・ポーズで白い手袋をした両手で口元を隠している。やはり眼鏡は光りを反射し表情が読めない。


 いつもガルムには3人しか側にいないが、実は彼の側近は全部で5名。


 彼らは自分達を『五車聖』と名乗り、それぞれ象徴するあざなで呼び合っていた。


「しかし、雲は『俺は誰にも縛られねぇ。誰の命令もきかねぇ。俺はフーテンの雲だ!』って言ってどこか行ってしまうし、山のヤツは『山は不動よ、故に動かず』とか言って全く協力してくれませんよ」


 セルゲイは変わらずゲンドウ・ポーズのため表情は分からないが、口調から彼らへの期待は皆無のようだ。


「あいつら殿下の側近としての自覚あるんかい!」


 側近が主人ガルムを放ったらかしなのだから、マーリスが怒るのも当たり前である。


「だけど雲と山が僕ら五車聖のツートップであるのも事実だよ。カレリンに挑むなら彼らの力が不可欠じゃないかな?」


 ヴォルフの弱気な言葉にセルゲイの眼鏡が白く光る。



「また逃げ腰か? お前には失望した」

「なッ! だったら海は僕達3人でヤツをやれると思っているの?」


 ダンッ!



 椅子を蹴って立ち上がったヴォルフが声を荒げて指弾するが、セルゲイは全く意に介す様子がない。相変わらずゲンドウ・ポーズのまま微動だにしない。



「やれるやれないではありません。やるんです」



 ピカッ!


 生じた稲光が部屋を照らし、セルゲイの眼鏡が白く光る。



「そのための五車聖です」

「海の言う事には俺も賛成だ」

「だけど炎、ヤツは精神論でどうこうできる相手じゃないよ」



 ピカッ!


 窓から雷の光が部屋を再び照らし、セルゲイの眼鏡がキラリと怪しく光る。



「心配するな、おれは天才だ、おれに不可能はない!!」



 立ち上がって両腕を大きく広げたセルゲイの魂の叫び。



「もう一度いう、おれは天才だ!!」



 そして、魂の繰り返しルフラン……

 いや、その自信はどこからくる?



「大事なことだから2度言いました」

「何度言ったって全く安心できる要素ないんだけど!」

「いや、俺はむしろ余計に心配になってきた」



 そのセルゲイの根拠のない自信にヴォルフとマーリスは戸惑いの表情を浮かべた。


 宰相令息セルゲイ・ハートリフ。


 現在のように将軍職がはっきりと定まっていなかった遥か昔は、宰相が国軍を率いて戦争に赴くのが世の習いであった。


 故にセルゲイをよく知る彼の父親から『世が世なら万の軍勢を縦横に迷走させる迷惑軍師よ』と言われている男である。2人が不安になるのも無理はない。



「媚びろ~!! おれは天才だファハハハ!!」

「海がおかしくなった!?」

「風の意見に俺も同意だ」

「ほざけ〜〜〜! だれもおれのことはわかっちゃいねぇんだ!!」



 ヴォルフとマーリスの呆れ顔にセルゲイがキレた。


 セルゲイに世紀末に現れた奇跡の村を乗っ取った狂人が乗り移ったかのようだ。



「落ち着け海よ。口調までおかしくなっているぞ」

「す、すまん炎……カレリンの事になると私は平静でいられなくなるみたいだ」

「それはみんな同じだよ」

「風の言う通りだ。こんな時だからこそ俺達五車聖が結束しなきゃいけないんだ」

「うむ! そうだな」


 3人は顔を見合わせ頷き立ち上がると、テーブル越しに拳を突き合わせた。



「「「我ら五車聖、1人は皆のために、皆は1人のために!」」」



 3人は友情と結束を確かめ合う。だが、既に2人が脱落している五車聖に果たしてどれ程の団結力があるのか。



「よしッ! 俺達でカレリンを打倒しようぜ!」

「私達がカレリンに叩き潰されたのは2年前です」

「だけど僕達はあの頃の僕達じゃない!」


 その通りだとマーリスは大きく頷いた。



「僕はあれから魔術の修行に明け暮れた」

 自主的っぽく言っているが無理矢理の嫌々な修行だよな?


「俺も欠かさず闘技場に通っていたぞ」

 通ってただけで、負けたショックに放心して突っ立ていただけだよな?


「私も自己を磨き続けてきました。この前の定期考査ではクラスで2番でしたよ」

 自慢げに言っているが学年じゃなくてクラスで2番だよな?

 そしてカレリンは学年でトップだぞ。


「そうさ! 僕らは2年前の頃より成長している!――はず」

「ああ! 今の俺達ならカレリンに負けてない!――と思う」

「そうです! 私達が勝利するのは間違いない!――かも?」



 お前らはこれっぽっちも成長していないし、カレリンに勝てるところなどないし、なんなら勝利できる確率は永遠の0だ。



「私達の勝利は確実……のはず……かもしれない……ような気もしますが油断は禁物です」

「そうだな。俺達がいかに成長している……はずであっても奴も同じように成長しているかもしれん」

「そうだね。だとしたらどうすればいい?」



 3人は腕を組みうんうん唸って考え込む。



「ここはやはり……」



 セルゲイがおもむろに口を開いた時――


 ピカッ!


 ――雷光が部屋を照らし、セルゲイの眼鏡がまたまた光る。



「彼を知り己を知らば百戦百勝、彼を知らず己を知らば一勝一敗、彼も己も知らざれば全戦全敗とかつての天才軍師の著にある。私達はまずカレリンの戦力を把握すべきですね」


 それならまずお前らは自分達の力量を把握しろ。



「さすが五車聖きっての英才だ」

 お前らが全員バカ過ぎるんだろ。


「凄いや! 海の博識には僕も脱帽だよ」

 お前ら全員おんなじレベルだから。


「いやいや、それ程でもあるかな?」

 なにドヤ顔してやがる。



「それならまず俺が一当ひとあてして、今のカレリンの力量を測ってみよう」

「待って!」



 マーリスが名乗りを上げて席をったのをヴォルフが止めた。



「僕がやるよ」



 その瞳に宿る強い意志にマーリスとセルゲイが顔を見合わせた。



「だが風よ。お前は以前カレリンに魔法を叩き潰され女性恐怖症になっているだろ?」



 マーリスの心配げな様子にヴォルフは自嘲気味に笑った。



「その通りさ。だからこそ僕はあいつを乗り越えなきゃいけないんだ」

「風にそこまでの決意があるのなら俺は止めない」

「私は反対です!」



 セルゲイの反対にヴォルフは一瞬だけ悲しそうな目をした――


「悪いけどこれは譲れない」


 ――が、すぐに立ち上がって扉へと歩きだした。



「あぐあ! 風が勝手に!!」

「僕は行くよ」

「と…とめてくれ、か…風を!! とめてくれ!!」

「海よ……風にも意地があるんだ。行かせてやれ」

「で、ですが風ひとりでカレリンには……」

「海……言ったろ。僕だって昔のままじゃない」


 扉に手を掛けたヴォルフは一度肩越しに振り返った。


「ふふ、力量を測るだけではなく、あいつを倒してしまうかもね」

「相当な自信だな」

「あのカレリンに対して通常攻撃では役に立ちませんよ?」

「大丈夫さ! まあ、僕に任せてよ」



 そう強く言うとヴォルフはマーリスとセルゲイを部屋に残し、戦場へと向かって行った。

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