黒猫精霊に導かれた運命のお相手は帝国の皇太子でした

みのり

プロローグ

「今日からこのリリアーヌも、王子妃教育に参加する!」


 ノックもなく部屋に入ってきたと思ったら声高らかに宣言するダミアン。

 そしてそのダミアンの腕にしがみついているのは、たった今リリアーヌと呼ばれた令嬢だ。


 彼はこのランドール王国の第一王子。

 ここはダミアンの婚約者候補3人の王子妃教育に使われている部屋だ。今まさに講義の真っ最中だったのだが、全員の動きが止まった。


 数秒後、なんとか気を取り戻した教育担当の侯爵夫人が口を開く。

「ダミアン殿下、今のお話は一体どういうことでしょうか? 私、王妃様から何も伺っておりませんが……」


「俺の言うことが理解できないのか! この愛らしく、見た目も心も美しいリリアーヌを見るんだ。ここにいるだれよりも王子妃にふさわしいだろう。つまりは王子妃教育を受ける権利がある!」


「お言葉ですが、こちらの3人のご令嬢は、幼少期から高位貴族の令嬢として育てられてきた素養があり、そこから2年以上かけて特別な妃教育を受けてきています。この妃教育のカリキュラムも仕上げ段階なのでここから参加するのは難しいかと……」


「心配はいらない。リリアーヌは学園でも勉強を頑張っているし、なにより本人にやる気がある。自らこの教育を希望してきたのだ。やる気のあるものに機会を与えるべきだろう」


 すると、婚約者候補の1人、エリザベス・ライン公爵令嬢が尋ねる。

「ダミアン殿下、それはつまり婚約者候補が4人になるということでしょうか? 陛下や王妃様の承諾は得られていますの?」


「父上と母上にはこれから話をする!」


「婚約者候補4人は多すぎる気がいたしますわ。教育費もその分かかりますし。そちらのご令嬢を追加するのであれば、私たちの中から1人、候補から外すというのはいかがでしょうか?」

 もう1人の婚約者候補のマリアベル・モントレー伯爵令嬢が提案する。


「なるほど、候補者を減らすというのは名案だな! 候補から外すとしたら……ソフィア・エトワール侯爵令嬢! 君だ!」


「私ですか?」

 ソフィアと呼ばれた令嬢は、急に名前が出てきて声がひっくり返りそうになるがギリギリこらえる。


「どんなに学園の成績が良くても、マナーが素晴らしいと言われていても、容姿が平凡で印象のうっすい令嬢が王子妃になるなんて国民は歓迎しない! いつも地味なカチューシャをつけて、飾り気もない。君は学園で自分が何て呼ばれているのか知っているのか? だぞ! 俺は候補者の中に君のような令嬢が含まれていることがずっと不本意だった!」


 もしかしてソフィアは候補から降ろすという展開か、と誰もが予測した。


「……とは思うのだが、ソフィア嬢は父上の推薦だから仕方がない。やっぱり婚約者候補を4人とするのが最善策だ」

 

 いかにも立派な判断をしたようなどや顔だが、結局自分では決められないのはいつものことだった。


「まずは、両陛下にお話を通してきてくださいませ」

 侯爵夫人がそう言うと、ダミアンとリリアーヌは渋々部屋を出て行った。

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