第4話 上とか下とかはわかりません
「……ノエルさんとヴラドさんの他の方達は、その『ドール』でいらっしゃるのですか」
いまだに姿を見せない他の魔法使いを気にはしていたのだが、何せテンション爆上がりで調理実習に熱中していたので館の探索すらしてはいなかった。
「魔法を使い過ぎてしまったからですか」
ここに来てから得た少ない知識で行き着くのはだいたいそんなところだった。
「ではわたくしは、その方達をノエルさんのように、ドールから人へ戻せばいいんですのね」
ひとりで納得したように呟くと、シデが驚いた顔をした。
「そんな簡単にドールは治りっこないっすよ。前の主も結局、ノエル坊ちゃん一人をどうにかこうにかってレベルで」
「その方はどちらに?」
自分より前に、魔法館の主となった者が。今はどうしているのか。
ノエルの表情が曇ったので大方察しはついたが、ヴラドが重々しく口を開いた。
「前の主は老衰で亡くなった」
「新しい主様が選ばれるのは前任の主様がいなくなった時だけです。前の主様は本当に優しい方で、随分良くしていただいたのに……彼が亡くなって、哀しみの感情が芽生えるまで自分は」
前の主がいた間は、ノエルはドールのままだった。
「ではわたくしは、その方の分も担ってめいいっぱい皆様を愛でていきますわ」
「えらく前向きっすね」
「そりゃあもう責任重大というやつですわ」
「比べるわけじゃないっすけど、前の主はいつも嘆いてましたよ。姫さんは変わってるっす」
首をかしげる。嘆く理由も頑張らない理由も意味がわからない。
ヴラドが静かに息を吐き出した。溜息とは違う。熟考のあとの吐息だろうか。
「世界には階級がある」
切り出された話の唐突さに今度はシデが首を傾げた。
「通常、召喚に応じるのは、下の階級世界だ」
「つまり、異世界から召喚される主は、この世界より下の階層世界からやってくるわけですわね」
「あ。そういう。……姫さん理解が早いっすね」
「過去、主として召喚された誰しもが、おそらくそうであった。だがお前はそうではない」
「そうなのですか?」
「申し訳ありません主様……自分にはちょっと判断がつきません」
主の視線を受けてノエルはまごまごと口籠った。
「わたくしにもわかりません。別にどちらでもいいですし。とりあえずお料理が冷めてしまわないうちに、ノエルさんには身体に負担のかからないよう、スープから試してみますわ」
「あ。いつの間にかもう持ってるっす」
「はい。あーん」
「は???」
ノエルが理解するより先に、口にスプーンを突っ込まれていた。さすがのヴラドも思わず口許に手をやる。ア然。
「薄口にしてありますので安心してください」
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