第1章79 決着

 あと20秒もすれば収縮が始まり、俺たちのいる位置はダメージエリアに様相を変える。あとほんの数分で楽しかったこの祭りもお開きだ。

 

 気持ちを整え、息を深く吐き出す。さぁ、いくぞ。


「2人とも、楽しかったな」

「あぁ最高の祭りだった」

「うん、本当に」


 音を立てて安地が狭まり始める。


「お前ら、泣いても笑ってもこれが最後だ! 行くぞぉ!」

「しゃああぁぁあぁあ!」

「頑張るぞおぉぉぉ!」


 俺の号令とともにSetoがODを発動。祭具殿の塀を高々と越え、俺たちの体が最終局面を告げる号砲のごとく打ち上げられた。


 目指すのは祭具殿の屋根の上。裏側に身を隠せば射線を切れる場所に、1人欠けた状態のチームがいる。俺たちに気づくことなく前方を警戒するマーリンとセイメイに、俺たちは真横から急降下して襲い掛かった。


「とにかく下に降ろせ! 一発当てて安地に呑まれたらポイントになる」

「任せろぉ」


 Setoが持ち前のキャラコンで相手を翻弄しながら銃弾を浴びせる。マーリンは下に逃れたけどセイメイはノックダウンまで持って行った。


 射線の切れる屋根を手に入れたことで若干の余裕が出来る。周囲を見渡せば、安地に追い立てられたチームから一斉に前へ前へと押し出されていく。俺は手早く仕込みを済ませて状況を確認する。


「まだだ。ギリギリまで降りるな。上から撃てぇ」


 俺のコールに2人が応える。ただ、それも数秒ともたない。もう俺たちのポジションも限界だった。屋根から一斉に飛び降り、最後のフィールドにリングイン。


 平地に5部隊12人が入り乱れての乱戦だ。セイメイも4人いる。


「ひより、撃てぇ」

「はい!」


 ひよりのとは別に2つの”式神瀑符”が打ち込まれる。足元には夥しい数の爆撃を告げるエフェクトが表示され、逃れる隙などどこにもない。


 当然結界を張るけど、そこでさっき仕込んでおいたシルフィを爆散させて結界を吹き飛ばした。俺は塀のてっぺんに配置していたシルフィを、屋根に降りたときに最終円近くの茂みに移しておいたんだ。


「結界!」

「はい!」


 他の部隊に爆撃が降り注ぐ中、温存させた結界をひよりに張らせて身を守る。


 これで終われ。終わってくれ。部隊が瞬く間に姿を消していく。誰が誰の操るセイメイの爆撃で倒れたのかさすがに分からない。


 永遠とも思える爆撃が終わり、視界がクリアになる。


 まだゲームが続いてるってことは生き残りがいるってことで。見れば消したはずの結界が1つ残っている。中にいるのは


「やっぱあんたか」


 さすがはラスボス。アジアの頂点を統べた魔王が俺たちの最後の相手だ。

 

 大方俺たちが生き残っているからロビンフッドのODを撃ってくると予想してセイメイの結界をギリギリまで粘ったんだろう。俺たちは3戦目でそれができずに負けた。


 悔しいがその嗅覚とゲームセンスには脱帽せざるを得ない。我ながら完璧なスキル回しだと思ってたしね。


 ただ、手負いにはさせた。相手のマーリンは今しがた蘇生されたばかり。多分俺の狙いは読めたけどタイミングが若干ずれて体力が削れたんだろう。3on3だけど、体力面ではこちらが有利だ。


 互いを遮る遮蔽はなし。背後には俺たちを飲み込まんと迫り来る安地。


 まず俺たちの結界が消える。どちらも動かない。動くのは残りの結界が消えた時だ。


 Aceのチームはゴクウ、マーリン、セイメイ。セイメイのスキルは互いに使用済みだ。マーリンのODだけは絶対に使わせちゃならない。


 そして、Aceたちを守る結界も消えた。


「マーリン!」


 俺のコールで一斉にマーリンにフォーカス。もともと蘇生から体力を回復させる余裕のなかったマーリンは即座にダウンした。


 ただ、それはAceも織り込み済みだったらしい。脱兎のごとくマーリンを残して接近してきた魔王が俺たちに襲い掛かってきた。


 Setoとのタイマンで見慣れてるはずだけど癖が違うから全く別物に感じる。空中でグイグイと物理法則を捻じ曲げるその動きに、アジア最強の名を背負う男の圧倒的自信とプライドが垣間見えた気がした。


 だけど、俺たちも胸を借りに来たわけじゃない。


 Aceの相手はSetoとひよりに任せる。俺は残るセイメイにタイマンを挑んだ。


 ショットガンでのインファイト。Aceのカバーは絶対にさせない。


 いつしか視界から色が消え、発砲の音も聞こえなくなっていた。


 灰色がかった世界のなかで、セイメイの動きがスローモーションのように感じられる。


 あぁ、これがゾーンってやつなのか。


 タップストレイフを繰り返すセイメイの動きに吸い付くようにショットガンの銃口がスライドする。1発、2発。バリアが完全に剥がれる。続けて2発でセイメイは地面に手をついた。


 振り返ると、ひよりが丁度ノックダウンされたところだった。


 魔王相手にここまで食い下がったのか。よくやった。本当によくやったよ。


 あとは師匠に任せろ。


 魔王を守る鎧はすでに剥がれ落ちている。それでも俺たちを捻じ伏せんと異次元のキャラコンで躍りかかってくる


あんたすげぇな。なんで1on2でそんだけ粘れるんだよ。おかしいだろ。


でもさ、弟子の仇は取らせてもらう。この一ヶ月、俺らを信じて付いてきてくれたひよりに、最高の結果を贈るんだ。


2位じゃダメなんだ。


だから、どけよ!


「堕ちろおぉぉおおぉぉぁ!!!!」


音と色が消えた世界で、Setoと挟んだ魔王の不規則に揺れる体に、俺が放つショットガンの弾が吸い込まれていく。 


スローモーションのように見える…いや、違う。これって…。


 魔王の背に俺の放った銃弾がゆっくりと突き刺さり、肉体が砕け散る。


 画面に表示されたのは、戦いの終了を告げる、”Triumph”のエフェクトだった。


 

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