第1章37 ランドマーク
ランドマークとは、初動で降りる場所のことだ。レート戦やノンレート戦では毎回対戦相手も組む相手も違う(パーティを組んで挑めば味方は変わらないけどね)ので、結構な確率で初動で空挺降下する場所が他の舞台と被ってしまい、降り立ってすぐに戦闘となる所謂”初動ファイト”が頻発する。
言ってしまえば運ゲーだ。降り立った付近にもし碌に武器がなければステゴロでのストリートファイトになるし、敵が武器を拾ってこちらが丸腰なら一方的にハチの巣にされて終わってしまう。つまり不毛なんだよね。
大会でそんな無秩序が起こるとぶち壊しだ。なので、初動はそれぞれがバラバラに降り立ち、ある程度装備を整えてから移動できるように本番前の練習試合で調整するわけだ。
今回の大会で使用されるマップは1・2試合目が”王家の谷”、3~5試合目が”高天原”となった。
”王家の谷”は古代エジプトをモチーフにしつつ、SFチックな科学文明遺跡やオアシスなどが配置されている。
このマップのランドマークとなりうる場所は18ヶ所。恐らくマップ中央の王墓と、北東端の遺跡あたりが広めなので2チームが分かれて降り立つことになる。
”高天原”は日本神話をテーマにしたステージで、森林や霧が立ち込める湿地帯が広がり、マップの南西エリアには神々が集う大社(おおやしろ)が聳え立っている。ここもランドマークは18ヶ所だ。
ランドマークによってはいい物資が落ちている場所や逆に渋めの場所があるし、中央に近いほうが安地の移動にかかる時間が平均的に少なくなる。
端の方だと真逆が安地になったとき、ちんたらしてるとひたすらダッシュなんてことになるしね。
そういうわけで、カスタムマッチの序盤はランドマークを賭けての話し合い(物理)が至るところで繰り広げられる。
どこも狙うのは物資がおいしく、中央に近いエリア。激戦区は血で血を洗うドッカンバトルだ。
ただ、その争いに敗れるとすでに残ったランドマークから選ぶしかない。もちろん他のチームが収まっているところに新たに被せてもいいけど、風潮としてあまり好まれてはいない。負けたんなら残ってるとこに行けやってなるよね。
「どこに降りるか候補はあるの? やっぱり激戦区に降りて取りに行く?」
ひよりはどこを狙うのか気になるようだ。どこに降り立つかで立ち回りはガラリと変わる。どんな戦い方になるのか早く知りたそうだ。
「王家の谷の激戦区は避けるよ。確実に取りたいとこがあるからそこを確保する。高天原は湿地帯のウズメ淵あたりを狙おうかな。」
公式大会のカスタムは大会の1か月前からほぼ毎日開かれるので、ランドマーク争いにじっくり時間をかけられるけど、今回の大会は4日間。
正直ランドマーク争いに時間を取られたくない。1試合でも有効な練習にすることを考えると、激戦区は避けて争わずに確保できそうなところから選びたいんだよね。高天原は物資にそこまで差がないから真ん中寄りなら割りとどこでもいい。
「高天原は分かったけど、王家の谷はどこにすんだ? どのみち物資が旨いとこか真ん中寄りならぶつかるぜ?」
「多分大丈夫だと思う。ヴァーラ神殿跡地にしようかと思ってるんだよね」
「え、あそこ?」
「はぁ? マジかよ」
俺の提案したランドマークにひよりとSetoが驚きの声を上げる。まぁそりゃ予想外だよね。
ヴァーラ神殿跡地は、王墓の東側に位置しており、中央にあるにはあるけど、物資がとにかく渋いことで知られるエリアだからだ。
特別物資が潤沢な場所は除くとして、普通のランドマークならちゃんと漁れば全員青バリア以上で揃うし、だいたい1人は紫バリアを着用できる。
しかし、ヴァーラ神殿跡地だと全員青で揃うことが珍しく、誰かしらが最低限の白バリアになってしまうことがザラだ。
ノンレートですら好んで降り立つ人がいないくらいに不人気なランドマークを提示されたんだ。驚くのも無理はない。
「そこまで縛り加えなくていんじゃね? あそこガチで渋いぞ?」
「うん。確実に取れるとは思うけど…」
「2人が驚くのも無理ないね。ただ、俺は勝ちにいくつもりで提案してる。今回はガチで生存重視の序盤になるだろうから、物資の潤沢さよりも中央近くを取る方が重要になると思ってる。
あそこは王墓に隣接してるからほぼ中央だしね。初動は必要最低限の武器と物資を確保したら、安地目掛けてガンダ(ッシュ)していい場所を確保したほうが生き残れる」
「それは分かる。でも物資が渋いと移動が速くても中盤以降に物資の差で負けるくね?」
Setoの想像は何も間違ってない。仮に序盤の戦闘を回避して安地に先入りしたとしても、安地が狭まって部隊が密集したときにバリアや回復物資の差で圧し潰されてしまう。ただ、俺はその不利を解消する答えを用意していた。
「アルセーヌを使えば物資不足は解消する」
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