第3話 強敵と書いて友と呼ぶ【STAGE 公道】


 そんな大会会場いくさばへ向かう私の前に現れた1人目の刺客――2人乗りの原チャ。


 奴らは私の前方からやって来たわ。


 それは爆音を上げて(音のわりに遅い)生活道路を走る迷惑なスクーター。


 ありふれた車体にフルフェイスを被った2人乗りで、格好もラフなTシャツにどこにでもあるジーンズを身につけた男達。


 何の変哲も無い彼らは突如スピードを上げると、私とちょうどすれ違うところだった若い女性のクラッチバッグを背後から近づきひったくったのよ!


 被害女性は突然の出来事に目を点ににして唖然としていたわ。


 だけど、同時にひったくり犯も唖然としているでしょうね。

 フルフェイスで顔を拝めないのが残念だけど。


 何故かって?


 彼女がバッグを奪われ認識し目が点になるまでの僅かな間に、私の横を通り抜けようとした強奪犯に私がタックルをぶちかましたからよ。


 その間わずか0.2秒!


 そして、今この2人は私の足と腕で彼らの悪事も完全フォールド。


 通常では反応できるはずもないタイミングの犯行だったわ。だから彼らも背後からバッグに手を掛けた瞬間、自分たちの勝利を信じたことでしょう。


 だけど、それは甘い!

 グラブジャムン世界一甘い菓子より甘い!


 彼らがバッグに手をかけた瞬間、私の本能が告げたのよ!


 ヤツらをやれ!……と。


 私は衝動の赴くまま男たちに襲い掛かった。その後はあっという間よ。力ずくで組み伏せ、全てを奪い、彼らは抵抗する気力も失った。


 あッ!

 目のハイライトが無くなったわ……って、いや待って、ちょっと待って!


 字面だけ見たら私って、アブナイ人みたいじゃない!?

 男に飢えた野獣が襲い掛かって力ずくで奪ったみたくなってない?


 絶対に違うからね!

 私飢えてないわよ!


 奪ったのはバッグで貞操ではないから!!

 確かに彼氏いない歴=年齢だけどさぁ!!

 絶対に飢えてないから!!!



 ま、まあ、いいわ。


 それよりも、こんな奴らでは大会前の肩慣らしにもならない。もっと強い猛者はいないものかしら?



 ――と、思ったのが良くなかったのか。



 現れたのは第2の刺客――両手包丁の通り魔。



 私が警察にひったくり犯を引き渡していると、園児の集団が2人1組お手々繋いで私たちの横を通り過ぎて行ったの。


 か~わいい!


 なんとも微笑ましい光景よね。


 まるで天使たちの戯れ。心が洗われるよう。

 いつも思うの。純真無垢な彼らは人をありのままに見ていると。


 時々デリカシーがないとか感情的でうざいとか色々言う人いるけど、それはあの子たちがまだ忖度そんたくの分からない年齢だからからよ。


 逆に言えば彼らの純粋な瞳に映った嘘の偽りのない真実を表現しているだけなのだと思うの。そして彼らの瞳に映る自分の本質に耐えられない人たちが彼らを非難し、時には危害を加えるのよね。



 そうアイツの様に!



 そこには澱んだ雰囲気を纏った30過ぎくらいの男が両手にそれぞれ包丁を持って近づいているのが見てとれた。一触即発の場面。



「いっつもうるせぇんだよ! 人のことバカにしやがって! ぶっ殺す!!」



 突如その包丁を振り回し男は園児たちの行手を阻んだ!


 警察官たちは包丁の男に気が付いたけど、2人のひったくり犯を取り押さえている状態のため初動が遅れたようね。動きが固まってるわ。


 だけど心配無用よ。私のモットーは常在戦場。

 暴漢が包丁を振り回す前にトーゼン動き出しているわ。


 極めた武術の歩法の1つ『縮地』で一瞬で暴漢と園児たちの間に割って入ると、私は男が握る両手の包丁を腕を捻り上げて奪いとった。


 私の両手が包丁で塞がったけど、空手で磨いた上段回し蹴りを炸裂させアスファルトへと沈めてやったわ。


「子供たちの純粋な目はあなたの真実の姿を映しているのよ。こんな馬鹿なことしないで、その自分の本質に向き合い耐えられる心の強さを持ちなさい!」



 ビシッと指をさし男を諫めた私は次に怯える園児たちを振り返った。

 安心させてあげないと。


「さあ、もう大丈夫よ」



 私は両手を広げて園児たちを迎えてみたの……両手に包丁持って。



「ぎゃぁぁぁ! ナマハゲぇ!!」

「マ゙マ゙〜ゴヷイ゙よ゙ぉ゙!」

「あ、あっち行け! あっち行けったら!」


 阿鼻叫喚の園児たち……

 純粋な瞳――

 真実の姿――

 本性を映す鏡――

 自分の本質――


 えっ? 私――ナマハゲ?


 あ、だめ、耐えられそうにない……


 膝をガックリと折り、両手を地について私は血涙を流した。


 いや待って!

 きっと包丁のせいね。

 この包丁がナマハゲを連想させるのよ。

 そうよね……包丁なんて持っていた私が悪かったわ。



 包丁を置いてと――


「あなたなんで子供たちを追いかけまわすの!」

「子供たちが怯えているわ!」

「お願いだから止めてあげてぇ!」


 ――心が折れました。



 私の顔ってそんなに怖いのかしら――まさかナマハゲ顔!?



 このあと保母さんとお母さんたちの懸命の努力で園児たちも次第に落ち着いてきたんだけど、「不幸は独りではこない、必ず連れを伴ってくる」とはよく言ったものね。


 この後、まだ我が生涯最大の強敵ともが控えていたのよ。




 そう、最後の刺客が。



 私は証拠物件の包丁を警察に渡し、ひったくり、通り魔と事件から解放されたとほっとしたのもつかの間……



 ――ブォォォォン!!!

 ――パパァァァン!!!



 そこに奴が現れた。

 私の生涯最大の強敵とも


 それは大型貨物自動車10tトラック!!!


 奴は暴走しているみたいだった。

 公道から半ば歩道に乗り上げ、コントロールを失っているわね。


 私ひとりなら問題なく避けることができるんだけど……


 実は先ほどからの事件の連続と今回のトラックの爆音で私の後ろにいたおばあちゃんの腰がいってしまったみたい。


 へなへなと座り込んでしまい、立ち上がる力もなさそう……


 仕方ない、背後のおばあちゃんは私が守る!

 私はいつなんどき、誰の挑戦でも受けて立つのよ!


 それにさっき『地上最強の生物』の横暴さえ止めると誓った!


 誰かくるま道をあやまった道路をはずれた時は、私の手でかならず横暴暴走を封じてくれる!と――だから!



「誓いの時はきた! いま私はあなたトラックを超える!!」

「「「それ越えられないから!」」」



 声援を送るさわぐ野次馬たちオーディエンス

 迫る大型貨物自動車10tトラック

 立ちはだかる芳田紗穂里わたし


 大丈夫よ!


 『地上最強の生物』以外にも焼き菓子ビスケット恐竜REX君などなど色々な面々が大型貨物自動車10tトラックを打倒してきたもの。


 奴らにできて私にできない道理はないわ!


 脳内麻薬物質エンドルフィンとドパミンが私の脳を駆け巡る。

 先ほどまでの連戦の興奮と、この大舞台に対する高揚で私の閾値は振り切った!


 今までの闘いはこの大型貨物自動車10tトラックと相まみえるためだったに違いないわ。


 この高揚

 この活力

 気が満ちる



 勝機! これは間違いないッ!!




「今の私は大型貨物自動車10tトラックにだって勝てる!」

「「「勝てるかぁぁぁ!!!」」」




 観客たちオーディエンスの息のあった一斉突っ込みが対決のゴング!私と大型貨物自動車10tトラックの勝負の幕が切って落とされ――


 キッキィィィィィ!

 ドンッ!


 ――一瞬で閉じた



 私は吹き飛ばされ――敗れたのだ。

 筋肉ウェイトが足りなかったのかしら?


 ――いや、自分を信じて戦った。悔いはない!



 だけどおばあちゃんは大丈夫だったかな?


 薄れゆく意識の中で、その気がかりだけを残して、私の意識は完全に闇の中へ落ちた……




 YOULOSE



 [CONTINUE10……9……8…]




―――≪次回予告≫―――


みなさんお待ちかねぇ!

驚いたではありませんか!主人公が初戦敗退いきなりしぼうするという番狂わせ!

しかも対戦相手は人どころか生物ですらなかったではありませんか!

しかし、ここで更に驚きです!

なんと死んだはずの紗穂里の前に突如現れた女神ルナテラス!?

女神はいったい何の目的で紗穂里の前に現れたのか?

そして紗穂里はどうなってしまうのでしょうか?


令嬢類最強を目指した闘いのゴングが今鳴り響きます!

次回令嬢類最強!ー悪役令嬢わたしより強い奴に会いに行くー『第二死合!格闘少女vsポンコツ女神ルナテラス』に、レディィィ、 ゴォォォ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る