2章。聖教会との対決。時の聖女

12話。聖者ヨハン、2週目限定の隠しクラスを手に入れようとする

【聖者ヨハン視点】


 私は聖者ヨハン、清く正しく美しくがモットーの聖職者です。

 5年前に【聖者】のクラスを神より授かってから、聖教会の剣として重用されてきました。


 私の【預言】スキルで、今日、【勇者】と【魔王】、なにより【時の聖女】が誕生することが決定しています。


「【勇者】も【魔王】も、どうでもよろしい。【時の聖女】様の確保。それこそが、我らが教皇様の悲願です」


 宿屋の前に立ちながら、メガネを押して私は薄っすらと笑いました。

 もっとも2週目の世界に入るのは、教皇ではなく、この私ですがね。

 満月が照らす中、私に付き従うのは、武装した屈強な聖堂騎士(テンプルナイツ)です。


「聖女様はここにいらっしゃるハズです。出入り口を封鎖して、家捜ししなさい」

「ハッ!」


 私は【預言】スキルにより、ここに【時の聖女】が立ち寄ること知りました。


 聖女候補のコレットは、何を思ったのか行方をくらましたそうです。

 【時の聖女】は、十中八九間違いなくヴァルム侯爵令嬢コレットです。

 顔と名前が割れていれば、確保はたやすいですね。

 

「えっ、お客さん、な、何を……?」


 宿屋に突入すると、店主の男が目を丸くしていました。


「我らは、聖教会の聖堂騎士団です。これは世界を救済するための神聖なる任務です。ここにコレット・ヴァルムという娘は宿泊しておりませんか?」

「聖堂騎士団? は、はぃいいい! なんなりとお申し付けください!」


 店主は震え上がりました。神の剣たる聖堂騎士団の威名は、世界中に轟いていますからね。

 その間にも、聖堂騎士たちは次々に部屋の扉を開け放って、宿泊客を確認していきました。

 アチコチから悲鳴が上がります。


「きゃああああ──ッ!?」


 私も大部屋に足を運びました。

 聖堂騎士たちは若い娘を見つけたら、身体を押さえつけて、顔と右手の紋章を確認します。


 コレットの似顔絵を共有していますが、魔法で顔を変えたり、紋章になんらかの偽装を施している可能性もありますからね。

 精神干渉魔法で、娘の記憶を強引に漁って調べさせます。


「あっ、あああっ、アリシア……!? てめぇら、俺のアリシアに何を!?」


 魔法で頭をいじられて、中には廃人と化してしまう娘もいました。

 白眼を剥いて倒れた娘を抱いて、冒険者風の男が怒鳴ります。


「はぁ〜っ」


 私はメガネを押して、ため息をつきました。

 本物の聖女なら、【精神耐性】スキルを最初から持っているハズです。廃人化したゴミは、外れ確定です。

 ……だというのに、まったく耳障りな駄犬ですね。


「邪魔です。黙らせなさい」

「ハッ!」


 怒る男を、聖堂騎士に斬り伏せさせました。

 パッと血の花が咲いて、騒ぎ立てていた他の連中も大人しくなります。

 やはり時間の節約のためには、ひとりふたり殺すのに限りますね。


「ひっ! ひぃいいい! みなさん、聖教会の聖堂騎士団の方々です。大人しく従ってください!」

「あっ、悪名高い聖堂騎士団……ッ!」


 宿泊客たちは、私たちを怯えた目で見ました。

 これで仕事もスムーズになるでしょう。


「それで、コレットという娘は? 宿帳に名前はありませんでしたか?」


 私はあくまで紳士的に店主に尋ねました。

 常に紳士的に振る舞うのが、私のモットーです。


「はひぃ、申し訳ありません! 調べましたが、確認できませんでした!」 

「ほう……?」


 コレットは、まず間違いなく偽名を使っているのでしょうが、店主が買収されている可能性もありますね。

 何か隠していないか、念のため精神干渉魔法で情報を引きずり出すとしましょう。

 私が店主の男に手を伸ばした時でした。


「聖者ヨハン様! 若い娘が、二階から飛び降りて逃げました!」

「何ッ!? 聖女コレット様ですか? すぐに追いかけなさい!」

「そ、それが……! 逃げたのは3名! 全員、回復魔法の輝きに包まれており、別々の方向に走っています!」

「なに……ッ!?」


 おそらくコレットは、同室の娘と協力して逃げたのでしょう。

 二階から飛び降りれば、誰かは足を痛めるハズ。偽装も兼ねて、全員に回復魔法をかけるとは……


「くくくっ……これは多少は知恵が回るようですね」


 コレットは心の優しい性格だと聞きました。

 宿泊客を虐待すれば、庇うために飛び出してくると思いましたが……何か、よほど逃げたい理由でもあるのでしょうか?


 その時、室内を聖なる回復魔法の輝きが満たしました。


「おおっ、こ、これはなんと……強力な光の力!」


 配下の聖堂騎士が、感嘆の声を上げます。

 斬り伏せられた男の傷が、みるみるふさがっていきました。

 さらには、精神を壊された娘の両目に知性の光が宿り、身を起こします。


「あっ、お、俺の傷が!? アリシア!」

「わ、私は……? ラウル!」


 ふたりは、抱き合って喜びました。


「ヨハン様、我らの取り調べを受けた者たちが、全員、回復したようです!」

「回復魔法の使用者が特定できません! どうやら、時限式で発動する魔法のようです!」

「これは……まさに聖女様の御業と呼ぶにふさわしい光魔法です!」


 配下たちは色めき立っています。

 

「……この絶大なる治癒力は、聖女様以外には、マネできませんね。置き土産ですか? やはり、【時の聖女】はここにいた!」


 私は感極まりました。

 くくくっ。【時の聖女】を手に入れれば、私は教皇を出し抜いて2週目の世界に入ることができます。


 究極のクラスとは、【勇者】でも【魔王】でも【聖女】でもありません。

 2週目でしか獲得できない隠しクラスこそ、最強なのです。


 この世界では、どんなクラスを神より与えられるかで、人生のすべてが決まります。

 【聖者】より上位の隠しクラスを手に入れられれば、いずれ私が教皇となり、この世界を手にする日がやって来るでしょう。


「全力で、逃げた娘たちを追いかけなさい! 【時の聖女】様を確保するのです。これは人々を救済するための神聖なる任務ですよ!」

「ハッ!」


 聖堂騎士たちは、急いで駆け出しました。

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