ロリ・デビル
「うっひょ~~! お久じゃのぅ、お前様~!」
「なになになになになになに誰誰誰誰誰誰誰」
転移が完了すると同時に、突撃してきた銀髪の幼女に押し倒された。
当然ながら、見覚えは無い。
こちらで知り合った人間どころか、ゲーム内キャラを思い返しても、全く該当しないほどである。
何でこんなところに幼女がいるんだよ……。
「うん? 何じゃ、余のことを忘れたと申すか?」
「忘れたも何も、初対面だと思うんですけど……」
「失礼なやつじゃのう……アレだけ激しくやり合った仲じゃろうに」
「何!? それは何の記憶なの!? 怖い怖い怖い!」
存在しない記憶をこれでもか、と溢れさせてくる幼女だった。本気で恐怖を覚えてしまい、ブルブルと身を震わせてしまう。
見たところ、十歳にも満たない風貌であり、膝まで達するほどブカブカな白のTシャツ(最強! とドデカく書かれている)を着ているのだが、自己主張が激しめな紅の瞳をギラリと光らせており、妙な大人っぽさを感じてしまう。
参ったな。
本当に分からない。
校長の時と違い、何となく知っているような気はする……という、片鱗すら感じない見知らなさだった。
というか、そもそもの話、ここまで典型的なロリババアみたいなのが知り合いにいるわけないだろ!
ファンタジーでしか許されない存在過ぎだった。いや、ファンタジー世界ではあるんだけれども……。
「え、余のこと、本当に分からんの……?」
「え、俺達、そんなガチな顔されるような仲だったの……?」
滅茶苦茶切なそうな顔を向けて来る幼女だった。
途端に申し訳ない気持ちが湧き上がってきてしまうので、本当にやめて欲しい。
あと、そろそろ俺の上から退いて欲しかった。
ワンチャン誤解されかねない体勢だからね? これ。
「やれやれ、仕方のないやつじゃのう……」
「俺が悪いみたいな方向性で話を進めるのはやめないか?」
「お前様ほどの悪を、余は見たことないがのう」
言いながら、ピッ! と幼女が人差し指を向けてきた。ちょうど、手を銃の形にするようにして。
突然、見た目相応にチャンバラでもしたくなったのかな、なんていう思考は、しかしすぐさま覆された。
「王核限定解除────之なるは、始まりにして終わりの破滅」
「────ッ!」
反射だった。
思考を一瞬たりとも挟むことなく、幼女────魔王を突き飛ばした。
鋭く杖を引き抜き、鋒を向ける。
「射撃魔法:重複展開!」
『Magia di tiro:Distribuzione duplicata』
蒼色の魔力が渦巻き、多重の魔法陣が形を為す。
詠唱破棄しても良かったが、今はまだこちらの方が、一つ一つの火力が高い。
色々と疑問はあったが、そんなもんは後で良い。
抵抗はあるだろうが、ここでもう一度、行動不能まで落とし込む──!
「うおぉぉぉぉぉぉん! 待て待て待て待て待て待て待て待て! 余は無害! 無害じゃからそれ引っ込めんかぁ!!!?」
「は?」
二十を超える魔法陣を展開すると同時に、魔王は泣き叫びながらその場に寝転がって腹を見せた。
さながら犬がする服従姿勢である。
え、えぇ……?
始まったかと思われたシリアスが、瞬き一回分にして霧散してしまった。
なに……何なのこいつは……。
思わず俺も、魔法陣を消してしまう。
「見れば分かるじゃろ、魔王じゃい、ま・お・う。お前様が徹底的にボコした、偉大なる魔王様じゃ」
「いや、それはもう分かるんだが……そうじゃなくて、というか、もっと分からないっていうか……」
何で幼女姿になってんだよ……。というか、人型になれるもんなの? 威厳もクソも無いし、何だか色々と驚いてしまう。
「それはお前様が、余を限界まで削り飛ばしたからじゃろうが……人の形をとるだなんて、余とて久し振りじゃ」
「その姿が一番消耗が少ないってことか……?」
「まあの。つーか、余だって元は人間じゃからな、当然じゃろ。口調も当時のモンじゃ」
「!!?」
本当に知らない情報が出てきた!!! は? マジで知らない。何それは?
え? めっちゃ強くて長生きしてる魔族だから、魔王って呼ばれてんじゃないの?
いや、確かに言われてみれば、その辺は名言はされてなかったと思うけど……。
元、人間……?
急に脳がバグるような情報をサラッと出すのはやめろ。
ここ最近はそういう想定外が無かったから、耐性が下がってんだぞ。
「随分と大昔の話じゃがな。軽くは千年は前じゃろうよ」
「へ、へぇ……」
「クカカッ、何を呆けた顔をしとるんじゃ」
人の気も知らず、魔王が軽快に笑う。
マジで何笑ってんだ、とグーパンを入れたいところなのだが、見た目が見た目なだけに、どうしても躊躇してしまう。
もっとこう……如何にも魔族です、みたいな姿になってくれたら嬉しいんだけどな────いや、いいや。違うだろ。
仮に姿が幼女だろうが、力を失っていようが、野放しにするのは普通にダメだろ。
一発くらい殴って、気絶させておいた方が良いんじゃないか?
「ええい! すぐに暴力を振るおうとするのはやめんか。余とて、自身の今の立場くらいはわきまえておる。ここまで迎えに来たのじゃって、アテナの許可が下りてのことじゃぞ」
「アテナ先生の……? ていうか、そういうことなら、大分前から目覚めてたのか……」
「ざっと一か月ほど前じゃがな。こうしてある程度、自由に動くことが許されたのは、今日が初めてじゃが」
大方、今のように余の口から、余のことを説明させたかったのじゃろう。と、分かり切ったような口調で言う魔王だった。
まあ、確かに他人から今のような説明を受けていたら、何度か鼻で笑っていただろうし、半信半疑になっていたことだろう。
そういった、無駄な時間を無くしたかったというのなら、一応は納得が出来そうだった。
ていうか、アテナ先生いるんだ。
あの人、呼び出すくせにいざ向かえば、メッセージが残されているだけだから、今回もそうかと思っていた。
ずっと姿を見かけないし、ついに学園を追放されたのかな……と思っていたのだが。
「お前様、アテナへの当たりが強すぎじゃろ……まあ、別に良いんじゃけど。とにかく、そういうことじゃから、そろそろ行くとするかの」
「……どこへ?」
「はぁ? そんなもん、アテナのところに決まってるじゃろ────今日は大切な話がある、と聞いてはおらんかったか?」
言って、魔王はニヤッと笑ってみせた。
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