インゴール領都でお買い物!

「んふふ~♪」

 インゴール侯爵領都で買い物をしていた千春はニコニコで通りを歩く。


「ごきげんだな。」

 エンハルトは千春を見ながら話しかけると、千春は嬉しそうに頷く。


「色々買えたからね~♪」

 霜降りの牛肉、赤身の塊、他にも大きな鳥肉や羊肉と、多種多様な食材を買い漁り、千春は満足そうだった。


「ただなぁ~・・・」

 千春はチラリと通りを見る、遠巻きに柄の悪い男達が集まっている。


「ああ、治安が良いとは言えないな。」

「だよねぇ・・・」

「それはこれからインゴール領都の課題だな。」

「どうにかなるの?」

「それをどうにかするのが領主だ。」

「・・・そりゃそうだ!」

 通りの細い路地は暗く、あまり近寄りたいとは思えない、そして千春は視線を外す。


「あら、チハルの事だからまた口を出すかと思ったのに。」

 サフィーナがクスクス笑いながら千春へ言う。


「まぁ正直出来る事なら何とかしたいな~って所は有るよ、でもハルトも言ってたじゃん『領主の仕事』って。」

「成長したな。」

「成長なのかなぁ・・・」

 千春は首をカクンと傾げながら呟く、通りを歩いているとあまり身なりの良くない少年と一瞬だけ目が合う。


「・・・スリかな。」

「わかるのか?」

「いや、なんとなく。」

 少年は明らかに貴族の装い、そして護衛を連れた千春と目が合い、遠巻きに避ける。


「うーん、中学生くらいかなぁ、孤児もいるの?」

「いるだろうな。」

「仕事無いの?」

「沢山あるぞ、インゴール侯爵領も開発が進んでいる、人手はいくらでも欲しいだろう。」

「子供は働けないか。」

「働けるぞ、ユラくらいの年でも働く子供もいる。」

 少年は千春と目を合わさず、すれ違いそのまま歩いて行った。


「こっちの世界は孤児多いなあ。」

「孤児のほとんどは親が冒険者で、出先から帰ってこない事が多い。」

「・・・魔物に?」

「そうだ。」

「死んだら終わり・・・究極のブラックな仕事だね。」

「獲物を狩る事が出来れば見返りも大きい、地道に働けない者は一攫千金を狙って冒険者になる、そして自分の実力を見極める事が出来ない者は帰ってこない。」

「厳しい仕事だなぁ、でも必要なんだよね?」

「ああ。」

 歩きながら話す2人、言葉が止まり歩き続ける、そして商業ギルドの前に到着するとシンクが千春に話しかける。


「こちらが商業ギルドです。」

 千春の話を聞いていたのか、少し寂し気に説明する、千春はニコッと微笑み礼を言う、建物の中に入ると、中には商人が列を作っていた。


「・・・多い!」

「それはそうだろう、この領はいくつかの大きな街道で他の領とも繋がっている貿易領だからな。」

 エンハルトはするりと人込みを避け、職員に話しかける、すると職員はすぐに中へ案内する、千春はサフィーナを見ると、サフィーナは微笑み千春と一緒に奥へ進んで行った。



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「・・・寝なかった!」

「偉いな。」

「へっへ~♪」

「でも話し聞いてなかったわよね?」

「・・・キイテタヨ?」

 商業ギルドマスターとの話を聞きながら、千春は何度も欠伸を噛み殺していた。

 エンハルトは優しく微笑み、サフィーナはクスクスと笑いながら突っ込む。


「さぁ!用事は終わりだー!お屋敷に帰りましょー!」

 仕事は終わりだと言わんばかりに千春が手を上げる、商業ギルドを出ると馬車が止まっていた。


「さて、それじゃ戻るか。」

「はーい♪」

 皆は馬車に乗り込む、そう遠くない領主邸、千春は無言で外を見ながら領都邸へ戻った。



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「おかえりなさいませ。」

 館に着くと、執事やメイドが並び出迎える。


「チハル、厨房に行くんだよな?」

「うん、ハルトは?」

「俺はルビノブ卿と話をして来る。」

「お仕事がんばっ!」

「料理楽しみにしてる。」

「うぃっ!」

 エンハルトは手を振り館へ入る、千春は「ふみゅ」と一言呟きシンクを見る。


「それじゃ夕食作りに行って来るね♪」

「あの!チハルさん!」

「ん?なに?」

「その・・・料理を・・・お手伝いさせてもらってもよろしいでしょうかっ!」

 シンクは申し訳なさそうに、だが目は千春を見つめながら問いかける。


「いいよ♪それじゃ一緒に行こう♪」

 千春はシンクの手を取ると、館の厨房へ向かう、その後ろから千春の侍女達が続く、サフィーナは千春の横を歩き問いかけた。


「ビーフシチューを作るんでしょ?」

「その予定♪」

「他にも作るの?」

「良い牛肉沢山買ったからね~、サフィーは何か食べたいのある?」

「チハルが作った料理ならなんでも♪」

「そんな新婚の旦那様が言う様な言葉を・・・モリー、何か食べたいのある?」

 千春は少し後ろを歩いていたモリアンに問いかける。


「・・・すき焼き・・・ステーキ・・・ローストビーフ・・・いや、肉じゃがも捨てがたいです・・・ペッパーライスも美味しかったですよねぇ・・・」

 ブツブツと呟くモリアン、千春はクスッと微笑むと、割り振りを考え始めた。


「ローストビーフは料理人さん達にお願いして、ステーキも焼くだけだし、肉じゃがはモリーがおばぁちゃんに教えてもらってたな、すき焼きは・・・サリナが作れる、よし、全部作るか。」

「全部作るの?」

 サフィーナは呆れたように言うと、千春は頷く。


「ルプ達も食べるじゃん?うちの連れて来た騎士さん達にも労いたいし、ドラゴンさん達はステーキ喜ぶし♪」

 護衛として付いて来ている竜騎士団、そして魔導師団、総勢すればかなりの人数になる、千春は作った事のあるレシピをアイテムボックスから取り出すと、サリナに渡す。


「サリナ、これ料理人さん達にお願い。」

「はい、了解しました。」

「それじゃ私はビーフシチュー作ろ、シンクちゃんも一緒に作ろうねっ♪」

「はいっ!」

 千春はビーフシチューのレシピをスマホ画面に表示させる。


「あら、レシピ見ながら作るの珍しいわね。」

 サフィーナが千春に問いかける。


「私が作る時はルーを入れるだけだもん。」

 画面をスライドしているとサフィーナが問いかける。


「これ、ごはんに掛けて食べる物だったの?」

「ん?これ?こっちはハッシュドビーフだよ。」

「同じところにあるわよ?」

「うん、だって中身ほぼ一緒だから。」

「名前は違うのに?」

「そうだよ、強いて言うなら塊肉がビーフシチュー、薄切り肉だとハッシュドビーフ。」

「ごはんに合うの?」

「合うよ!?めっちゃ美味しいよ!」

 そう言うと千春は頷く。


「よし、両方作ろう、サフィーはビーフシチュー手伝ってね。」

「はいはい、勿論手伝いますよ。」

 クスクス笑いながら答えるサフィーナ、シンクは少しオロオロしながら問いかける。


「えっと、私は・・・」

「シンクちゃんは私とハッシュドビーフ作ろうね♪」

 千春が言うと、シンクは嬉しそうに頷く、するとモリアンが画面を覗き込み問いかける。


「チハルさ~ん、この前作ったハヤシライスとは別なんですかぁ?」

「・・・ほぼ一緒。」

「何で違う名前なんですかぁ?」

「・・・こまけぇこたぁいいのよ。」

 スンッと真顔で答えると、皆を連れて厨房へ向かった。






 

 

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