令嬢類最強!?~悪役令嬢(わたし)より強い奴に会いに行く~

古芭白 あきら

オープニグデモ

第1話 婚約破棄―OPイベント―【SCENE 講堂】

―――≪OPナレーション≫―――

『この日、学園生であることを誇りに生徒たちが集まった。

今日の舞台は入学式――『講堂』。

しかし、今回の式は何やら様子が少しおかしいようです。

なんとガルム殿下が婚約破棄を突きつけるではありませんか!?

しかし、婚約者カレリンは全く動じる様子がありません。

何やら企みがあるようです。

この難局にいったいカレリンにどのような秘策があるのでしょうか?


それでは、令嬢類最強!にレディィィゴォー』

―――――――――――――――



「カレリン・アレクサンドール侯爵令嬢! 第2王子の婚約者にあるまじき行為の数々、もはや我慢ならん!――私、ガルム・ダイクンは貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」



 入学式のこの日、生徒会の面々である、この国の第2王子ガルム・ダイクンとその取巻き達が壇上を占拠しました。


 そこで、彼らが行ったのは『婚約破棄』というハレの日に似つかわしくないイベント。


 入学したばかりの新入生は突然の出来事に状況がわからず、隠しきれない不安のため視線をきょろきょろと彷徨さまよわせています。


 在校生はいつものことかと、どこか遠い目をして壇上の主役でんか達を眺めていました。


 壇上のガルムが睨み付け指差したのは、壇下で1人たたずむ少女。


 美しく輝く金色に波打つ髪、澄んで透きとおった青い瞳、女性は嫉視しっしし、男性は見とれるだろう造形の整った面貌かんばせと制服を着ても隠すことのできない起伏のある見事なプロポーション。


 生徒はみな同じ制服を着ているにも関わらず、周囲に埋没することのない絶対の存在感。



 ――まごうことなき絶世の美女



 彼女こそがこの婚約破棄ちゃばんのもう1人の主役、侯爵令嬢カレリン・アレクサンドールです。



(遂にこの時がきたか……)



 ですが、カレリンに動揺はありませんでした。


 何故なら彼女は婚約破棄にこうなると生まれた時から分かっていたから。


 そう生まれた時、いや生まれる前からカレリンには婚約破棄このことが分かっていたのです。



 それが女神わたしとの契約やくそくだから……

 そう彼女が転生する時にした女神わたしとの契約。



 だから、カレリンはその為に準備をしてきました。

 この日この時の為に心身を鍛え上げてきたのです。



 何が起きようとも対処できる。

 何者にも負けるつもりはないし、負ける気はしない。


 そんな強い心意気でカレリンは壇上を鋭い目つきで見上げたのです。



 そこにはガルムとその側近達がカレリンを睨み付け、ガルムの背後からは可憐な少女がやはりカレリンを伺い見るように隠れていました。


 この婚約破棄ちゃばんのもう1人の主役である少女の名はラファリィ・マット。


 小柄な身長、淡いピンク色の髪、青く澄んだ大きな瞳。可愛い顔立ちと華奢な体は男なら誰もが庇護欲をかきたてるものかもしれません。



 ラファリィこそがこの世界の原型となった乙女ゲームのヒロインなのです。



 当然のようにラファリィはガルムの側近たちを入学してから僅かな期間で篭絡しました。その手管はみごとしか言いようがありません。


 そして側近たちを飼い慣らすとラファリィはガルムにも近づきました。


 そのガルムも秒で魅了されてしまい、お前らちょろすぎだろとカレリンは呆れ顔。


 それから彼らとカレリンの衝突の日々が始まり、月日を重ね、新入生たちを歓迎する入学式。


 ついに迎えたこの日。


 式は順調に進行していましたが、生徒会であるガルム殿下を筆頭に5人が講堂の壇上を占拠して全校生徒が見守る中、遂にやらかしてしまったのです。


 ですが、前述のようにカレリンは準備を怠りませんでした。だから彼女は今日彼らを捻じ伏せるのみ。



「これはこれは、ガルム殿下と側近の御三方おさんばか……とキンギョのフンゲフン、負け犬男爵令嬢」

「マット男爵令嬢よ! "ま"しかあってないじゃない!」

「お前誤魔化せていないからな! 言っちゃってるから! 3馬鹿って、金魚の糞って言っちゃってるから!」

「今のワザとだろ! 絶対ワザとやってるだろ! その不遜な態度も今日までだからな!」

「今日こそ積年の恨み晴らし、その性根しょうね叩き直してくれる!」


 壇上で騒ぐヒロインのラファリィ・マットと発言の順に魔術省長官令息ヴォルフ・ハーン、宰相令息セルゲイ・ハートリフ、騎士団長令息マーリス・ツナウスキーの3馬鹿側近衆。


「今日まで? 恨みを晴らす?――ッくす」


 不敵な笑みを扇子で隠し、自慢の吊り目の目力めぢからで壇上の5人に威圧をかけました。


「そう言う寝言は1度でも私に勝ってから言ってね」

「「「「くッ!」」」」



 あまりの圧力プレッシャーにラファリィと3馬鹿は圧倒され片膝をついたのですが、さすがに1国の王子であるガルムはその圧に耐えたようです。



「いつもいつも物理ちからで解決できると思うなよ!」



 1歩前にずいっと進み4人を守る位置でガルムは負けじと気合を入れる。全身からほとばしる王族のオーラ。その高貴で他者を従えてきた気が充実していますね。


 今日のガルムの本気度が窺えます。



「ふッ、戯言たわごとを……」



 しかし、それを鼻先で笑うカレリン。


 とても侯爵令嬢こんやくしゃ第2王子こんやくしゃにとる態度ではありません。



「力こそ真理! 筋肉ちからこそ至高! パワーちからこそ全て! 物理ちからで解決できぬものは無し!」

「なんという脳筋発言!?」


 その不遜な物言いにカレリンとガルム達の言い争いは激化していく。

 周囲の教員、生徒たちはその様子をただ眺めることしかできません。



 そして、遂にガルムサイドの怒りが頂点へと達したのでした。



「今日こそは横暴な貴様に鉄槌を降し、婚約を破棄してくれる!」

「そして、お隣の可憐ひんじゃくなご令嬢と結ばれると?」


「貧弱言うな! ラファリィこそ私の最愛、私の真実、私の唯一だ!!!」

「あらあら公衆の面前で大胆な浮気発言ですか?」



 やれやれとカレリンは肩をすくめて首を振る。



「黙れ! 貴様によって傷つけられた私の心をラファリィだけが癒やしてくれたのだ!」

「私が? 殿下を? いつ?」



 目が点になった様なホントに意味が分からないという表情のカレリンに、ガルムはぐぬぬぬッと歯軋りです。



「分からんのか! 貴様は婚約が決まってから私が贈ったプレゼントの数々を踏みにじった!」

「宝石の指輪よりオリハルコンのメリケンサックが良かったとけなしたことですか?」


「王室御用達の細工師によるブレスレットを贈った時は、竜皮の籠手じゃないのかとの暴言も!」

「ガルム様の瞳色のドレスの時には幻獣の道着を要求したっけ……懐かしい思い出です」


「他にも数々の心を込めた贈り物を貴様は心ない言葉で足蹴に……」

「そんなことで……みみっちい男」


「うがぁぁぁぁ! 貴様のそういう所がいやなんだぁぁぁ!」

「殿下しっかりして下さい」

「殿下ファイト!」

「殿下ガンバ!」


 取り乱すガルムに取り巻き達が声援を送るが、ガルムは耐えられず泣き出してしまいました。


「くそぉ……私の初恋を返せ」


 涙目で嘆くガルム。


「あいつ見た目だけは極上ですからねぇ」

「幼少期から絶世の美幼女で通っていましたしねぇ」

「婚約が決まった時は殿下も大喜びでしたもんねぇ」


 無責任な側近達。



「ぐッ! だがそれも今日まで! 貴様との婚約を破棄し、この因縁に終止符を打つ!!」



 ビシッとカレリンを指差し宣言するガルムと後ろから拍手を送る側近達。

 その様子を見てカレリンは小首を傾げました。



「国王陛下がお許しになりますかねぇ」

「貴様との婚約、国王が許そうとも私が許さん!」


「それは暴挙というものでは?」

「貴様を王子妃にするほうが暴挙だ!貴様は満足に王子妃教育も修めていないではないか」




「――はい?」




 カレリンはキョトンと美しくも愛らしい表情で不思議そうにガルムを見つめる。



「ま、ま、まさかカレリン……お前は自分がきちんと妃教育を習得できていると思っていたのか?」



 カレリンの様子にガルムは愕然です。


「えーと……何か問題がありました?」

「ダンスのステップも友好国の言語も社交としての舞踏会もこなせていないだろ!?」



「何だそんなことですか――」



 ふッ!

 と不敵に笑うカレリン。


「ダンスなぞ武技の歩法ステップパートナー対戦相手を翻弄!」

「肉体言語があれば世界の強敵達V.I.Pとばっちり会話!」

「武闘会に参加して強敵ゆうじん達との社交も十分ね!」


 自信満々に答えるカレリンにガルム絶句!


「アホか貴様!」

「相手が死ぬわ!」

「俺よりも脳筋とは……」


 しかし、ガルムの代わりに側近たちが騒ぎ出す。



「――ッ」

「――ッ!!!」



 売り言葉に買い言葉。

 やいのやいのと場はヒートアップ。



「殿下、大丈夫です。霊長類最強がなんです!」

「そうです。僕の攻撃魔法で叩きのめしてやりますよ!」

「しかりしかり、我が家の家宝魔剣『オーガ斬り』の錆にしてくれる!」

「私の魔法でみんなを援護、回復するわ!」

「そ、そうだな……私には皆がついている――私とて王家の漢だ! 無駄死にはしない!!」


 勇気づけられ勢いを取り戻したガルムは再び胸を反らしカレリンを指差しました。




「カレリン・アレクサンドール侯爵令嬢! 私ガルム・ダイクンは貴様との婚約を破棄させてもらう!! そして、禍根を残さぬため国外追放を言い渡す!!!」

「婚約破棄? 国外追放?……ふん!」



 鼻で笑うとカレリンはガルム達に向けて挑戦的にくいくいと手招きをする。




「ごちゃごちゃうるさい! かかってこい!」




 こうして彼女カレリン・アレクサンドール=芳田紗穂里よしださほりの霊長類最強を目指す闘いの幕が切って落とされたのでした。



 いえ、女神わたしが彼女をこの悪役令嬢に転生させたあの日から既に闘いは始まっていたのかもしれません。


 そう、女神である私ルナテラスが彼女、芳田紗穂里を間違って・・・・転生させてしまったあの日から……



《REPLAY》



【タイトルロゴ】

https://kakuyomu.jp/users/1922428/news/16817330650758102835



―――≪次回予告≫―――


「みなさんお待ちかねぇ!

いよいよ開幕しました令嬢類最強!?最初の挑戦相手は大型貨物自動車10t トラック

カレリンに転生する前の芳田よしだ紗穂里さほりの注目の第一死合!

令嬢類最強を目指した闘いのゴングが今鳴り響きます!


次回令嬢類最強!?ー悪役令嬢わたしより強い奴に会いに行くー『第一死合!大型貨物自動車10t トラックvs格闘少女』に、レディィィ、 ゴォォォ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る