第3話おれのおしりが輝きし時、威厳あるナイスミドルが女装する
カリンは爆笑しすぎて、呼吸困難になるのかという勢いだった。このやろう。全力で笑いやがって。
「あはははははははは!あんっ!」
笑いが止まらない彼女が笑顔のまま固まった。どうしたのかと、彼女の方を向くと頬から血が流れ、顔が青ざめていた。その後、ゆっくりとミシミシと音を立てて、背後にあった木が倒れた。あわあわと体の震えが止まらない俺たちに声が投げかけられる。
「師匠(せんせい)との戦いを笑うなんて、どんな神経してるっすか?邪魔をする出歯亀は叩き潰すっす」
さきほど、カリンの頬を切り裂いたのは、氷使いの魔法少女が投げた氷でできたナイフだろう。倒れた木がパキパキと音を立てて凍っていた。
「だ~~~れだああ?さっきから、こそこそと、うっとおしいぜ。ガッハッハッ!バレてねーとでも思ったか?」
ふたりの魔法少女はゆっくりと2人が隠れている森に近づきながらそれぞれ魔法を唱えていた。
「ガッハッハッ!『赤く染まりて、紅く染める。赫(ダブル)』火炎雀(レッドチュンチュン)お前の意志も覚悟も真っ二つにしてやんよ」
師匠と呼ばれている長髪の魔法使いの目の前にあった炎の球は、2つ、4つ、8つと次々と増えていく。炎は小鳥の形になり、魔法少女の体のまわりを旋回しながら飛んでいた。
「スパイかなんか知らないっすけどね!久々の再会に水を差されたとあっちゃ!あっしもさすがに。知ってるっすか?氷で切れたら、熱いんすよ!『氷牙!!』」
彼女の手には氷のナイフが握られていた。カリンにはさきほどまでと比べられないほどの魔力がその小刀に込められていることを感じた。造形も美しく、氷でできたナイフは傷はなく滑らかでいて、一本の牙のようだった。
「ほいっと!」
くるくると回りながら、飛んでくるナイフは俺たちの間をとおりすぎ、木につき刺さるかと思われた。
投げつけられたナイフは木を抉った。
気を抉った?!
「おいおいっ!嘘だろっ!!」
そのすぐ後に炎の球が次々ととんで来る。
「こ、殺す気かよ?!!」
村娘と二人で、攻撃をかわす。木が燃える焦げた匂いが鼻につく。死ぬ死ぬ死ぬ!いくら何でも死んでしまう。
「妹!何とかしてくれぇ!」
「バカ言わないでよ!!勝てるわけないでしょ!」
「勝たなくていいんだよ!この場から逃げれりゃそれで!」
「あ!そうか!」
村娘はぽんと手を打った。何か閃いたようだ。
氷が炎で溶かされた時の蒸気や、木が燃える煙で視界がかなり悪くなっていた。
「あ~誰もいねぇのか?気のせいか?」
「いや、声はしたし、人の気配はするっすよ」
とりあえず魔弾を放つのをやめ、森を見つめる。魔力を探るも乱発した魔法のせいで、魔力が森に漂い、探ることが難しい。
「待たれよ!!」
威厳のある声が森に響いた。
「我をルーナア領の領主!ルーナア・シュヴァリエ・ケツアーナ・ピッカリー卿と知っての狼藉か!!」
「なんだって他所の領主さまがこんなとこにいるんだ?隠れてないで出て来やがれ」
魔法の雨あられは止まったが、ふたりとも未だに魔法を展開し臨戦態勢だった。
「魔法で武装しながらとは無礼なり」
またや声が森に響く。
「あ?こそこそ人様の戦い覗くほうが無礼だろ?なぁ?」
「ちょ、師匠!どこぞの名のある領主さまだったらどうするんすか!!これはこれは、えっと、ルーナア領の領主様失礼しましたっす!」
弟子の魔導師の方は氷の刃をしまい、手を振った。
「ね!師匠も!ね!」
「出て来やがれ!」
「ちょいいい!師匠!!!失礼なこと言わないで!!」
「私にも事情があるのだが…仕方あるまい」
長い髭をたくわえ、灰色の髪をキッチリと整えた初老の男は、魔導師たちにゆっくりと近づいていった。村娘の服を着て。
「ぐふっ」
「ぬほっ」
いかにも厳格そうな筋肉質の男が、明らかにサイズのあっていない女物の衣装を着ていてゆっくりと歩いてくるのだ。破壊力は申し分ない。
「今、罪人を王都に連れていく所だった。非常に危険な罪人ゆえ、領民を怯えさせぬよう、お忍びで護送中なのだ」
手から伸びる鎖の先にはしりを輝かせた青年が捕まえられていた。
「えっと、領主さま、その格好は?」
「趣味である!!」
「あー、その青年は」
「変態である!!」
ふたりの魔導師はお互いを見つめ、心の底からツッコむ。
「「お前もだろ!!」」
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