「共犯者を手に入れた」①


 路地裏で襲われていた悪漢たちから助けてあげたプラチナブラウン髪の女性…彩菜を連れて帰宅した頃には時計は午後10時を指していた。普段なら夕食を食べ始めてる時間だが、今はそれよりも優先すべきことがあると、カイラは彩菜と向き合う。


 「椅子とかはないから、床に座ってくれ。あ、座布団あったからこれ敷いて」

 「ありがとう、ございます」


 座布団を受け取ってそれを敷いて座る彩菜に対し、カイラは敷布団の上に座って、話を始めることにした。


 「自己紹介がまだだったな。俺は桐山カイラ。年はあんたよりは上…だと思う。20代後半だ」

 「私は23才なので、あなたの方がお兄さんですね」

 「あ、年齢言うんだ?じゃあ俺、27才だから」


 お兄さんと呼んでくる彩菜に、カイラは少し妙な気分にさせられた。


 「改めて…路地裏で犯されそうになってた私を助けていただいて、ありがとうございます」

 「こっちこそ、病院まで連れてくれたり治療費を払ってくれたりして助かった。貸し借りは無しになったと思ってくれていいぞ」

 「そんな……私がしたことよりも、桐山さんがしてくれたことの方が大き過ぎます。私の……て、貞操が汚されるだけでなく、殺されてたかもしれなかったし…。あなたは私の命の恩人といっても良いくらいです」

 「……殺したのは、俺の方だけどな」

 「あ………」

 

 自虐調で返したカイラによって、彩菜は彼がしてしまったことを思い出す。


 「そ、そうでした…!私を助ける為だったとはいえ、私を犯そうとした下劣極まりない人間だったとはいえ、人を二人……殺してしまっているんでした、よね……」

 「……………」


 大変なことを思い出して慌てる彩菜だが、カイラから距離をとる素振りは全くみせないでいる。そんな彼女をカイラはジッと見つめたのち、静かな声で話しかける。


 「なぁ、冷静に考えたら分かることだと思うけど、俺は人を二人も殺したヤバい奴だぞ?普通だったらこんな殺人鬼と同じ空間にいたくないって思うはずだけど」

 「…人を殺してる人がみんな、危ない人ってことはならないって、思ってます。桐山さんがそんな人だったら、私はとっくに犯されてるか殺されてると思いますから」

 「でも路地裏で二人殺したすぐ後、俺のこと怖がってたよな?」

 「あれは……桐山さんがどんな人かまだ全く分からなかったし、刃物も手にしてましたから…。あの後すぐに桐山さんが私から遠ざかろうとした時、この人は私に気を遣ってくれてるんだって、すぐに分かったんです。危険は無い人だって、思いました」

 「それで、今でも俺は大丈夫な奴だって思ってんの?」

 「はい」


 そこからどれだけ話しても、彩菜が自分のことをもう怖がったりしないことが分かったカイラは、ここから何を話そうか、あるいは彼女を追い出すかなど、彼女の扱いに困りはじめる。

 

 「あの。気になってることがあるんですけど、聞いていいですか?」

 「なんだ?」

 「路地裏で話を少しした中で、私が警察にバレないうちに後処理を勧めることを言ったら、桐山さんは“自分が捕まることは絶対に無い”って……答えてましたけど。

 あれは、いったいどういう意味なんですか?結局、殺した二人の男の死体はそのまま、現場にあるかもしれない証拠とか何も処分せずに帰ってきちゃってますけど……」


 彩菜は戸惑いを見せた目でカイラをジッと見つめながら、そう質問した。


 「そのことか。まぁそりゃ気になるよな。あれだけ派手にやらかしたまま放置して帰っておいて、後が怖くないわけがない。日本の警察は無駄に優秀だから、あそこから俺が犯人だってすぐに断定もできる。あんたはそう思ってるんだよな?」

 「は、はい……」


 カイラは無意識に腕組みをして考え悩みはじめた。彩菜の疑問に答えるのならば、「殺人許可証」の話は避けて通れない。

 あまりにも空想的で非科学的で非現実的過ぎる権能を持つこの白いカードのことを、自分以外の誰かに詳しく話して良いものなのか。


 (……………)


 今度はカイラが彩菜のことを見つめる。見つめ返された彩菜は何故か居ずまいを正して、頬を赤くさせて緊張していた。


 「あんたの理由に答えても良いんだけど、これから話すことは、めちゃくちゃあり得ないって思うことばかりになる。本当に信じられないような事情を話すことになるけど、それでも聞いてくれるか?信じて…くれるか?」


 深刻そうな面持ちでそう切り出したカイラに対し、彩菜は目を瞬かせたのち笑顔でこう答えた。


 「聞きたいです。桐山さんがこれから話すことも、信じます」

 「そうか………じゃあ話すよ」


 彩菜の返答を聞いて、カイラは彼女に「殺人許可証」のことを話すことを決意した。彼女が信じるとはっきり答えてくれたこともあるが、この人になら話しても大丈夫だ…といった安心感が彼女から感じられたといった理由もある。

 深呼吸を一回したのち、カイラは彩菜の前に「殺人許可証」を出して見せた。


 「俺は、人を殺しても罪にならなくなってるんだ。この“殺人許可証”のお陰で」

 「殺人、許可証……?」


 「殺人許可証」と印字された白いカードを見た彩菜は、少しびっくりしてるように見えた。


 「この許可証の所有者にだけ、どんな殺人も許されるようになってる。人を一人や二人、十人も百人も殺そうとも無罪。芸能人を、アイドルを、社長を、政治家を殺そうとも問題無い。きっと首相や天皇陛下だって殺しても、これを持った俺は罪にならない。

 これはそんな神のようなカードなんだ」

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