バグ/デリート

 お前、全身を魔力でコーティングして、本気で砲弾になってやろうか────と、考えたところで、ふと気づく。


 今俺、自然と魔力を無手で使う発想が出てきたな、と。

 というか、そうする為の方法が、考えるまでもなく分かったな、と。

 何でだ? と思う前に答えに辿りつく。


 これ、目がぼやけてるんじゃなくて、魔力が視えてるんだ。

 急激かつ大量の魔力を扱って、魔力神経が限界まで励起したお陰か? ともかく、理解すると同時に、世界の視え方が変わっていくのが分かる。


 俺達の生きる世界とは別に、重なるように存在している、本来魔力で満ちている世界────別のレイヤーとでも言うべき世界が視える。


 え、やば。魔術師って、もしかして生まれた時からこうやって視えてるの?

 そりゃ強いわ。魔術師だけが、魔装に至れるのも納得できる。


「飛行魔法:高速展開」

「……ほう、触れたか。魔導の深奥、その一端に」


 杖無しで、しかし展開された魔法陣を足場に跳ねて────飛ぶ。


 次いで、追尾してきた幾条もの光線を、展開した四枚の守護魔法で防御した。

 一枚、二枚、三枚と割れ、四枚目で止まる。良し、計算通り。


「──! 予知したか、余の魔導を! 世界の軌跡を!」

「いや別に、そこまで大仰なものじゃないと思うけど……ただ、今は世界が良く視える、ってだけ」


 互いに展開した魔法陣から放たれた極光が、ぶつかり合って弾け合う。

 火力的には、ほぼ互角。


 今の俺と、今の魔王は、瞬間的に発動できる攻撃のレベルがほぼ同じということだ。

 それはつまり、守護魔法や強化魔法に関しても、同じと言っても過言ではない。


 無論、魔王が手を抜いているという可能性もなくはないのだが……あっちだって、加減をする理由は無いはずである。


 こまごまとやり合うのは、時間の無駄だ。

 と、なれば。


「最大火力勝負になるよなあ!」

「────無意味な抗いだ。魔導の深奥に踏み込んだとはいえ、その領域では所詮、一歩目に過ぎぬのだから」


 巨大な魔法陣が、互いを脅すかのように展開される。

 向き合うは、闇色の魔力光。


 それを自身の魔力で押し潰さんと、脳を限界まで回転させて、かつ魔力を練り上げる。


「王核限定解除────之なるは、始まりにして終わりの破滅」


 魔王の詠唱を聞きながら、冷や汗を垂らして魔法を用意する────魔法使いが、魔法を発動する際の掛け声は、いわばただの音声認証だ。


 魔術に詠唱はつきものであるが、魔法は特別必要という訳では無い。杖に必要、というだけだ。


 これまでの魔法行使で確信したが、脳で回せるのなら、言葉は不要だ…………あれ? もしかしてこの考え、ダメ・・か?


「此処に滅亡を。愚かなる星に鉄槌を。乱れた世に制裁を」


 闇色の魔力との拮抗が、僅かに崩れ始める。

 こちらの本気が、徐々に浸食されていく。


 詠唱するなんて行動は、本来戦闘には向かないはずだ。喋るより動けってなるだろ、普通────では、何故そうならなかったのか?

 俺ですらこうやって、言葉を必要とせずに魔法を発動できるのに。


 魔装なんて、どう考えても無言で発動させた方が利便性も良いし、虚も突けるだろうに。

 これまでの間、魔術師が、詠唱破棄を重要視しなかったのは、何故だ?


「────秩序は此処に、砕け落ちた」


 考えるまでもなく、目の前の闇が答えだった。

 魔術師は、詠唱することが最適解であると、本能的に分かっていたんだ。


 要するに魔術とは、生まれ持った魔術属性を扉とすることで、重なり合う別レイヤーに接続し、なんだ!

 あー、これまずったな、と直感的に理解する。


 気付くのが遅すぎた。かつてない万能感に身を委ね過ぎて、調子に乗った。

 これ、死んだわ。


「王核限界駆動────"訪れよ、Prima第一のDistru滅亡zione"

「っ、ぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」


 直後、同時に引鉄を引いた。

 蒼の砲撃と闇の砲撃はぶつかり合って──拮抗しない。


 俺の放つ砲撃魔法を、当然のように喰らい尽くした闇色が迫る、迫る、迫る!


 ありったけの魔力を総動員し、大気の魔力をかき集めてなお抗えない────やり方の効率が悪すぎて、追いつかない!


「消えよ、特異点」

「────ッ!」


 言葉を発することすら出来なかった。

 いいや、違う。


 何かを言い返す前に、視界は真っ黒に染め上げられて。

 意識は溶けるように消え落ちた。ただ、それだけのことだった。




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