第2章07 レート解禁
「よ~し、今日も今日とてやっていきますかぁ」
「うぃ~」
「おぉ~」
翌日、3人揃っていつもの時間に配信を始めた。1ヶ月前の初コラボからRagnarok Cupを経て、俺とSetoのチャンネル登録者は倍増して15万人に迫ろうかという数に達していた。大半はひよりのリスナーさんだろうけど、中には大会を通してファンになりましたって言ってくれる人たちも結構な数いて、反響の大きさを感じる日々だ。広告収入もどれくらいになるかちょっとワクワクしてしまう。
「昨日のひよりの配信見てくれた人たちは知ってるだろうけど、今日から新しいユニフォーム着て配信していきま~す。公式サイトでも間もなく受付始まるんで、気になった人はぜひ買ってください」
「お願いしまぁす」
「女の子用もあるからぜひ! 応援してね~!」
コメントを見るとたくさんの人が買うと書き込んでくれていた。売上は俺らの収入や活動資金になるからありがたい。応援してくれる人達のためにも結果を出さないとな。
「んぁ? ひよりに会ってみてどうだったって? 無粋な奴がいたもんだねぇ~。なぁH4Y4T0」
「そうそう。みんな見てんじゃん。ひよりはひよりだよ。俺から言うのはそんだけ」
「2人とも、ありがとう」
配信を始める前、こういう人らも絶対いるだろうから俺とSetoであらかじめ触れとくことにした。気になるのは分かるけど、俺たちは別に会ったからって何も変わらない。これまで馴染みのなかった世界だけど、頑張ってきたひよりの苦労を無碍にするようなことはあっちゃならない。
ほとんどは好意的な人たちで、なかには早く付き合えだの結婚報告待ってますだの書き込む人らまでいる。あんたらは親かなにかですか?
「騒いでる人らは昨日のひよりの配信で茜さんが言ってたことをちゃんと理解してね。俺らもその考えを尊重してこれから活動していくから」
「こんなもんでいいか? 何度も言うのはめんどくせぇし、動画で上げてもらおうぜ」
「そうだね。このあたりの短い編集お願いしとくか。さて、この話は終わりってことで」
いつまでもメタい話をしてもしょうがない。リージョンファイナルに進めば俺たちはオフラインで大会に臨むことになる。そのときにはひよりも表舞台に立つことになる。そんとき分かるさ。俺がさっき言ったことが嘘じゃないってことが。
「よし、じゃあ練習していくわけだけど、ひより今Tierは?」
「えっと、2人に言われてプラチナⅣまでは上げたよ」
大会のあと、俺はひよりにそれまで禁じていたレート戦の再開を許可した。ちょうどRagnarok Cupの情報解禁のあたりでシーズンが切り替わっている。TBでは2か月ごとにシーズンが変わるようになっていて、そのタイミングで新たな英霊・マップ・武器などが追加される。
シーズンはさらに前半と後半の2つに分けられていて、1ヶ月ごとにTierがリセットされるようになっていた。リセットといっても全員ブロンズまで落ちるわけじゃなくて、2つ下のTierまで落ちる。全員ブロンズになるとシーズン序盤は初心者が虐殺されるだけの面白みのないものになっちゃうからね。
パンデモとグランデは一律でプラチナⅣに落ち、ひよりはゴールドⅣに落ちた。そこからとりあえずひよりには俺たちと同じTierまで上げといてって頼んどいたんだよね。
「さすがにソロでも余裕か」
「そりゃあダイヤⅣまではソロで上がってたんだし」
「なんでプラⅣで止めさせたか、分かるよなぁ?」
「う、うん。一緒にレート回すんだよね?」
「「正解」」
TBでは、レート戦を一緒にプレイできるのはTierの差が1つまでだ。つまり、グランデとプラチナ、ダイヤとシルバーみたいな組合せではダメってこと。これはいわゆるブースティングと呼ばれる行為をさせないためだ。
強い人が実力の足りない人と組んで無理やりレートを上げるような行為はダメですよってこと。みんなパンデモやグランデみたいな称号に憧れるけど、ちゃんと実力をつけて目指しなさいよっていう運営からのメッセージでもある。
ひよりがこれまで阻まれ続けたダイヤⅢの壁。ただそれは1ヶ月前のひよりの話だ。今のひよりならそんな壁はないのと変わらない。ましてや、俺らと組むんだから。
「ノンレで戦闘経験はもう十分だ。ソロで縛りをする必要もない。ひより、パンデモニウムに駆けあがるぞ」
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