39話。聖者ヨハンを倒し、コレットを奪い返す

「お父様ぁああああ! ヨハン様が、ヨハン様がわたくしを人質にして、指を切り落とすと!」

「おおおおおっ! アンジェリカ、無事で良かった。放送を聞いて、慌てて城内を探し回ったぞ!」


 アンジェリカ王女は、父親である聖王の胸に飛び込んで行った。


「ちっ、ちがう! これは魔王カイの罠です! みなさんは騙されているのですよ!」


 兵たちに槍を突き付けられたヨハンは、みっともなく喚き散らす。

 だが、聖王はおろか兵たちの反応も冷ややかだった。もはや、誰一人、聖者ヨハンを信用する者はいない。


「聖王陛下、お久しぶりです。カイ・オースティンです。今、お聞きになったでしょうが。俺は和平を望んでいます。お聞き届けいただけますか?」

「カイ、いやカイ殿。久しぶりだな。お主についてはコレットから密かに手紙をもらっておった。カイこそ魔王誕生を阻止した真の英雄であり、コレットを解放しさえすれば、そなたとの戦争は回避できると……余は愚かにも、それを信じられず、このような事態を招いてしまった。どうか許して欲しい」


 なんと聖王は、深く腰を折って謝罪した。


「なにより娘を助けてくれたこと。深く感謝する」

「な、なんですと!? 【聖縛鎖(ホーリーチェイン)】の制約が有りながら、魔王を利するような手紙を書いていたと……?」


 ヨハンが目を剥く。


「……ええっ。確かに激痛に苛まれますが、1日10文字程度ならなんとか耐えて書くことができます。私はそうやって手紙を完成させて、姫様を通して聖王陛下に奏上したんです」


 そうか。コレットは囚われながらも、状況を好転させようと、必死に戦ってくれていたんだな。


 思えば1週目の彼女もそうだった。

 おそらく1週目のコレットも、ヨハンや教皇に脅されて、2週目の世界に行くためのアイテムを作らされていたのだろう。 


 それを密かに俺に渡してくれた。そのチャンスを作るために、あえてヨハンたちの言いなりになって、耐え忍んでいてくれたのだろう。


「すべてはカイとの約束を守るために……!」


 改めて、コレットに対する愛しい気持ちが湧き上がってくるのを感じた。

 

「コレットの手紙には、聖者ヨハンのことも書かれておった。私利私欲のために【時の聖女】コレットを拘束し、カイを邪悪と決めつけ、無用な戦争を起こさんとする諸悪の根源であるとな。そして、それは正しかったと、ワシは謝罪したい」

「終わりだヨハン」

「おっ、おおおおのれぇええ!」


 もはや逆転の目を完全に絶たれたヨハンは、何を思ったか回復薬を取り出した。


「あっ、いけない! それは【レベル・ブースター】です!」

「こうなったら、最後の手段です! どうせ死刑になるなら、聖女コレット! 私の身体が崩壊する前に、なんとしても私を2週目の世界に連れて行けぇえええ! でなければ、皆殺しだぁあああ!」


 血走った目をしたヨハンが腕を振るうと、光の障壁が出現し、兵たちが弾き飛ばされた。


「なんじゃあ!?」

「ヨハン殿が飲んだのはレベルを強制的に800近くまで上げる代わりに、肉体が崩壊する劇薬です!」


 コレットが大声で警告を発する。

 【レベル・ブースター】の存在については俺も知っていたが、まさかヨハンが自分で飲むとは思わかなった。

 

「グリゼルダ! 聖王陛下とアンジェリカ王女を守れ!」

「魔王カイ! 貴様さえ、いなければぁあああ!」


 ヨハンが両手に聖なる輝きを宿しながら、突進してくる。

 これは【聖拳(オーラ・ナックル)】。拳に光属性による追加ダメージを発生させるバフ魔法だ。ヨハンは拳闘を得意としていた。


「レベル800の【聖者】となったこの私に、勝てる者など、この世にいないぃいいい!」

「来い、魔剣ティルフィング!」


 俺は魔剣を召喚すると、ヨハンを袈裟斬りにした。黒炎が聖なる力に護られたヨハンの肉体を侵食して、焼き尽くしていく。


「ぎゃああああッ!?」

「残念だったなヨハン。俺はレベル999の隠しクラス【黒魔術師(ダーク・スター)】だ」

「レベル999だと!? バカな!? ……と、時の聖女! 時の聖女を手に入れたのにぃいいい!?」


 ヨハンがコレットに向かって、薄汚い手を伸ばす。

 俺はトドメの一撃をヨハンに叩き込んだ。


「コレットは俺のモノだ。誰にも渡さない。お前は地獄に堕ちろ!」

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