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「動くな、千春」


 沙羅沙羅しゃらしゃら、と飾り紐が音をたてる。先ほど千春が一歩前に踏み出したとき、裾が少し床についていた。僕は裾の長さを一寸詰めて調整する。

 代々、この村の神に春の舞を奉納する百乃家もものけの跡取り・千春。代々、百乃家に舞衣まいごろもを作り続けてきた僕の家。まだ幼くあどけない千春に僕がしてやれることは、少しでも美しく舞える衣を縫ってやることだけなのだった。

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