第1章40 満点かと思いきや

「どうだった?」


 期待と不安が綯い交ぜになった雰囲気でひよりが聞いてくる。自分の見つけた答えには自信を持ってるんだろうけど、果たしてそれが合格なのかどうか。


「参りました」

「へっ?」

「まさかこんなに早く回答を出してくるなんて思ってなかった。しかも、ここまでクオリティを高めてくるなんてね。少なくとも俺より上手いよ。Setoはどう?」


「悔しいけど俺よりも上手ぇよ。同じ速さで投げようとしたら精度がどうしても劣る」

「だってさ。てなわけで、グレの扱いに関してひよりは俺ら以上の腕前を持ってる。課題に点数をつけるなら、100点だね」

「……はぁ~、よかった…よかったぁ」


 緊張の糸がぷつんと切れたように、ひよりの声から力が抜けた。もし俺たちからいい反応がもらえなかったらって練習している間も心のどこかで不安があったと思う。今頃モニターの前でぐったりしてるんだろうな。


「途中で相談してくれてよかったのに。不安だったでしょ」

「きっかけはもらったからね。それに、もし回答として不合格だったとしても、練習して損はないと思ったから」

「間違いないね。それに、ひよりのグレは間違いなく武器になるよ。これから先、この技術が戦局を左右するときが絶対に来る」

「だな。ここまでやってて分かったろうけど、グレが局面を大きく動かすことはけっこうあるし」


 戦端を切るとき、敵の移動を阻害するとき、遮蔽を挟んで局面が硬直したとき。他にも色んな場面で爆弾が大きな役目を果たす。


 ひよりが言った通り、磨いて損になることはあり得ない。


「H4Y4T0ぉ、これは相当使えると思うぞ。一投目は基本ひよりに任せるのがよくねぇか?」

「そうだね。スティッキーとか炸裂弾は俺らでもいいけど、グレに関してはひよりに任せることが増えるだろうね」


「えっ、いいの?」

「いいもなにもそれが最善でしょ。ひよりが一番上手いんだし。もちろん全員で投げた方がいいときは全員で投げるけど、グレが少ないときとかはひよりに渡す判断になると思うよ?」

「せ、責任重大だぁ」


 俺とSetoがひよりのグレ技術を戦術に組み込むことを前提に話を進めてたけど、ひよりはここまでとんとん拍子で話が進むと思ってなかったのか面食らっているようだ。


 でも、それが勝つために最善なら俺たちは躊躇いなく実行に移す。全ては勝つためだ。


「それだけひよりの身に着けた技術が実戦的で有用ってことだよ。俺もIGLするうえでちゃんと把握しときたいから後で詳しく聞きたいし」

「わかった。まだ弱くて他で足引っ張っちゃうから、絶対役に立つね」

「……」


「H4Y4T0? どうしたの?」

「ひより、やっぱりさっきの課題は満点はあげられないかな」

「俺も同感。50点に減点てとこじゃね?」


 Setoも一緒みたいだな。ひよりは前向きなつもりで言ったんだろう。けど、俺はその途中に含まれたネガティブな要素がどうしても引っ掛かってしまった。


「えっ? …やっぱりまだ狙いが甘いから? それならこれからもちゃんと練習するから」

「違う、そうじゃない。俺がどうしてひよりに課題を出したか覚えてる?」

「……あっ」


 俺がひよりに課題を課したのは、ひよりが自信を持てるようにするためだ。でも、生来の気質なのかこれまでのTB配信での経験からか、或いは両方か、これだけの成長を見せてもまだひよりは自分に自信を持てていないらしい。


「この1ヶ月でひよりはめちゃくちゃ強くなった。俺らより長けた技術も身に着けた。それでもまだ自信は持てない?」

「えっと、強くなってるって実感はあるの。さっき2人から褒めてもらえたのもすごい嬉しかったし。でも、どうしても2人からコーチングしてもらう前の頃を思い出すと不安になっちゃうっていうか…」


「あの頃のひよりとはもう別人レベルだと思うけど」

「ありがとう。でもやっぱり考えちゃうの。この恵まれた環境ももうすぐ終わる。レートにまた潜るようになったときに思うようにレートが伸びなかったらまた色々言う人たちが出てくるんじゃないかって。


 結局H4Y4T0のオーダーとSetoの火力があったから上手くいってただけで、あたしだけじゃこんなもんだ。2人と組めば誰でも勝てるとか言われる気がして…」


 俺たちと知り合う前の配信でひよりに刻まれたトラウマは、俺が思っていた以上に根が深く、簡単に拭い去れるものじゃなかったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る