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「この香りは……」


 牛車を降りると、風に乗って梅の花の香りが漂ってきた。途端、私の瞼の裏にあの小ぶりな花が浮かんでくる。隠れて逢いに行っていた、あの女性の庭にも同じ梅があった。曙の光に照らされる一輪の花を見て、春の訪れを知ったものだ。もうあの女性には逢えないが、彼女と過ごした夜はいつまでも色褪せない。

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