ユラの里!

「さてと。」

 千春は不意に呟く。


「モートさーん。」

「なんだい?」

 千春の呼びかけに現れるモート。


「ちょっとお願いがあるんですけど。」

「・・・あぁ構わないぞ。」

「ありがとう。」

 千春はニコッと微笑むとお礼を言う。


「千春どうしたの?」

 頼子は千春を見ながら問いかける。


「ん、前言ってたさ、ユラの両親の里に行ってみたいなって。」

「あー・・・でもユラちゃん大丈夫かな。」

「わかんない、でも大丈夫だと思うんだ・・・それにちゃんとお別れ出来てないと思うんだよね。」

「話聞いてるけど、そうだろうね。」

「モートさんユラのお父さんとお母さんの魂は?」

「冥界だ。」

「生まれ変わりしないの?」

「魂の修復が終われば新しい命に吹き込まれる。」

「・・・壊れてるの?」

「傷ついているな。」

「やっぱりアレ?殺されたから?」

「そうだ。」

 淡々と答えるモート、しかし言葉は強めだ。


「モートさん・・・その・・・ユラのお父さんとお母さんの魂に会わせる事って出来ます?」

「出来ない事は無い。」

 含むような言い方で答えるモート、千春もそれを察したのか黙る。


「条件とか有ります?」

「冥界の管理者に許可を貰えば可能だ。」

「管理者・・・神様かぁぁ!」

 千春はスマホで冥界の神を検索する。


「イザナミ・・・様?」

「ギリシャ神話だとペルセポネーって書いてるね。」

 一緒に調べる頼子も付け加える。


「閻魔様も冥界の王って書いてるよ。」

「閻魔様とか居るのかな。」

「さぁ?どうだろう、モートさん閻魔様っているの?」

「管理してる所が違うからな、分からないな。」

「因みにジブラロール・・・っていうかこの世界の冥界の神って誰か分かります?」

 千春はそう言うとモートを見る、モートはニコッと笑うと自分に指を差す。


「俺だが?」

「モートさんかーい!」

「そういえばモートさん死神だったね。」

「死神ではないが、まぁ似たようなものか。」

 フッと笑うモート、そして千春の思考を読んだモートは頷く。


「一度だけ会わせてやろう。」

「ありがとうございます、対価は必要です?」

「いや必要無い、俺も会わせてやりたいとは思っていた。」

「あ、そうなんだ。」

「モートさんユラちゃんに甘々だもんね~♪」

「思っていたって事は、会わせなかった理由が有ったりするんですか?」

「ユラが泣くだろう?」

「絶対なくと思う。」

「泣くよね。」

「俺ではユラを慰める事は出来ないからな。」

「・・・優しいなぁモートさん。」

「でも私もユラちゃんが泣いたら慰めれない気がする。」

 頼子も少し悲し気に呟く。


「私が横で手繋いでるから、両親にちゃんと任せてくださいって言うから。」

 千春は目に涙を溜めながら呟く。


「って事は里に行かなくても大丈夫な感じ?ココに呼んでもらうとか?」

 頼子は首を傾げながらモートを見る。


「墓はあるぞ、里の生き残りが作っているからな。」

「そっか、ユラを知ってる人が居るかもだし、お墓参りもしたいよね。」

「それじゃいつ行く?」

「モートさんが連れて行ってくれるからいつでも大丈夫だと思うけど。」

 千春がモートを見ると頷く。


「と!言う訳で私はお母様に報告してきます!」

 千春は立ち上がる。


「ミオ達どうする?」

「今日は彼ピの実家でお泊りだしなぁ、すぐ帰って来るだろうし呼ばなくて良いんじゃない?」

「ん~、一応連絡だけ入れておくわ、千春はメグ様の所行っといでー。」

「うぃっす、サフィーお母様の所行くね。」

「はい。」

 サフィーナは頷き千春を連れマルグリットの部屋へ向かった。



-----------------



「お母様はいらっしゃいますか?」

 扉の前に立つ執事に声を掛けると、執事は頷き扉を開ける。


「お母様~。」

「あらチハルいらっしゃい、どうしたの?」

「え~っと、ユラの里にちょっと行って来ます。」

「ユラの?何か有ったの?」

「いえ、モチ米の話をしていた時にユラを攫った悪いヤツの話になったんですよ、モートさんが連れて行っちゃったらしいんでソレは良いんですけど・・・ユラの里に両親のお墓が有るらしくてですね?」

「・・・そうなのね。」

「はい、それでモートさんが両親の魂を一度だけ連れて来てくれるらしいんです。」

「それは本当なの?」

「はい、今私の所でモートさんが待ってます。」

「そう・・・ユラは今フィンレーと一緒に居るわ、アルベル、ユラとフィンレーを連れて来て。」

「はい。」

 そう言うとマルグリットが立ち上がる。


「チハル、エイダンの所へ行くわ、ついて来てくれる?」

「へ?お父様?」

「えぇ。」

 マルグリットは真剣な顔をし答える、そして2人はエイダン国王陛下の執務室へ向かう。


コンコン。


 扉が開きルーカスが顔を出す。


「マルグリット王妃殿下、どうぞ。」

 ルーカスは笑みの無いマルグリットを執務室に招き入れる。


「どうしたメグ。」

「エイダン、時間を空けて欲しいのだけれど。」

「・・・ふむ、ルーカス、今日の仕事は終わりだ。」

「はっ。」

「それで?」

 エイダンはマルグリットを見る。


「ユラの里へ行くわ。」

「何か有ったのか?」

 エイダンとマルグリットは少ない会話で話を続ける。


「ユラの両親をモート様がお呼びされます。」

「・・・ふむ、分かった、移動手段は?」

 エイダンはそう言うと千春を見る。


「モートさんが連れて行ってくれます。」

「そうか、いつ行くのだ?」

「えっとぉ・・・準備出来たら行きます。」

「分かった、準備が出来たらチハルの部屋へ向かう。」

「・・・お父様も行くんですか?!」

「行くに決まっておろう、義理とはいえ可愛い娘じゃぞ?それにフィンレーの妻になるのだ。」

 真剣な顔で話をしていたエイダンは千春に微笑む、千春は思わず笑みを返す。


「はい!そうですね!」

「そう言う事よ、安心して下さいって一言くらい言わせてもらいたいわ。」

 マルグリットも笑みを浮かべ千春に言う。


「それじゃ部屋で待ってますんで!」

 千春は2人にそう言うと部屋を出て行く、そして自室に戻ると。


「チハル!ウチら置いて行くつもりかぁ!」

「ユラちゃんは私達全員の妹だ!」

「そうだそうだ!わたしらも連れてけや!」

「ほんとだよー、ユラちゃんの両親にいっぱいお姉ちゃんいるよって教えないと。」

「安心させてあげないとね~♪」

 JK達は勢揃いし千春に文句を言う、しかし皆は笑顔だ。


「うん、みんなで行こう!そうだ!イーレンとイーナも連れて行こうか!」

「そだねー、仲いい友達も居るって教えたいよねー。」

「リリ、イーレンちゃんの家分かるよね?」

「わかるわよ~♪」

「それじゃ私イーレンちゃん迎えに行くわ。」

 麗奈はそう言うとリリを連れフェアリーリングに向かう。


「蝙蝠ちゃーん。」

 千春はシャンデリアの上を見ながら声を掛けるとピョコっと顔を出す蝙蝠。


「アルデアー、イーナ呼べる~?」

「呼べるわよ。」

「うわぁ!ビックリしたぁ!」

 千春の真後ろから耳元で声が聞こえ驚く千春。


「話聞いてた感じ?」

「ぜ~んぶ聞いてたわよ、メグとエイダン国王の所でもね。」

「そりゃ話が早いわ、お願いしたいんだけど。」

「今ユラの所に行ったわ、メグと一緒に来るわよ。」

「さんきゅー♪」

 着々と準備が整う中、千春に声が届く。


((私もいくわよ~。))

「うぉう!アイトネ?」

『ユラの両親に安心出来るようにね♪』

「女神様が居たら逆に驚いて成仏しそうだね。」

『チハルの世界で言う成仏とこちらの冥界に行くって同じような物なんだけれど、ユラの事が心配で魂の傷が治らないと困るでしょ?』

「そう言う物なんだ。」

 千春はクスクスと笑みを浮かべながらアイトネを見る。


『・・・。』

「思考読んだ?」

『・・・。』

 プイっと横を見るアイトネ。


「どうしたん?千春。」

「いやぁ、みんなユラには甘々だなぁ~ってね?」

「千春、あんたもだよ。」

「ヨリもだよ?」

 そう言うと2人は笑い合った。







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