44 影からの報告
「急を要する話とは何ですか?」
婚約式のためエリザベスとともに帝国を訪れていたエドワードは、急遽レオナルド達に呼び出されていた。
帝国の城の一室で、トアール国大使一行を監視していた影からの報告を一緒に聞くためだ。
「は? ベスがいい女だから欲しい?」
「僕のマリアベルを膝にのせて愛でる?」
「フィフィを後宮に入れる、だと?」
「悪の親玉に制裁を!」
「地図上からトアール国を消す!」
「万死に値する!」
またしても三者三様の反応だが、怒りに震えていることは間違いない。
ルイスに至っては本当にセリフ通りのことを実行してしまいそうだ。
彼はある意味一番怒らせてはいけない人間でもあるのだ。
「それに、数年前にフィフィの容姿を調べていたようだ。あの魔道具がなかったらと思うとゾッとする」
「もしカチューシャがなければ、ソフィア嬢はその頃に連れ去られていた可能性があるということですね?」
「そういうことになるな」
それはつまり、レオナルドがソフィアと出会えない人生があったかもしれないということだ。
想像しただけでも恐ろしい。
今になってカチューシャという魔道具の重みが理解できる。
父親が娘を守ろうとする覚悟やリオール閣下の協力に頭が上がらない。
「僕は、ベスの護衛を増やします」
「ああ、その方がいいだろう。動きは逐一見張ってはいるが、ランドール王国はトアール国とは地理的に離れているから、俺達としっかり情報共有しておいた方がいいな」
「はい、よろしくお願いします」
だが、ソフィアが誘拐されそうになるその時まで、いつかいつかと待っている気はない。
仕掛けてやる。
レオナルドとルイスは、計画を練り始めた。
親世代の力も必要だ。
ランドール王国の面々が帰国し、各国の大使も続々と帰国の途につくと、トアール国の一行も帰っていった。
◇◇◇
「フィフィ、馬車を使って敵の目を欺く訓練をする。君が一番弱くターゲットになりやすいからな」
レオナルドがソフィアに『訓練計画書』なるものを手渡す。
「はい。えっと? ドレスを着て馬車に乗り込み、馬車の中で侍女服に着替えてカチューシャをつけて出て来る、だけでいいの?」
「そうだ。婚約者が馬車に乗って降りていない状況を作るためだ。ドレスを一人で脱ぐのが大変かもしれないが、一人で素早く着替える必要がある。できそうか?」
「やってみるわ。私、意外と体は柔らかいのよ。後ろのリボンやボタンに手が届くの」
ほら、と言うと、ソフィアはレオナルドに背を向け、髪の毛をまとめて前に垂らし、背中のボタンを一つ二つと外して見せる。
レオナルドは、自分の右手が3番目4番目のボタン外そうとしているのに気づき、慌てて左手で押さえる。
フィフィ、うなじが……
なんて無防備なんだ!
いや、俺は試されているのか?
「で、では、その訓練は数日後の朝に行う。それまで部屋で練習しておいてほしい」
「ええ、わかったわ」
「そのいろいろが終わったらゆっくりしたいな」
「?」
「フィフィ、国内のリゾート地にお忍び旅行に行こうと思うが、どうだ?」
「お忍び旅行? いいの? 私、帝国内のいろいろな場所に足を運んでみたいと思っていたところなの。本に書かれていた場所を自分の目で見たいのよ」
「そうか。興味を持ってもらえてうれしいよ。日程は2泊3日だが出発日はギリギリまでわからない。準備だけしておいてくれ」
「わかったわ。場所はどこなの?」
「候補は、北のスノーバレーだ」
「気になっていた場所の一つだわ。うれしい」
ソフィアはさっそくスノーバレーについて帝国図書館から本を借りて調べることにした。
◇◇◇
一方、トアール国では、帝国内に密偵を配置しソフィアを連れ去るチャンスを探らせていた。
「国王陛下、いろいろ情報を集めましたが、1週間後に帝国の北のリゾート地であるスノーバレーに、皇太子と婚約者がお忍びで視察に行くらしいです」
「本当か? 偽の情報を掴まされていないだろうな?」
「護衛の者たちが手にしていた資料はその時の護衛の配備図だったそうです」
「さらに皇太子宮に旅行用の鞄を商人が運び込んでいるのを確認しています。あと、皇太子宮の侍女が令嬢のために図書館から借りた本は、スノーバレーの歴史の本と旅行のガイドブックでした。いろいろな動きが情報の信ぴょう性をあげています」
「そうか。スノーバレーなら帝国の中でも我が国に近い場所ではないか。しかもあそこは移動の時に峠道があるな。その辺りなら事故が起こっても行方不明になっても不自然ではないということか」
「しかも、皇太子と婚約者は別々の馬車のようです。皇太子の方が執務に追われていて、1時間くらい遅れて出発するそうです。この時しかチャンスはありません」
「もう一つ報告があります。婚約式の日に見かけた、シルバーの髪とピンクゴールドの髪の令嬢たちの報告書がこちらです」
「見せろ。シルバーの方はランドール王国の宰相の娘で第二王子の婚約者か。ピンクは帝国宰相の嫡男の婚約者……」
「はい。どちらも相手が悪すぎます。今まで後宮に連れてきた下級貴族の娘や商家の女などとは格が違いすぎます。無理です」
側近は意を決したように言う。
「帝国皇太子の婚約者なのですが、失敗した時は即戦争になるでしょう。他からお好みの娘を探してきますので、それで諦めていただけせんか?」
「ダメだ。どうしてもジュリアの娘だけは手に入れたい」
国王の側近は、うなだれた。
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