第19話 ロゼ愛してる!【テディside】


「私が話したらどうするのですか?」


 ロゼは私の顔をじっと見ている。


「ロゼが話したのなら仕方ないよ」


「私を信用しているということですか?」


「もちろんだ。秘密の続きはまた少しある。結婚して5年経ったら正妃は病死したと発表することになっている。そこで我が国とキンバリー帝国の約束は終わりだ。ロベルトは我が国に戻るもよし、そのままキンバリー帝国の皇女に婿入りするのもありだ。本当なら私は結婚するつもりはなかった。だからキンバリー帝国の話を受け入れたんだ」


 私は顔を上げてロゼの目をじっと見た。


「私には好きな人がいた。でもその人には婚約者がいて、私の思いは届かないと諦めていたんだ」


「そんな方がいらしたのですね。その方は今は?」


「ここにいる。私の目の前に」


 やっと言えた。私は続けてロゼに思いを伝える。


「ある夜会でロゼを見て一目惚れしたんだ。でもロゼには婚約者がいた。側近たちやマックスはそんなに好きなら権力を使ってでも奪い取ればいいと言ったが、私はそんなことはできなかった。せめてマックスのような見た目ならロゼも私を好きになってくれるかもしれない。でも私はこんななりだし、好かれるはずなんてないからな」


 私は俯いてしまった。


「ひとめ惚れではないですわ。私たちはもっと前にお会いしておりますわよ」


 ロゼは覚えていてくれたんだ。


「うん。夜会で見かけた時に同じ人とは気が付かなかった。それから色々調べて、君があの時の小さいロゼだとわかった。すぐにブロムヘキシン公爵に結婚を申し込もうとしたらすでに婚約者がいることを知った」


「だからキンバリー帝国からのお話をお受けになったの?」


 私はこくんと頷いた。


「ロゼと結婚できないのなら一生結婚するつもりはなかった」


「後継はどうなさるつもりでしたの?」


「マックスがいる。でも君が婚約を破棄したと叔父上から聞き、居ても立っても居られなかった。周りは約束の5年が過ぎるまで待てと言ったが、もう誰にも取られたくなかった」


汗が流れて落ちる。


「このままでは君は年寄りの後添いか変な奴のところに嫁がされてしまう。それならいくら好きになってもらえなくても、嫌われても、嫌がられても、私がもらうと決めたんだ。みんなで毎日話し合った。キンバリー帝国とも話をした。それでしばらくは側妃ということにして、正妃が亡くなったあと、喪があけたら正妃になるということになっているんだ。何も知らせず、証明書にサインさせてしまって申し訳ない」


 ロゼは私の話を聞いて固まっていた。


そして立ち上がり、私の頬をグーで殴った。


 唇が切れて血が出ているようだ。


 ロゼは私の唇の傷にキスをして笑った。


「これで許して差し上げますわ。もう、嘘や隠し事は許しませんわよ」


「はひ」


 もう、隠し事も嘘もない。私はロゼだけだ。


「でも、私はずっと側妃でよろしいのですよ。正妃なんていずれ王妃でしょう? 遠慮したいです」


 ロゼはふふふと笑った。


*~*~*~*~*~*~*


 2年後、身体が弱く国民の前に一度も姿を見せなかった正妃が亡くなったと発表した。その一年後、喪があけるのを待ってロゼは正妃になった。


 その時にキンバリー帝国はお祝いだと言って、国民たちから正妃の記憶を消し、ロゼは初めから私の正妃だったと認識させた。


 それを聞いた時、そんなことができるキンバリー帝国に逆らわなくてよかったと心から思った。


 ロベルトは結局、我が国には戻らず、キンバリー帝国の皇女と結婚した。


 そもそもロベルトは同時期にシンバレッド王国に留学していたキンバリー帝国の皇女と恋仲だったらしい。

 あの時、ロベルトがあの王女を真実の愛の相手とすることになりそうだったのを、皇女と2人で皇帝を説得したらしい。


 自分を人質にということにすれば兄上は絶対うんと言うはずだと。


 私はロベルトに嵌められたのだ。


 私はロゼと一緒にロベルトの婚姻式に参列したが、ロベルトはとても幸せそうだった。


 もちろん私はロベルトにロゼの知らないところで土下座させ、キンバリー帝国から我が国に一切危害は加えない、有事の際は必ず我が国を守ると皇帝に誓約書を書かせた。

 ロベルトは皇女の婿としてこれからキンバリー帝国と我が国の橋渡しをしてもらう。


 私を騙したんだ。それくらいはあたりまえだろう。


 私たちには子供がふたりできた。私に似た王子とロゼに似た王女だ。


 私にとってロゼと子供たちは命より大事だ。


 私はこの春に国王に即位した。そしてロゼは王妃になった。


 ロゼは賢王妃として国民から慕われた。

 一応私も良き国王と国民に言われた。


 今思えばあの5年間はなんだったんだろう。

 そんな魔法が使えるなら最初から使えばいい。

 私はキンバリー帝国の第2皇子のプライドのために訳の分からない5年を過ごしてしまった。


 あれから、あの王女は媚薬漬けになり気が狂い鎖に繋がれたまま亡くなったらしい。

 それをずっと見ていたキンバリー帝国の第2皇子も心を壊して亡くなったらしい。


 きっと第2皇子はあの王女を愛していたんだろう。だから許せなかった。愛が憎しみに変わったのだろう。


 私はロゼがあの王女のようなことをしたらどうなるかと考えた。


 私ならロゼを殺して私も死ぬ。いくら憎くてもロゼを苦しめるのは嫌だ。


 もう、ロゼがいくら他の男を好きだと言っても身を引くことなど出来ない。それならふたりで消えよう。


 まぁ、ロゼが私や子供たちを裏切ることはない。


 そして私がロゼを裏切ることなんて天地がひっくり返ってもあり得ない。


 これから先も死がふたりを別つまで(別れないけど)ロゼと共に生きていく。


 ロゼ愛してる!!


【了】



*皆様、ありがとうございました。

ゴリクマ視点はこれにて終了です。


 あと1話、トワレード侯爵令息のお話で終了です。


 もう少しお付き合いくださいませ。



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